(ブラック・ブロック(黒い塊)は、街頭での抗議行動などにおけるデモンストレーションの戦術の1つで、各参加者が黒色の衣服、帽子、ヘルメット、サングラス、マスクなどを着用して行う。【ウィキペディア】
写真は、2007年、ハンブルクの反弾圧デモでのブラック・ブロック)
【「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」】
****W杯を脅かす若者たちの怒り****
マスクやバイクのヘルメットで顔を隠した集団が車を破壊し、警官にレンガを投げ付け、タイヤに火を付ける・・・。6月12日にワールドカップ(W杯)の開幕を控えたブラジルのサンパウロやリオデジャネイロでは、そんな光景が繰り返されている。
警察当局によれば、彼らは「ブラック・ブロック」という過激派グループだ。
しかし、取材に応じたサンパウロのAMと称する32歳の人物は、ブラック・ブロックは組織の名称ではなく怒れる若者たちのデモ戦術だと語る。
「ブラジルのスラムでは前からあった暴力行為が都市の真ん中に出てきたんだ」
ブラック・ブロックのデモ参加者の多くは左派でも右派でもなく、現在の「システム」全体に反対していると、AMは言う。
ブラジル政府はW杯に117億ドルもの大金をつぎ込む一方で、荒れ果てた学校や病院は放置していると、AMは怒る。
だが同時に、反W杯デモは世界的な運動の一部だとも考えている。
「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」
この戦術が誕生したのは1980年代のドイツ。警察と対峙した反原発派や不法占拠者が暴徒化したのがきっかけだ。その後、叩年前後の反グローバル化運動にも取り入れられ、ブラジルでは13年、公共交通機関の値上げに反対するデモで注目されるようになった。
運動の主力は10代から20代前半の若者たちで、中流や中流下層の出身者が多い。「新しい世代はすごく過激だ」と、AMは言う。「まともな仕事も子供も責任もないから、警察と正面からやり合うことを恐れないJ
W杯期間中の暴動は、再選を狙うルセフ大統領にとって大きな痛手になる。もっとも、デモ参加者の多くは野党を含む全政党に非難の矛先を向けている。
「若者たちはすべての政治家に失望している」と、社会学者のエステル・ソラノは指摘する。
「既存のシステムにはうんざりしているが、新しいシステムはまだできていない」【6月3日号 Newsweek日本版】
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W杯が開幕間近に迫るブラジルの問題(工事の遅れ、貧困・格差をなおざりにして巨大イベントに資金がつぎ込まれることへの人々の反発・抗議など)については、4月23日ブログ「ブラジル W杯開催を控えて続く社会混乱」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140423)などでも取り上げてきましたが、今日はそれ別の話です。
上記記事で非常に印象的なのは、「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」という言葉です。
確かに世界を見渡すと、各地で、様々の分野で、人々の直接行動・街頭行動が繰り広げられています。
アメリカの「ウォール街を占拠せよ」運動、ギリシャ危機時の緊縮財政への抗議行動、チュニジア・エジプトなどの「アラブの春」、ウクライナの親ロシア・ヤヌコビッチ政権の崩壊、タイの反タクシン派の反政府運動・・・・
日本の反原発運動もそうした流れのひとつでしょう。
形骸化し、機能不全に陥った代議制民主主義に対し、「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」という怒りの声のように思えます。
こうした怒りが代議制民主主義の枠組みの中に流れ込むと、先の欧州議会選挙における“フランス政界に激震、欧州議会選で極右政党が首位”【5月26日 AFP】、“反EU政党が首位=イギリス総選挙前、与党に衝撃―欧州議会選”【5月26日 時事】といったように、移民・イスラム排斥、反欧州統合などを掲げる極右ナショナリスト政党、過激な主張のポピュリズム政党が台頭し、既存の政治ステムは“激震”“衝撃”を受けるといった結果にもなります。
東西冷戦が西側が勝利する形で終わり、経済システムとしての自由市場経済と政治システムとしての代議制民主主義――すなわち自由民主主義が普遍的な価値観として認められた・・・かのようにも思われたのですが、今や代議制民主主義は限界を示しているのでしょうか?
しかし、直接行動・街頭行動で圧力をかけ、政治を動かした、あるいは動かそうとした結果として、大きな混乱を招いている事例も多々見られます。
エジプトにおける若者の抗議行動は、結局、長い政治混乱を招き、安定を求める人々は再び強権的軍事政権を選択したように見えます。
タイでは、民主主義を否定するような街頭行動の結果、軍事クーデターが起きています。
シリアでは、反政府行動は泥沼の内戦と化しています。
その国々における代議制民主主義の在り様は様々ですので、代議制民主主義が機能不全に陥っているのか、「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」という声が正当化されるのか、一般的なもの言いが難しいところがあります。
トルコでも反エルドアン政権の抗議行動が報じられています。
****大規模抗議計画も当局阻止=反政府デモ1年―トルコ****
トルコ最大都市イスタンブールで31日、エルドアン政権に抗議する大規模反政府デモ発生から1年に合わせ、デモの主要組織「タクシム連帯」が市内の広場や国内各地で抗議行動を計画し、大勢の市民がデモを試みたが、警官隊に阻止され、大きな衝突には至らなかった。
トルコのメディアによると、抗議活動が計画された市内のタクシム広場へ向かおうとするデモ隊と警官隊とのにらみ合いが続いた後、警官隊が放水や催涙弾を発射して追い払った。10人以上が負傷したもよう。首都アンカラなどでも抗議デモが行われたが、警察に鎮圧されたという。
警察はこの日、約2万5000人の警官や50台の放水車を投入して広場一帯を封鎖し、厳戒態勢を敷いた。エルドアン首相はデモ阻止のため「必要なことは何でもする」と警告していた。【6月1日 時事】
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【建前さえもかなぐり捨てた習近平政権】
西側諸国の政治的混乱や経済危機から、中国の強権的社会システムの効率の良さが云々されることもありますが、共産党一党支配のもとで人々の声を抑圧する体制が代議制民主主義に代わり得るものとは到底思えません。
代議制民主主義における直接行動の位置づけはいろんな問題をはらんでいますが、そもそも民主主義が存在しない国においては直接行動に訴えるしかありません。
代議制民主主義の存在しない中国にあっては、様々な問題で直接行動が頻発し、その弾圧が繰り返されていることは周知のところです。
その最たる出来事が、25年前の天安門事件でしょう。
****天安門事件25年 力での統治、中国に病巣…広がる官僚汚職****
寸鉄も帯びず、「汚職糾弾」や「民主化」を訴えた学生らが弾圧された中国の天安門事件は、改革開放路線下の約10年で築き上げた中国共産党指導部への期待や信頼を国内外で打ち砕いた。
力で民意を封じた統治思考は、四半世紀を経て、世界の大国となった中国の随所に病根を広げる結果をも招いている。
東西冷戦下にあった1980年代、米国を頂点とする当時の西側諸国は、共通の敵だったソ連に対抗するため、毛沢東時代の極左路線と決別したトウ小平体制下の中国と手を結んだ。
しかし89年、北京の天安門広場で、西側の基本理念だった「民主主義」を学生らが叫んだ直後、中国指導部は運動を「反革命暴乱」と決めつけ、戒厳部隊の武力で弾圧してしまった。
天安門事件に続いて起きた冷戦構造の崩壊で、中国の頑迷ぶりは一層際立つ結果となった。
それでもなお、中国は四半世紀にわたって事件の再評価を拒み、段階的な民主化に向けた「政治体制改革」を事実上棚上げして現在に至っている。
◆広がる官僚汚職
天安門事件後、中国が共産党支配体制の護持と引き換えに取ったのは、マルクス・レーニン主義の枠を踏み出す大胆な市場経済化だった。
この結果、中国は世界第2の経済大国に成長し、さらに事件に端を発した欧米諸国の対中武器禁輸をハネ返して、米露に続く軍事大国ともなった。
それほど巨大化した中国だが、国内では天安門事件の際、学生らから「官倒(官僚ブローカー)」として批判を浴びた官僚汚職は、度し難い規模に広がってしまった。
革命幹部の2世が既得権益を握る「太子党」も、事件当時の壁新聞が警告した通り、21世紀の今日、世代を超えた利益集団として改革を拒んでいる。
中国社会を覆う貧富の格差の拡大、環境汚染の深刻化、言論や思想の抑圧-。「政治体制改革」で期待されたチェック・アンド・バランスを欠いた統治のツケはあまりにも大きい。
◆進まぬ名誉回復
政治体制改革を共産党の路線目標に掲げた趙紫陽氏は、自宅軟禁のまま2005年に死去し、名誉回復のめどさえ立たない状態だ。
天安門広場での学生運動を理論面で支えた反体制知識人、厳家其氏(米国在住)は、産経新聞に対して「言論空間の後退」など中国の現状を強く憂慮したうえで「“六・四”(天安門事件)の再評価には、まず趙紫陽氏の平反(ピンファン)(名誉回復)が欠かせない。これなくして政治体制改革は不可能だろう」と語った。
天安門事件当時、30代半ばだった習近平国家主席は福建省の貧困地区で党務をつかさどっていた。弾圧には手を染めていない。習氏が政権在任中に事件の再評価に踏み込む日は来るのか。
