孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  国連加盟申請を歓迎する西岸地区住民、冷やかなハマス、苦慮するオバマ大統領

2011-09-24 20:32:58 | パレスチナ

(9月23日夜、ヨルダン川西岸地区・ラマラのヤセル・アラファト広場 大型スクリーンに映し出されるアッバス議長の国連総会演説を熱狂的に見つめる数千人の群衆 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/6176245850/

【「『アラブの春』が到来した今、『パレスチナの春』、独立を求める時だ」】
各メディアが大きく報じているように、パレスチナ自治政府・アッバス議長はアメリカの制止を振り切る形で、国連加盟を申請しました。
アメリカが大枠を作っているイスラエルとの交渉が、ユダヤ人入植地問題などで膠着するなかで、国連に場を移して打開策を探る道を選択したと言えます。

****笑顔で申請書手渡し=パレスチナ議長、国連総長に****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、ニューヨークの国連本部の事務総長室で、潘基文事務総長に加盟申請書を手渡す際、しばらく言葉を交わし、笑顔で握手した。
アッバス議長は終始、晴れやかな表情。国連加盟申請には米国の強い反対があったが、信念が揺るぎなかったことをうかがわせた。議長はその後、一般討論演説のため、総会議場入り。起立した聴衆に大きな拍手で迎えられた。(後略)【9月24日 時事】
**********************

アッバス議長は国連総会の演説で、「関係国の努力をイスラエルがつぶした」とイスラエルを批判していますが、交渉の余地があることも言及しています。今回の国連加盟申請による国際圧力をてこに、有利な条件での交渉再開を意図したものでしょう。

****パレスチナの春」訴え=交渉の用意にも言及―国連総会演説でアッバス議長****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、国家としての国連加盟申請後、国連総会で一般討論演説し、停滞してきた中東和平交渉でのイスラエルの姿勢を非難。「アラブの人々が民主化を訴える『アラブの春』が到来した今、『パレスチナの春』、独立を求める時だ」と強調した。

同議長は昨年9月にオバマ米政権の仲介で始まった交渉に関し、「われわれは心を開き、相手の話に耳を傾け、真摯(しんし)な姿勢で臨んだ」とし、「関係国の努力をイスラエルがつぶした」と批判。イスラエルがユダヤ人入植活動を続けていることが交渉行き詰まりの最大の理由だと述べ、国連加盟申請に踏み切った背景を説明した。

一方で、「平和構築のためイスラエルに手を差し伸べる」と表明。占領や入植政策、戦争をやめ、公正さに基づく協調関係を築こうと呼び掛け、交渉の用意があることにも言及した。【9月24日 時事】 
***************************

西岸地区:「(アッバス議長を)見直した」】
アッバス議長の国連総会演説を、パレスチナの西岸地区住民は歓迎の姿勢を見せています。
この点では、“今のところ”、パレスチナでの支持低下も言われていたアッバス議長の求心力回復に繋がっているようです。ただ、今後、アメリカの拒否権発動などで頓挫したときどうなるかは、別問題です。

****パレスチナ:アッバス議長の国連演説に数千人が熱狂****
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラのヤセル・アラファト広場では23日夜、パレスチナ自治政府のアッバス議長による国連演説が大型テレビで放映された。見守っていた若者や家族連れなど数千人は、議長のポスターやパレスチナ旗を振りながら「誇り高い演説だ」などと熱狂的に歓迎し、お祭り騒ぎを繰り広げた。このほか西岸各地で集会があり、AFP通信によると計数万人が参加した。

ラマラの会場を家族8人で訪れた通信技師のオルワ・アルアハマドさん(31)は演説後、「アッバス(議長)は、米国の圧力に屈することなく我々の苦悩を堂々と世界に伝えた」と喜んだ。妹の大学生、マッサさん(21)も「国家承認まで時間がかかることを覚悟しているが、今日は皆が一人の指導者を支持し、一つの『国家』となった気がする」と興奮気味に話した。

アッバス議長は口調が穏やかで、パレスチナ解放機構(PLO)の故アラファト議長に比べて「カリスマ性に欠ける」との見方が定着していた。だが、今回の演説は集まった人々に好印象を残したようで、多くが「(アッバス議長を)見直した」と評価した。(後略)【9月24日 毎日】
******************************

ガザ地区:カフェに集まった客を解散させる
しかし、パレスチナのもうひとつの勢力、ガザ地区を実効支配するハマスは、今回申請に反対の声はあげてはいないものの、ヨルダン川西岸地区を基盤とする自治政府・アッバス議長の動きを冷ややかに見ています。
現在のハマスを除外した自治政府の正当性を否定しているハマスにとっては、アッバス議長の自治政府がパレスチナ代表として注目される現状は面白くないと思われます。
また、“力”でイスラエルに対峙しているハマスとしては、国連加盟申請で一体何が変わるのか?という思いもあるでしょう。

