孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  サレハ大統領帰国で混乱悪化、内戦再燃の懸念も

2011-09-29 20:42:26 | 中東情勢

(9月25日 帰国後初のTV演説で「早期選挙を通じた平和的な権力移譲」を語るサレハ大統領 しかし、即時退陣には言及せず、反体制派との衝突は激しさを増しています。 “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6182623044/

【「私は平和のハトとオリーブの枝を持って帰ってきた」】
反政府運動の混乱が続くイエメンでは、6月3日の大統領府への砲撃で負傷し、サウジアラビアの病院に入院し、その後3か月間サウジアラビアに滞在していたサレハ大統領が23日に帰国しました。
サレハ大統領は帰国に際し、「私は平和のハトとオリーブの枝を持って帰ってきた。誰に対しても恨みや憎しみは持っていない」と語ったそうですが、大統領が持ち帰ったのは“平和のハトとオリーブの枝”ではなかったようです。

サウジアラビアなどペルシャ湾岸諸国でつくる湾岸協力会議(GCC)はサレハ大統領の退陣による事態収拾策を探ってきましたが、サレハ大統領は「対話によって流血を止めることが解決策だ」との対話を呼びかける言葉とは裏腹に、退陣要求をあくまでも拒否し、反政府運動を力で抑え込むつもりのようです。

政治的な解決は一層遠のいたといえる状況で、首都サヌアでは、反政府デモ隊に対して治安部隊が発砲し、連日多数の死傷者が出おり、状況は悪化しています。

****デモ隊ら40人死亡=サレハ大統領帰国で事態悪化―イエメン****
反体制デモが続くイエメンの首都サヌアで24日、政府軍の砲撃などでデモ参加者や軍を離反した兵士ら40人が死亡した。AFP通信が伝えた。サレハ大統領が23日に約3カ月半ぶりにサウジアラビアから帰国したのを受け、事態は悪化する様相を呈している。

サヌアでは、大学周辺の大通りでサレハ政権退陣を求め、数千人が泊まりの抗議を続けている。大通りに迫撃砲が撃ち込まれたほか、狙撃手も発砲した。また、デモ隊側に付いたアリ・モフセン・アフマル元大将率いる離反軍の拠点も狙われた。

6月の暗殺未遂事件で負傷し、サウジで治療していたサレハ大統領は帰国後も、湾岸協力会議(GCC)がまとめた権力移行案を拒否する姿勢を崩していない。大統領の帰国で勢いづいた大統領支持派の民兵もデモ隊への攻撃に加わっているもようだ。【9月24日 時事】 
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即時退陣には言及せず
25日のTV演説でも、「早期選挙を通じた平和的な権力移譲」を提案してはいるものの、反体制派が求める即時退陣には言及しておらず、大統領支持派、反体制派双方の対立は激化しています。

****イエメン:「早期選挙で権力移譲」 サレハ大統領、帰国後初演説****
イエメンのサレハ大統領は25日、療養先のサウジアラビアからの帰国(23日)後初めてテレビ演説し、「早期選挙を通じた平和的な権力移譲」を提案した。一方、大統領は、民主化デモ隊が求める即時退陣には言及せず、「テロリストが権力を狙っている」と反大統領派を批判した。デモ隊側の反発は確実で、混乱が収拾するめどはまったく立っていない。首都サヌアではこの日も大統領派部隊の発砲でデモ隊2人が死亡した。

サレハ氏は過去にも早期選挙の実施に言及。サウジ主導の湾岸協力会議(GCC)や米欧が調停した権力移譲案についても、受け入れを明言しなかった。対話の重要性は強調したが、大統領派と反大統領派の交戦にまで発展している混乱の収拾につながりそうな発言は何もなかった。

サヌア中心部に集まった反大統領派からは演説中から批判の声が上がる一方、大統領派は花火や祝砲を打ち上げるなどして支持を示した。一方、反大統領派デモ隊に対する治安部隊の発砲は25日も発生、2人が死亡、18人が負傷した。18日から続くサヌアでの両派衝突による死者は少なくとも130人になった。

GCCや米国はサレハ氏の帰国を受け、早期権力移譲を改めて求めており、米国務省は24日、サレハ大統領を名指しして改めてGCC調停案の早期受け入れを求めた。国連安全保障理事会も24日、議長声明で暴力行為の中止を要請した。【9月26日 毎日】
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またサレハ大統領は演説で、権力放棄と引き換えに退陣後の訴追免除を受けるとするGCCの仲介案を尊重する姿勢も示してはいますが、実際には仲介案への署名を拒否しており、権力にこだわる姿勢は崩していないと見られています。
サレハ大統領は、これまでも権限移譲を受け入れるような発言をしながら実際は署名せず弾圧を続ける・・・ということを繰り返してきましたが、現在も変わっていないようです。
権限移譲の相手とされているハディ副大統領についても、サレハ大統領は同氏に国を去るよう圧力をかけているとも報じられています。【10月5日号 Newsweekより】
これまでの言動から、「早期選挙を通じた平和的な権力移譲」といった発言も、額面通りには信用できません。

