(牙を切断されたゾウの写真は正視にたえませんので、押収された牙の写真 6月5日、ケニア・モンバサで押収された象牙(ロイター=共同)【6月13日 時事】)
【巨大な牙をもつ「サタオ」の死】
ケニアで巨大な牙を持っていることで有名だったゾウが、象牙を目的とする密猟者によって殺されたそうです。
****巨大な牙で愛されたゾウ、サタオ殺害****
ケニアで最も愛されていたゾウの1頭サタオが命を奪われた。巨大な牙を得ることが目的だった。専門家たちは“とてつもない”損失だと嘆いている。
非営利団体(NPO)のトサボ・トラスト(Tsavo Trust)によれば、サタオはトサボ・イースト国立公園で毒矢に倒れた。矢を放ったのは密猟者で、サタオが苦しみながら息絶えるまで待ち、象牙を得るために顔を切断したという。
トサボ・トラストは一帯の野生生物と地域社会を守るために活動している。(中略)
サタオはとても目立つため、特別な保護を受けていた。それでも、守ることができなかった。
トサボ・トラストとケニア野生生物公社はこの18カ月、空と陸からサタオの動きを追っていた。トサボ・トラストによれば、「生前、サタオの巨大な牙は空からでも容易に確認できた」という。(中略)
1930~1940年代、アフリカ大陸には500万頭ほどのアフリカゾウがいただろうと推測されているが、現在は47万2000~69万程度まで減少している可能性が高い。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧II類に指定されている。
自然保護団体の見積もりでは、毎年3万~3万8000頭のゾウが象牙を得るために密猟されている。象牙の主な行き先は中国やタイといったアジアの消費国だ。(後略)【6月17日 National Geographic】
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密猟が絶えないのは、象牙が破格の値段で取引されるからです。
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現地の密猟者に支払われている値段が、キロが150ドルの値段ですが、これ150ドルというと、レンジャーの例えば給料の1か月分。
平均すると大体、残っている個体が13.5キロぐらいの象牙が取れるのですが、その13.5と言いますと、やっぱり年収をはるかに超えたキャッシュが、現金収入が一瞬にして手に入るということで、人をすごい迷わす道なんですが、そういうことが問題で、さらに高い値段で闇で取り引きされているので、それがほかに悪用されて、組織などに使われていることが多いです。【5月26日放送 NHK】
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象牙目的の乱獲を生み出す最終消費者は現在は中国が大きな割合を占めていますが、かつては日本が最大消費国でした。
****アフリカゾウ 乱獲の引き金****
乱獲の歴史は1970年代にさかのぼります。日本での象牙の大量消費が要因の1つでした。
高度経済成長期、人々はこぞって象牙の印鑑などを買うようになります。
アフリカゾウの象牙の3分の2を日本人が消費していたと言います。
1989年、ワシントン条約により象牙の国際取り引きは禁止され、乱獲に歯止めがかかります。
ところが、9年後、事態は一変しました。
きっかけは合法象牙の取り引きが制限付きで認められたことでした。 死んだゾウの象牙を市場に出すことは輸出国と消費国、お互いの利益にかなうと考えられたのです。
これまで2回にわたり取り引きが許可されています。輸入を求めた日本と中国が許可を受けました。
しかし、このことが密猟による象牙ビジネスを刺激しました。 象牙市場が再び活性化し、価格が高騰したからです。
日本でも違法な象牙が摘発される事件が相次ぎました。
こうした違法な象牙が流通しないように日本政府は、ワシントン条約以前の象牙と合法象牙に登録を求める制度を設けています。
しかし、登録証を悪用して象牙を売買するなどの事件も起きていて、密猟象牙が出回っている可能性も指摘されています。【同上】
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【ソマリアのイスラム過激派アル・シャバーブ:活動資金の40%が密輸象牙取引から】
ゾウの密猟が問題なのは、単にユニークな動物であるゾウの減少、絶滅が危惧されるだけでなく、密猟で得られる資金が、隣国ソマリアのイスラム過激派アル・シャバーブに流れ、そのテロ活動の資金源となっているからです。
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アッシャバーブは、どのような手口で地元の人々を密猟に巻き込んでいるのか。
ナイロビから北へ80キロ。 密猟が頻発する現場を訪ねました。
300人ほどが暮らすツルカナ族の貧しい村。 牛やヤギなどの家畜で生計を立てています。 出会ったのは3人の元密猟者です。 密猟を始めたのは10年前のことでした。
元密猟者
