(9月12日 南部カンダハルで開かれた、南部地区の地域長老、自治体指導者と高等和平評議会メンバーを集めた会議で、アフガニスタンの平和・統合プログラムの重要性を力説するラバニ元大統領 この約1週間後に自爆テロで殺害されました。 “flickr”より By isafmedia http://www.flickr.com/photos/isafmedia/6158018317/ )
【ラバニ氏の死亡で、タリバンとの「和解」は絶望的】
20日、アフガニスタンでタリバンとの和平交渉にあたっていた「高等和平評議会」議長でもあるラバニ元大統領が自爆テロで殺害されるという衝撃的な事件がありました。
****アフガン:ラバニ元大統領殺害 自宅で自爆攻撃****
アフガニスタン警察当局によると、首都カブール中心部にあるブルハヌディン・ラバニ元大統領の自宅が20日、自爆攻撃を受け、ラバニ元大統領が死亡した。カルザイ大統領側近のマスーム・スタネクザイ氏ら2人も負傷した。
ラバニ氏は昨年10月から旧支配勢力タリバンとの和解を目指してカルザイ大統領が設置した「高等和平評議会」議長を務めていた。タリバンや武装勢力「ハッカーニ・ネットワーク」の犯行の可能性がある。ラバニ氏の死亡で、タリバンとの「和解」は絶望的となった。
ラバニ氏の自宅は日本大使館など各国大使館が集まる地区にある。武装勢力による首都攻撃は13日に米国大使館などが攻撃されて以来で今月2度目。アフガン政府は治安能力のなさを露呈した。
警察によると、自爆犯はラバニ氏の部屋に通された後、自爆した。高等和平評議会関係者によると、ラバニ氏はタリバンの兵士2人を自宅に迎えて和解について協議する計画だったという。和解に応じるそぶりをみせ、自爆犯が自宅に侵入した可能性がある。
ラバニ氏は旧ソ連軍が撤退した後の92年、大統領に選出されたが、その後、反大統領派と戦闘となり、内戦に突入した。タリバンが登場した94年以降、ラバニ派はタリバン政権と対立したため、高等和平評議会は当初から成功しないとの観測が出ていた。【9月21日 毎日】
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事前に武器・爆弾などを所持していないかチェックはしなかったのだろうか・・・・とも思ったのですが、AP通信などによると、頭に巻くターバンに爆発物を隠していたとのことです。
【「ハッカーニ・ネットワーク」の犯行の可能性】
ロイター通信は、タリバンのムジャヒド報道官は20日深夜、犯行を認めたと報じていますが、その後、タリバン側から「ラバニ氏暗殺に関する情報を収集中で、現段階では何もいえない」との発表もあり、タリバン内部の混乱・路線対立も窺わせる状況です
****アフガン ラバニ元大統領暗殺 タリバン「和平拒否」? 内部混乱も****
・・・・暗殺の実行犯は不明。ただ、地元警察はタリバンによる犯行の可能性が高いとしている。事実ならば、ラバニ氏の暗殺はタリバンが和平交渉を望んでいないことを示す強烈なメッセージといえそうだ。
ただ、タリバンは20日、一部メディアに犯行を認めたと伝えられたが、21日になってネット上に、「犯行を認めたとの報道は事実無根。現在、ラバニ氏暗殺に関する情報を収集中で、現段階では何もいえない」とする声明を発表した。テロの“成果”を誇張する傾向のあるタリバンの歯切れの悪い対応に、ラバニ氏暗殺をめぐり内部で混乱が起こっているのではないかとの臆測が出ている。【9月22日 産経】
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タリバン内でも最も過激な強硬派の「ハッカーニ・ネットワーク」の犯行ではないかとも推測されているようです。
****「和解交渉」装い面会時に自爆 タリバーン強硬派関与か*****
・・・・犯行声明などは出ていないが、この警察幹部は記者団に「タリバーンが関与している」と語った。
また、朝日新聞助手の取材に対し、複数のタリバーン関係者が、タリバーン内強硬派のハッカーニ派の関与を指摘した。同派はタリバーンの中でも国際テロ組織アルカイダとのつながりが強いとされ、パキスタンの国境地帯を拠点に米軍などへの越境攻撃を繰り返している。
米国などは今月13日にカブール中心部であった米大使館などを標的にした攻撃を同派の仕業だと見ており、パキスタン政府に対し、強硬手段をとるよう求めている。同派は米国やアフガン政府との和解にも否定的だとされる。【9月22日 朝日】
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ハッカーニ・ネットワークについては、以前、NHKスペシャル「貧者の兵器とロボット兵器 自爆将軍ハッカーニの戦争」でも報じられていますが、主として仕掛け爆弾と自爆爆弾でアメリカの最新ロボット兵器に対抗しているとのことです。
自爆のための「聖戦士」はパキスタンの部族地域で幼児から徹底的な宗教教育を行い、場合によっては麻薬を使用して判断力を失わせて、自爆要員に育て上げているとも。
タリバン内部の穏健派主導の和平交渉が進展することを嫌って、ハッカーニ・ネットワークのような強硬派が犯行の及んだ・・・ということでしょうか。
【「今後、民族対立が深刻化すれば、内戦の危機もある」】
今回事件の影響については、もともと期待が薄かった和平交渉が、更に困難になるとの見方が多いようです。
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アフガニスタンの元大統領で、イスラム原理主義勢力タリバンとの和平交渉を担う「高等和平評議会」の議長を務めるラバニ氏(71)が首都カブールの自宅で暗殺されたことで、今後の交渉の展望が見通せなくなっている。(中略)
タジク人のラバニ氏は、1992年からタリバンによる政権樹立の96年まで大統領を務めた。2001年にタリバン政権が崩壊するまでは、タリバンと戦った北部同盟の事実上のトップだった。昨年10月に約70人の国会議員や元タリバン政権閣僚などで構成する評議会の議長に就任した。有力政治家として存在感を発揮していたが、「パシュトゥン人を主体とするタリバンの敵だった人物に、評議会議長のポストはふさわしくない」との指摘もあった。
評議会については、成果を挙げていたとの評価はあまりない。ある評議会メンバーは、評議会ではタリバンの末端メンバーの切り崩しを進めるべきだとするラバニ氏の方針と、タリバン指導層に接触すべきだと主張する勢力があり、意見対立があったと明かす。【9月22日 産経】
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最悪のシナリオとしては、殺害されたラバニ氏がタジク人指導者だったことから、パシュトゥン人を主体とするタリバン、更にはカルザイ政権に対し、タジク人勢力が復讐に出て、内戦状態に陥る危険性も指摘されています。
****アフガン:元大統領暗殺、内戦の恐れ タジク人勢力復讐も****
アフガニスタンのブルハヌディン・ラバニ元大統領が旧支配勢力タリバンの自爆テロで暗殺された事件は、ラバニ氏がかつて率いた「北部同盟」関係者、とりわけラバニ氏と同じタジク人住民の間で猛烈な怒りを巻き起こしている。
その矛先は、タリバンの主勢力と同じパシュトゥン人のカルザイ大統領にも向けられており、米軍の撤収が進むなか、タジク人勢力が独自に武装してパシュトゥン人への復讐(ふくしゅう)戦をしかける恐れがある。
政府とタリバンとの「和解」は絶望的となり、アフガンが再び内戦へと突き進む危険性が高まっている。
カブール中心部では21日、ラバニ氏の自宅付近に数百人の支持者が集まり、元大統領の死を悼んだ。(中略)
ラバニ氏は、タリバンとの和解を目指してカルザイ大統領が昨年10月に設置した「高等和平評議会」の議長だった。かつてタリバンと激しい戦闘を展開したが、穏健派イスラム教指導者としてもタジク人の間で尊敬を集めていた。大統領がラバニ氏を和解交渉のトップに据えたのは、タジク人の間に根強い反タリバン感情を抑える狙いがあった。
国連総会出席を切り上げて帰国の途についたカルザイ大統領は、今後もタリバンとの和解を画策するとみられる。
だが、カブールの政治アナリスト、ハルーン・ミール氏は「ラバニ氏は米政府にも支持された人物だっただけに、カルザイ政権、米政府双方にとって、とてつもない打撃となった」と語った。(中略)
タジク人の野党指導者で、09年の大統領選でカルザイ氏と争ったアブドラ・アブドラ元外相は20日、「今回の事件で、我が国における『和解』が無意味なことが明確になった」と述べた。もう一人のタジク人政治家で北部バルフ州のヌール知事は、「タリバンが今後も勢力を回復し続ければ、国を北部と(タリバンが拠点とする)南部に分離することになる」と話した。「今後、民族対立が深刻化すれば、内戦の危機もある」(アナリストのミール氏)との観測が強まっている。【9月21日 毎日】
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米軍撤退後のアフガニスタン情勢の混迷を予感させる事件です。