****イエメン:大統領帰国…3カ月ぶり 治安の混乱、深刻化****
・・・サレハ大統領の帰国は、サウジが主導する湾岸協力会議(GCC)や米欧による権力移譲の直近の調停が不調に終わる中で伝えられた。オマル国連事務総長特使は22日、ロイター通信に「政治解決が実現しない限り、イエメンは分解し、暴力は国内各地に拡大する」と懸念を示した。

GCC調停案では、サレハ氏はハディ副大統領に権限を委譲する見返りに身の安全と訴追免除を保証される。しかし、南北イエメン時代から33年間にわたり大統領の座にあるサレハ氏は受け入れを拒否。最近になってハディ氏にGCC案に基づく交渉・署名権を与えたが、大統領は新政権で長男アフマド氏の国防相就任を要求しているとされる。

サヌアではサレハ氏のおいや息子が指揮する軍・治安部隊と、離反した軍部隊や反大統領派部族の武装集団の間で戦闘が続いている。権力の空白と首都の混乱に乗じる形で南部では国際テロ組織アルカイダとの関連が疑われるイスラム過激派が一部都市を制圧しており、治安の混乱が深刻化している。

紛争激化は民間人の死傷や生活環境の悪化を招いている。国連児童基金は20日、子供の栄養失調や伝染病の拡大が懸念され、「イエメンは人道危機に直面している」と指摘。ピレイ国連人権高等弁務官も22日、暴力行為の即時中止を訴えた。【9月23日 毎日】
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【「三重苦」に加え、権力闘争で内戦再燃の懸念
首都サヌアなどでは9月中旬以降、サレハ大統領の長男アハマド氏が率いる精鋭部隊などが反体制派への攻撃を再開し、これまでに170人以上が死亡していますが、サレハ大統領側が、大統領不在の間に政権移行プロセスが進むことを恐れたためだとの見方がなされています。【9月27日 産経より】
また、GCC・欧米仲介による協議で影響力を行使できないとみた反体制派も治安部隊との戦闘を再開し、GCCの交渉担当者たちがイエメンから追い出され、協議も中断-サレハが突然帰国したのは、そんな状況下でした。【10月5日号 Newsweekより】

実際、大統領不在の「権力の空白」のイエメンでは、従来からの北部ザイド派の抵抗、南部の分離独立運動、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の活動という「三重苦」に加え、1月からの民主化運動が「サレハ後」をにらむ有力者間の権力闘争に変質し、内戦再燃が懸念される状況にもなっています。

****イエメン:内戦再燃の懸念 民主化騒乱、権力闘争に変質****
・・・・1月からの民主化騒乱は「サレハ後」をにらむ有力者間の権力闘争に変質。周辺国が権力移譲を調停中だが、リビアなどに比べ国際社会の関心は薄く、90年代の内戦が再燃する懸念が強まっている。(中略)

大統領派部隊はサレハ氏のおいヤヒヤ氏が指揮する中央治安部隊や、長男アフマド氏が率いる精鋭の共和国防衛隊が中心。
反大統領派軍部隊は、サレハ氏から3月に離反した第1機甲師団司令官のアリ・モフセン氏が指揮している。さらに、実業家で有力部族長のハミド・アフマル氏も、サレハ氏に対抗して配下の武装部族民を動員いるとされ、三つどもえの戦いになっている。(中略)

権力闘争の激化は、国内の混乱をさらに悪化させるのは確実。イエメンでは欧米を標的にしたテロ未遂事件を起こした「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が活動、北部ではイスラム教シーア派の一派ザイド派が中央政府と武力衝突を続ける。南部には分離独立を求める勢力も残り、治安面では「三重苦」に直面する。

イエメンの「破綻国家」化は、世界最大級の産油国サウジや、アルカイダ系イスラム過激派組織「アルシャバブ」や海賊が拠点とするソマリアなど近隣諸国にも波紋を及ぼしかねない。【9月21日 毎日】
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“サレハ氏はこれまでも、たびたび内戦の危機を“演出”し、自身が退陣すれば「権力の空白」が生じるとの不安をあおることで、周辺国の最低限の支持をつなぎとめる戦術をとってきた。サウジが今回、仲介案への署名を拒否し続けるサレハ氏の帰国を認めたことは、同氏にとっては思惑通りの展開だといえる”【9月27日 産経】

27日には、イエメン南部のアデンで、アリ国防相の車列を狙った車爆弾テロがあり、国防相の命に別条はないが、護衛の兵士7人が負傷したと報じられています。
大統領派・反体制派の衝突、従来からの「三重苦」と、火種は山ほどありますので、どの勢力による犯行かはわかりませんが、内戦再燃、「破綻国家」化に向けて泥沼に陥っているイエメンです。

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