一方、イスラエルの境界封鎖が続くガザ地区住民には、現実問題として、今回申請の反動を不安視する空気もあるようです。

****パレスチナ国家承認を過激派が歓迎しない理由****
・・・・だが、パレスチナ内にもアッバスや自治政府の動きを冷ややかに見ている勢力がある。ガザ地区を実効支配するイスラム過激派ハマスだ。
イランやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラから支援を受け、アメリカにテロ組織指定されているハマスは、国家承認問題に関して自治政府とほとんど協議をしていない。
アッバスが率いるパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハの支配するヨルダン川西岸地区とガザ地区の見解は統一されておらず、ハマスのアラア・アル・リファティ経済大臣は「いつもどおり片一方(西岸地区)の考えだ」と語っている。

ハマスが疑問視しているのは、西岸地区だけを統治する自治政府がパレスチナを代表することの正当性だ。「ハマスは国家承認要請を支持していない」と、あるハマス幹部は語っている。

「国連には何も期待していない」
今年1月にアラブ諸国が国連に提出したイスラエルによるユダヤ人入植活動の非難決議案は、アメリカの拒否権で廃案になった。ハマスとファタハはこの動きをきっかけに融和に向けて動きだしたが、挙国一致内閣の実現に向けた協議は難航している。

ガザに暮らす住民の多くは、独立国家の承認で暮らしが好転するとは考えていない。拒否権発動をちらつかせるアメリカに盾突くことで、年間6億よほどといわれるパレスチナ支援金の支払いにも影響が出る恐れもある。ガザの住民の3分の2が貧困ライン以下で暮らす経済状況が改善することもなければ、イスラエルが過去4年以上実施している境界封鎖による不便が直ちになくなることもない。

もちろんアッバスが最後の最後でアメリカの圧力に屈する可能性もゼロではない。ただそうなれば、反イスラエル感情が強いアラブ諸国の多くで怒りが爆発しかねない。最近、イスラエルと国交を持つエジプトで大使館が襲われるなど反イスラエル感情が表面化している。その流れが、一気に大きなうねりに変わる恐れもある。【9月28日号 Newsweek日本版】
****************************

ハマスが実効支配するガザ地区では集会は禁止されており、今回もアッバス議長演説を歓迎するような集会は行われていません。演説の様子を報じる大型テレビを設置したカフェに集まった客を解散させた事例もあったようです。

アメリカ:オバマ政権の「失政」との批判
イスラエルはパレスチナの行動を「一方的だ」と非難しています。
自治政府に代わって徴収している関税の送金を停止するなどの制裁発動を示唆しており、情勢悪化は避けられないと見られています。

アメリカ・オバマ政権はパレスチナの動きを制止できず、その影響力低下を曝した形になっていますが、
オバマ大統領は大統領選挙を控えて、アメリカ社会で影響力の強いユダヤ人社会を敵に回したくないという事情もあって、イスラエル擁護の姿勢を強めていますが、今後、公言しているように拒否権発動という事態になると、今度はイスラム・アラブ政界を敵に回すようなことにもなりかねず、対応に苦慮している状況です。

****米、中東での影響力低下****
オバマ米大統領はパレスチナ自治政府のアッバス議長に国連加盟申請を思いとどまらせることができず、かえって国際社会における孤立感を深め、米国の影響力と指導力の低下を露呈した。
米国が国連安保理での拒否権行使をちらつかせてもパレスチナは折れず、イスラエルに入植活動の凍結を求めても聞き入れられない。米中東和平外交は手詰まり状態に陥っている。

「パレスチナに融和的なオバマ大統領が危機(国連加盟申請)を招いた」(共和党の大統領選有力候補ペリー・テキサス州知事)--。米国内では今回の事態をオバマ政権の「失政」と批判する声が強まっている。
オバマ大統領は21日の国連総会での演説で、パレスチナの加盟申請に反対する一方、米国とイスラエルの同盟関係は「揺るぎない」と明言、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の歴史まで持ち出してイスラエルを擁護した。

だが、オバマ大統領は4カ月前の中東政策演説(5月19日)で、イスラエルがヨルダン川西岸とガザ地区などを占領した第3次中東戦争の以前の境界線を前提とした和平交渉を求め、イスラエルの猛反発を招いたばかり。交渉の仲介役であるべき米国がイスラエル、パレスチナ双方の不信と反発を買う事態となっている。