現状でその兆しは見えない。だが、この四半世紀に堆積した矛盾や課題が中国を深くむしばみ、もはや放置できないことは、現指導部が最もよく知っているはずだ。【5月30日 産経】
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習近平政権は広範な汚職撲滅運動を行い、その象徴として元公安トップの周永康氏の処遇が注目もされています。また、李克強首相を先頭にした経済改革の取り組みも行われています。
しかしながら、習近平政権のもとで、人権派弁護士等へのこれまで以上に厳しい締め付け、民主や法治の実現を目指す「新公民運動」への弾圧が行われていることも事実です。
****(消される言葉 天安門事件から25年:3)学問の自由縛る「七不講」****
昨年5月初旬、法曹界に人材を輩出する上海の華東政法大学の教員だった張雪忠さん(37)は、定例会議のため約50人の同僚と会議室に集まった。すると大学の幹部が、授業で取り上げてはならないことを列挙し始めた。
「(人権などの)普遍的価値」「報道の自由」「(欧米式の)市民社会」「共産党の歴史的な過ち」「司法の独立」……
張さんは「当局がこれだけはっきり禁止事項を明らかにするなんて」と驚いた。
「七不講(七つの語るべからず)」と呼ばれる指示で、昨年春、党中央から各地の大学に出されたとされる。
中国政府はこれまで、「中国には報道の自由がある」「中国には中国式の民主がある」などと主張してきた。張さんは「政府の主張が建前なのはみんな知っている。しかし、現政権はその建前さえもかなぐり捨ててしまった」と感じた。(中略)
■習政権から強化
習近平(シーチンピン)指導部が発足した12年11月の党大会後、学内の言論の引き締めが強まってきたという。
「憲法に基づく政治の実現」といった当たり前のことを言っても、批判にさらされる。
大学のホームページやネット上の掲示板の監視も強まり、問題のある書き込みがすぐに削除される。
授業で外部から講師を招く場合、党の担当者らが事前に入念に審査してから可否を判断するようになった。
張さんが担当する教科は、七不講の指示に触れるような内容ではなかったため、授業に特段の支障はなかったが、教員の間で不満の声が高まった。しかし、学内はそれを大っぴらに言える雰囲気ではなかった。
■「独創性育たない」
張さんは昨年6月、憲法をないがしろにしている政権を批判する論文をネット上で発表した。この論文が大学で問題となり、大学側は翌月から張さんに授業をさせず、主張の誤りを認めるよう求めた。
自説を撤回しなかったため、昨年末で教員の身分を失った。張さんは、大学で言動が厳しく制限されている現状に危機感を募らせる。
「教員でさえ自由に語ることができないような教育から、独創性のある若者が生まれるだろうか」【6月1日 朝日】
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習近平政権は、6月4日で25年目を迎える天安門事件について、徹底した封じ込めを行っています。
****天安門事件25年 今月、拘束100人超に 評価見直し、遺族に広がる絶望****
中国で民主化を要求する大学生らが人民解放軍に武力弾圧された1989年の天安門事件から6月4日で25年を迎える。
中国当局は事件の評価見直しを求める動きが広がることを警戒し、今月初めから全国で人権、民主化活動家らを次々と拘束し、すでに100人を超えた。
「近年で最も厳しい締め付けを行っている」(民主化活動家)とされ、遺族らの間で「生きている間に事件の見直しはないかもしれない」といった絶望感が広がっている。(後略)【5月30日 産経】
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****中国 天安門事件で失脚の趙紫陽元総書記の側近連行****
1989年に中国・北京で起きた天安門事件で民主化を求める学生に理解を示したことで失脚した趙紫陽元総書記の側近が公安当局に連行されたことが分かり、海外メディアに接触させないねらいがあるとみられます。
関係者によりますと、公安当局に連行されたのは、趙紫陽元総書記の側近の鮑※とう氏(81)です。
鮑氏は天安門事件で民主化を求めた学生に理解を示し、軍による鎮圧に賛同しなかったとして解任された趙元総書記の秘書で、みずからも国の転覆をあおった罪などで7年間、服役しました。(※とうは「杉」の「木」が「丹」)(後略)【6月1日 NHK】
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現在も続く民主化や人権を求める動きに対する弾圧は、批判を許さないという天安門事件当時の対応と同根です。
「汚職糾弾」や「民主化」を訴えた学生らを武力弾圧し、戦車で踏みつぶした天安門事件を再評価し、当時の共産党政権の対応の間違いを明らかにすることなしに、中国の民主化はあり得ません。
“この25年間、学校教育でもメディアでも天安門事件はタブー視され、全く触れられていない。このため学生の多くは事件のことを知らず、「天安門広場でその日何かイベントでもあるのか」と聞く学生もいたという。”【5月30日 産経】