「ある日、ソマリアから男がやってきた。ゾウは肉は食えないが、金になると教えてくれた。 象牙だ、ゾウを殺して象牙を取ってくれば金になると。」
「仲買人は機関銃と自動小銃を持ってきた。 『いいか、これを使ってゾウを殺すんだ』って銃弾も与えてくれた。
『だけど、この銃と銃弾は俺のだから後で買い取れ』って言われたよ。とにかく、それで俺たちはこの道に入った。」
アッシャバーブは、紛争の続くソマリアからこの村に銃を持ち込み、貧しい村人に密猟をさせ象牙を手に入れていたのです。
こうした手口を使って活動資金の40%を、密猟象牙の取り引きで賄っていると見られています。
こうした事態に世界は敏感に反応しました。
元アメリカ国務長官 ヒラリー・クリントン「テロリストたちは活動資金を象牙の密輸で得ている。アメリカの人々の安全を脅かしている。 密猟の犯罪者に対し、私たちは行動を起こします。」
アメリカは、今年2月、国内での象牙の商業取り引きを全面的に禁止しました。
フランスはパリの中心部で違法象牙を粉砕。 取り締りの強化を宣言しました。【同上】
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密漁は取締り側との銃撃戦で命を落とすこともある危険な仕事ですが、住民がアッシャバーブの誘いなどで密猟に手を染めるのは、仕事が見つからない、干ばつで家畜が死んで生活ができなった・・・などの、厳しい生活状況があります。
【“森林犯罪”による取引額は世界の木材取引の30%】
密猟とテロ組織の関係に類似したものは、違法伐採にも見られます。
****環境犯罪の巨額収益、年2千億ドル?****
象牙売買、密漁、違法伐採、その他あらゆる環境犯罪に関わる世界の産業は、年間700億~2130億ドルの収益を上げ、その多くが犯罪組織、武装集団、テロ組織の資金源になっているという。国連とインターポール(国際刑事警察機構)が6月24日、報告書を発表した。
「過去の報告に比べ、その規模は急拡大している」と話すのは、国連環境総会の即応ユニットリーダー、クリスチャン・ネルマン氏だ。
「主な理由の一つは、特に木材や野生動物の生息環境に関して、組織犯罪に使用される手法がほんの数年前まであまり知られていなかったためだ」。
今回の報告書は「環境犯罪の危機(The Environmental Crime Crisis)」と題されたもので、毎年2万~2万5000頭のアフリカゾウが殺害され、推計1億6500万~1億8800万ドル相当の象牙がアジアへ渡っていると述べられている。
同時にサイの角の取引額は、推計6380万~1920万ドルに上る。密猟されたサイの数は2007年には50頭未満だったが、2013年には1000頭以上に増加している。
しかし今回の報告書で編集責任者を務めたネルマン氏は、違法な木材取引はさらに急速に成長しているようだと語っている。“森林犯罪”による取引額は年間推計300億~1000億ドルに上り、これは世界の木材取引の30%に当たる。(中略)
アフリカで消費される木材の約90%は、薪や木炭に使用されている。木炭は、エジプト、イエメン、サウジアラビア、オマーンなど中東の数カ国へ違法な輸出もされている。
報告書によると、ソマリア一国からの輸出額は年間3億6000万~3億8400万ドルと推計され、うち最大5600万ドルは、昨年ケニアで発生したウエストゲート・ショッピングモール襲撃事件に関与したイスラム過激派組織アル・シャバーブの支援に使われているという。(後略)【6月25日 ナショナルジオグラフィック】
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ミャンマーの少数民族問題も違法伐採・密輸の利権が絡んでいるという話は、6月11日ブログ「ミャンマー 少数民族問題 停戦後も残る地雷 停戦を複雑にする木材密輸権益」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140611)でも取り上げました。
こうした環境犯罪を防止するためには、供給現場での取締りと同時に、最終消費段階において違法性が疑われるものを購入しないという消費国の対応が求められます。
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(ケニアで若者たちに密猟をやめさせる活動を行っている女性)ジョセフィンさんは、アフリカゾウ密猟を巡って社会が荒廃していく状況をなんとか変えたいと考えていました。
ゾウは生きていれば観光資源になり、私たちの未来につながる。そう考え、密猟者を説得しています。
ジョセフィン・エキリさん
「私はゾウだけでなく、若者の命も助けたいのです。これまで銃撃戦で多くの若者が亡くなっていきました。 同じ部族の仲間たちを助けたいのです。」
ジョセフィンさんが密猟をやめさせた若者は19人。
しかし、仕事が見つからず、再び密猟に走ってしまう若者もいると言います。
ジョセフィン・エキリさん
「日本や中国など、象牙消費国にメッセージがあります。どうか密猟象牙を消費するのをやめてください。」【5月26日放送 NHK】
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