米国の「盟友」として和平交渉を仲介してきたエジプトのムバラク前大統領の不在も、オバマ政権の立場を難しくしている。安保理で拒否権を行使すればアラブ社会の反米感情をかき立て、反米・反イスラエル勢力が台頭する恐れがある。拒否権行使がイスラエルを巡る安全保障環境を悪化させる可能性もあり、「できれば拒否権行使を回避したい」のがオバマ政権の本音だ。来年の再選を目指すオバマ大統領は米国内のユダヤ系有権者の票と資金力を意識せざるを得ず、難しい対応を迫られている。【9月23日 毎日】
**************************

英仏:中東民主化での成果を台無しにしたくない
中東の民主化のなかで、一定に存在感を示したフランス・イギリスは、その“成果”をなんとか維持しようと動いています。

****パレスチナ国連加盟問題 説得は平行線 英仏苦悩、オブザーバー国家模索****
米国がパレスチナの国連加盟申請に拒否権を行使すると表明したことで、安保理常任理事国の英仏両国は、国連総会でパレスチナをバチカンと同じ「非加盟のオブザーバー国家」として承認することが可能か水面下で懸命の調整を続ける。英国は、中東和平交渉を脅かすいかなる行動も支持しない方針だが、対米関係と中東民主化の双方に配慮せざるを得ないジレンマから、明確な姿勢を示せないでいる。

英仏両国は、リビアへの軍事介入を主導し、カダフィ政権崩壊に大きな役割を果たし、「アラブの春」と呼ばれる中東の民主化の流れを支援する姿勢を国際社会に印象づけることに成功した。
政治リスクを賭して得た外交上の資産を台無しにしないためにも、安保理で米国と同じ拒否権行使という選択肢は取れない。できれば棄権も避けたいのが両国の本音だ。パレスチナの国家承認に正面から反対すれば、中東の民主化勢力の反発を招きかねないからだ。

このため、サルコジ大統領は国連総会の演説で、米国がパレスチナの国連加盟申請に拒否権を行使すれば流血の事態を引き起こす恐れがあるとし、パレスチナのオブザーバーとしての地位を現在の「機構」から「国家」に格上げすることを求めた。

しかし、英国は、キャメロン首相が対米関係を重視する姿勢から「和平交渉を通じた2国家共存」を支持し、パレスチナ支援を明確にすべきだというクレッグ副首相やヘイグ外相と意見が対立しているとされる。
ジレンマに陥った英国は米国の孤立化を防ぐ意味でも、オブザーバー「国家」の承認を求める決議案に(1)パレスチナ側が正式な国連加盟申請を取り下げる(2)パレスチナが無条件で和平交渉のテーブルに戻る(3)イスラエルを法的に追い詰めない-という3条件を盛り込むよう、ギリギリの外交努力を続けている。【9月23日 産経】
*****************************

いわゆる「4者協議」による行程表も発表されていますが、実現は難しいと見られています。
****中東和平交渉、妥結求める行程表…4者協議****
パレスチナの国連加盟申請書提出を受け、中東和平に関する米国、ロシア、欧州連合(EU)、国連の「4者協議」が23日、国連本部で開かれ、前提条件なしの和平交渉再開と2012年末までの交渉妥結を求める行程表を発表した。和平への展望を示すことで、イスラエルの反発を抑え、パレスチナにも交渉復帰を促す狙いだ。

行程表は、〈1〉今後1か月以内に予備交渉を開き議題を決める〈2〉3か月以内にパレスチナとイスラエルが国境画定と治安対策の提案を行う〈3〉12年末までに交渉妥結――との内容。だが、入植中止を交渉の前提条件とするパレスチナと、占領地からの全面撤退に否定的なイスラエルの間の溝は深く、実現は困難が予想される。【9月24日 読売】
***************************

【「切り札」か「賭け」か
アメリカの拒否権発動ということになれば、反動としてパレスチナ側のイスラエルへの抵抗姿勢は強まり、姿勢を硬化させているイスラエルとの衝突が懸念されています。
また、「アラブの春」で重しのとれたイスラム世界の世論も、反イスラエルの姿勢を強めることが予想されます。
今回国連加盟申請は、パレスチナ自治政府にとって、独立国家樹立の悲願を国際社会にアピールする「切り札」ですが、その結果がどうなるかは見通しのきかない“賭け”でもあります。

そのとき日本は・・・
日本政府の対応は“(アッバス議長が国連演説で)「アラブの民衆が民主主義を切望する『アラブの春』を経て、今はまさに『パレスチナの春』。我々の独立の時だ」と述べ、申請書の写しを掲げると、多くの国の代表団が立ち上がり、1分ほど盛大な拍手を送った。イスラエルと米国は反応しなかった。玄葉光一郎外相ら日本政府代表団は、座ったまま、静かに拍手していた。”【9月24日 朝日】ということです。
首相交替などもあって、独自の対応策が決まっておらず、欧米諸国と“横並び”で・・・という、いつもの対応のようです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする