孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  日本周辺での軍事的プレゼンス誇示、北方領土の実効支配を強化

2011-09-12 22:16:05 | ロシア

(極東ウラジオストク 7月31日「海軍の日」 現代の各国の主力戦車は、シュノーケルを追加装備して水深3~5m程度の河川を潜水渡渉する事が出来るそうです。 “flickr”より By Nastya_Rudenkova http://www.flickr.com/photos/krii1/6003287009/in/photostream/

【「東」を目指すロシア
9月8日ブログ「ロシア 天然ガスパイプライン、羅先(ラソン)経済特区などで、北朝鮮へ接近」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110908)でも取り上げたように、最近、ロシアは北朝鮮を含む「東」へ向けた積極姿勢が目に付きます。

***ガス延伸、東向くロシア パイプライン、ウラジオに****
ロシア極東ウラジオストクで8日、サハリンから天然ガスを運ぶパイプラインの開通式典があった。ハバロフスク経由で総延長1800キロ。中国や北朝鮮、韓国への供給も視野にいれる。アジア太平洋国家として「東」を目指すロシアのエネルギーや安全保障政策を支える。(中略)

ウラジオストクでは現在、日本企業も参加してガスの液化工場をつくる事業の採算性調査を進めている。サハリン南端からのルートに加え、ここにもLNGの積み出し基地ができれば「出口が増え、日本も輸入がしやすくなる」とされる。

ただ、サハリンからガスを十分に供給できるのかとの懸念も出ている。ガスプロムは、14年に生産開始予定のサハリン3の鉱区を供給源の一つとしているが詳細は未公表。最終的な建設費用が約5千億ルーブル(約1.4兆円)になるとの見通しもあり、採算面の疑問も残っている。

■安全保障でも積極姿勢
天然資源を生かし、安保でも東を見すえる。中国とは昨秋、戦略的パートナーとしての共同声明を発表。北朝鮮経由のパイプライン計画も昨年末から動きが加速している。半島の安定化に向けて6者協議の枠内での影響力を示す狙いもあるようだ。

直接的にも動く。ロシア太平洋艦隊のミサイル巡洋艦ワリャークは、パイプラインの開通式に先立つ7日、拠点のウラジオストクを出港。日米それぞれと共同演習に臨む。舞鶴とグアムを訪れた後はカナダのバンクーバーにも立ち寄る。艦隊報道部は「アジア太平洋地域の安全のため、あらゆる形で協力範囲を広げる」という。

ロシアは今年から米国とともに、南アジア諸国や日中韓などでつくる東アジアサミット(EAS)の正式メンバーにもなった。11月の会議にはメドベージェフ大統領も出席する予定だ。ロシアは重要事項を協議する場としてこの枠組みを位置づけていくと見られている。【9月9日 朝日】
******************************

冷戦時代の「強いロシア」への回帰を目指す
日本周辺での、軍事的プレゼンスを強調するような行動も目立ちます。
8日には、ロシア軍の爆撃機2機が空中給油機を行いながら、約14時間かけて日本列島の周辺を1周して、注目を集めました。この“1周飛行”だけでなく、ロシア軍機の日本周辺の活動自体が近年活発化しています。

****ロシア軍の領空接近急増 北海道沖では演習計画*****
ロシア軍機が日本領空周辺に現れて航空自衛隊が緊急発進(スクランブル)する件数が増えている。同軍が今週、北海道の沖合で演習を計画していることも明らかになった。

8日午前6時、ロシア軍の爆撃機が朝鮮半島東側から南下し、沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋を北上。約14時間かけて日本列島の周辺を1周した。ロシア軍は途中、空中給油機まで投入。空自はスクランブルをかけた。

ロシア軍機へのスクランブル回数は2004年度は118回だったが、10年度は264回に急増。北海道上空から太平洋や日本海を南下して日本の防空識別圏に侵入し、空自がスクランブルをかけると引き揚げるケースが大半という。領空侵犯した例もあった。
飛行経路の延長線上に対空監視施設「レーダーサイト」(全国28カ所)がある場合が多く、防衛省幹部は「レーダーサイトを狙った爆撃訓練と情報収集が目的」とみる。(中略)

一方、ロシア軍が7日から週末まで北海道北東部の沖合に飛行危険区域を設定した。日本領空付近で軍事演習を計画しているとみられ、藤村修官房長官は8日の記者会見で「我が国の安全保障の観点から注視している」と言及。一川保夫防衛相も「怠りなく対応すべきだ」と語った。

防衛省幹部は「ロシア機へのスクランブルは今後も増える」と話す。プーチン大統領(当時)が07年に長距離戦略爆撃機による常時警戒飛行の再開を表明するなど、ロシア政府が経済発展を背景に軍の動きを活発化させている一環だとみているからだ。軍事アナリストの小川和久氏も「冷戦時代の『強いロシア』への回帰を目指しており、海軍の太平洋艦隊と連携するため、訓練と情報収集を兼ねた飛行を日本列島周辺で行っている」と指摘している。【9月9日 朝日】
**************************

更に、10日には、ロシア海軍艦艇が、20隻(9日の4隻を合わせると24隻)という近年にない規模で宗谷海峡をオホーツク海に向けて通過しています。

北方領土のインフラ整備促進
一方、北方領土に関しても、メドベージェフ大統領が昨年11月に国後島を訪問したあと、ロシア高官の国後、択捉島訪問が相次いでいましたが、11日には、連邦保安庁(FSB)の前長官でプーチン首相の側近でもあるパトルシェフ安全保障会議書記が国後島と歯舞群島の水晶島を訪れています。
“ロシア要人が北海道根室市の納沙布岬から約7キロの水晶島に入るのは異例で、北方四島の実効支配を誇示する狙いがあるとみられる。”【9月12日 毎日】

また、プーチン首相は8日、北方領土のインフラ整備などに12億ルーブル(約31億円)を追加支出する決定に署名したと明らかにしています。

****プーチン首相:北方領土のインフラ整備予算増額に署名****
ロシアのプーチン首相は8日、訪問先の極東ウラジオストクで、南クリル(北方領土)のインフラ整備などに12億ルーブル(約31億円)を追加支出する決定に署名したと明らかにした。首相に同行したイワノフ副首相によると、資金は国後、択捉両島の空港整備や択捉島の港湾建設などに使われるという。

ロシア政府はクリル諸島(北方領土を含む千島列島)の社会経済発展計画(07~15年)に当初180億ルーブル(約471億円)を見込んでいたが、昨年11月にメドベージェフ大統領が国後島を訪問した後、増額する方針を打ち出していた。

プーチン首相はサハリン産の天然ガスをハバロフスク経由でウラジオストクに運ぶパイプラインの完成式典に出席するためウラジオストク入りしていた。【9月9日 毎日】
*******************************

ロシア極東では人口不足で耕作できない農地が大量に余っている
ロシアによる日本周辺での軍事的プレゼンスの誇示、北方領土の実効支配強化という流れは、日本にとっては苛立たしい問題です。

ところで、ロシアの北朝鮮接近のひとつとして、“北朝鮮がロシア極東の広大な休耕地を借り受け、自国の労働者を使って耕作する案”が検討されています。

****北朝鮮、ロシアで「農地賃借」検討 自国民が耕作****
慢性的な食糧不足が続く北朝鮮がロシア極東の広大な休耕地を借り受け、自国の労働者を使って耕作する案をロシア側と協議していることが分かった。8月24日のロ朝首脳会談で北朝鮮が求めた最大40万トン規模の食糧支援にロシアが難色を示し、この案が浮上した。

北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記はメドベージェフ・ロシア大統領との会談で、30万~40万トン規模の食糧を無償で提供するよう求めた。ロシア側は有償での支援なら応じる考えがあるとし、休耕地の賃貸案を話し合った。ロシア・アムール州で実務協議が始まっており、借り受け面積は数十万ヘクタール規模になると見られている。北朝鮮の労働者がコメや大豆、小麦などを生産するという。

韓国政府関係者らによれば、ロシア極東では人口不足で耕作できない農地が大量に余っており、韓国企業や宗教団体が農地を借り受けている例もある。1千ヘクタールの耕地面積あたり年間約1500トンの食糧を生産した実績もあるという。【9月9日 朝日】
******************************

日本とロシアの間には、北方領土問題という喉に刺さった骨があります。

ただ、一般論として言えば、“固有の領土”とか、“条約に基づく正当な主権主張”とは言っても、国土とか国境線は結局のところ、そのときどきの力関係で決まっているのが現実です。
千年、二千年遡れば、一体何が“固有の領土”だかわからなくなりますし、物事の解釈は立場が異なれば異なる解釈もあり得ます。合法的な条約とは言っても、その条約自体が力関係や戦争によって押し付けられた不当なものといった主張も立場によってはあり得ます。

日本もロシア側の不当性を批判し、ロシアの行動に苛立っているばかりでは、戦争でもしない限り、おそらく百年たっても一歩も先には進まないでしょう。
北朝鮮の「農地賃借」の記事を見て思ったのですが、北方領土問題は一旦横に置いて、相手の懐に飛び込む形で、ロシアの余っている広大な農地を政府が間に入って借り受け、企業的に大規模農業を展開するという方策もいいのではないでしょうか。

国際競争を考えると日本国内での農業が難しくなりつつあるなかで、食糧安全保障の観点からもプラスになりますし、ロシアとの信頼関係醸成にも役立ちます。信頼の先には、現実的解決策としての北方領土も見えてくるでしょう。

アフリカなど途上国での同様の“農地囲い込み”は、新たな植民地主義との批判もありますが、相手がロシアであれば、そういった問題も出てこないでしょう。
もちろん満蒙開拓団とか南米移民政策のような棄民政策にならないように、十分に政府間で調査・検討したうえでの話ですが。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする