(“flickr”より http://www.flickr.com/photos/taoufiq/6022260908/in/photostream By توفيق)
【90日間で乳幼児約3万人が餓死】
7月29日ブログ「ソマリア 深刻化する飢餓 武装勢力の壁に苦しむ支援活動」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110729)などでも取り上げてきたように、過去60年で最悪の干ばつに襲われている東アフリカですが、内戦で実質的無政府状態が続くソマリアの混乱は特に厳しく、過去20年間のアフリカで最悪の食糧危機に苦しむソマリア南部2地域に、7月、国連は飢饉を宣言しました。
国連は、「1000万人が餓死しかねない」とも警告しています。
アメリカ政府は8月3日、過去90日間に5歳未満の乳幼児2万9000人以上が餓死したとの推計を発表しています。
【支援活動を制限するアルシャバブ】
しかし、武装勢力支配地域における援助団体による救済活動は困難に直面しています。
****ソマリア飢饉、支援を拒む過激派の正体*****
(イスラム過激派)アルシャバブは2010年以降、支配地域内における外国の支援団体の活動を禁じていたが、今年7月に入ってその措置を取り下げた。とはいえ、WFPをはじめとする大手支援団体に対しては、今後も活動を認めないという。
政治アナリストらは、飢饉宣言によってアルシャバブは難しい立場に追い込まれたと指摘する。食糧支援を受け入れなければ市民の不満が爆発する恐れがあるからだ。しかしアルシャバブ内の強硬派にとっては、欧米の組織が自分たちの支配地域で食料を配布する事態は受け入れがたい。
WFPによれば、アルシャバブの支配地域で飢えに苦しみながら、支援を受けられずにいるソマリア市民は200万人以上。WFPは今後も支援が必要な地域へのアクセス確保に努めると同時に、最後の手段として空中からの物資投下も検討している。
前述の報告書によれば、アルシャバブが欧米諸国やキリスト教と関係する慈善団体にとりわけ強い敵意を抱いているのは、組織内に入り込んだ外国人メンバーからの影響が大きいという。「アルシャバブ指導層が外国人メンバーから悪影響を受けているのは明らかだ」と、報告書には記されている。情報筋によれば、アルシャバブには外国からの聖戦士も数百人参加しているらしい。
アルシャバブは支援団体に対して、支配地域への「立ち入り料」として1万ドルを支払うよう求めている。さらに、「登録料」として1万ドル、「更新料」として半年ごとに6000ドルを要求。そのうえ、支配地域に運び込む支援物資の価格の20%相当、すべての車両に10%の税金を課している。【8月1日 Newsweek】
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【飢饉はソマリア南部全域へ】
その後飢饉の状況は更に悪化し、国連人道問題調整事務所は、飢饉は今後数日中にソマリア南部全域に拡大するとの見通しを示しています。
****ソマリア飢饉、南部全域に拡大の見通し 国連****
国連人道問題調整事務所(OCHA)は2日夜に発表した報告で、飢饉(ききん)が発生したソマリア南部の状態は、国際社会の大規模な支援にもかかわらず悪化しており、飢饉は今後数日中に同国南部全域に拡大するとの見通しを示した。
これによると国内避難民は減ってきているものの、栄養失調の人の割合や死亡率は上昇傾向にあり、伝染病も広がっているという。
国連は7月にソマリア南部のバクール地方とシェベリ川下流地方が飢饉の状態にあると宣言したのに続き、8月上旬には首都モガディシオと世界最大の国内避難民キャンプがあるアフグーィ回廊など3地域も飢饉の状態にあると宣言した。
国連の定義によると、飢饉になると全体の20%以上の世帯が極度の食糧不足に陥って人口の30%以上が急性栄養失調になり、毎日1万人当たり2人が死亡する状態になる。
国連によると、ソマリア、エチオピア、ジブチ、ケニア、ウガンダなど「アフリカの角(Horn of Africa)」と呼ばれるアフリカ大陸北東部では1240万人が過去数十年で最悪の干ばつの影響を受けて人道支援を必要としている。
イスラム過激派組織アルシャバブはモガディシオからは撤退したが、飢饉に襲われたソマリア南部の支配地域では依然として援助活動を制限している。【9月3日 AFP】
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【「すべてのソマリア人にはソマリアで生きる権利がある」】
国連としても事態を憂慮し、常駐の国連難民調整官を派遣し、支援体制強化を目指しています。
****ソマリア飢饉 国連が支援テコ入れ 常駐調整官派遣へ****
干ばつで深刻な飢饉(ききん)が起きているソマリア南部に、国連が近く事務所を設け、常駐の国連難民調整官を派遣する。イスラム武装組織シャバブによる実効支配で国連はソマリア国内での活動を制限されているが、拠点を置くことで支援のテコ入れを図りたい考えだ。
グテレス国連難民高等弁務官が30日、拠点が置かれるエチオピア国境近くのソマリア南部ドローを訪れた。ドローには、食糧を求め逃れてきた難民数百家族が枯れ枝と古着で作った粗末なテントに暮らす。国連はNGOなどが始めた食糧配給センターなどを拡充、予防接種や簡単な診療を行う医療施設も設ける。
グテレス氏は現場で声明を発表し、「すべてのソマリア人にはソマリアで生きる権利がある。(シャバブなど)すべての関係者は、援助の中立性を尊重してほしい」と訴えた。【8月31日 朝日】
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【援助物資の横流しも】
国連安全保障理事会は7月15日、ソマリアの治安が依然として劣悪で、飢饉が深刻化している状況に「重大な懸念」を示すとする報道陣向け声明を採択しました。
ただ、国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、飢饉の対策に向けてOCHAが国際社会に要請した約10億ドル(約770億円)の緊急支援のうち、半分程度しか集まっていないとのことで、国際社会の取組は十分とは言えない状況です。
支援する側すると、財政的に余裕がない国内事情に加え、援助物資が飢えに苦しむ住民に届くのか確信が持てない状況もあり、支援への取り組みを鈍らせることにもなっています。
****日本からの援助物資、市場で販売…ソマリア****
飢饉が広がる東アフリカのソマリアで、日本などから提供された援助食糧が盗まれ、市場で販売されていることがわかった。 AP通信が15日、独自調査として報じた。
同通信によると、首都モガディシオの市場では、日本や米国際開発庁(USAID)、世界食糧計画(WFP)のマーク入りの袋に入った食糧が売られているという。WFPは同通信に、物資が盗難されている疑いが浮上し、2か月前に調査を始めたと明かした。
ソマリアでは300万人以上が食糧難に直面。国連や援助団体が国際社会に緊急援助の拡充を求めている。【8月16日 読売】
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【「アフリカが初めて連帯の精神を見せた」】
また、アフリカ諸国も支援に乗り出していますが、力の入れようは“いまひとつ”の感もあります。
****「アフリカの角」飢饉でAU首脳会議、拠出額は270億円に****
アフリカ連合(AU)は25日、エチオピアの首都アディスアベバで、「アフリカの角」と呼ばれる大陸北東部の深刻な飢饉問題への資金拠出について話し合う首脳会議を開いた。
AU委員会のジャン・ピン委員長は、アフリカ開発銀行(AfDB)が長期的な事業の費用として拠出を約束した3億ドル(約230億円)にアフリカ各国や民間から拠出の表明があった金額を合わせると、最終的な拠出額は3億5170万ドル(約270億円)になったと述べた。
首脳会議の議長、赤道ギニアのテオドロ・オビアン・ヌゲマ・ムバソゴ大統領は「アフリカの問題を解決するために、アフリカが初めて連帯の精神を見せた」と資金提供の動きを歓迎した。
しかし、首脳会談に出席した各国の首脳は、エチオピアのメレス・ゼナウィ首相、ジブチのイスマイル・オマル・ゲレ大統領、ソマリアのシェイク・シャリフ・アハマド暫定政府大統領、赤道ギニアのヌゲマ大統領の4人にとどまった。(後略)【8月26日 AFP】
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【「世界で最も危険な亡命ルート」で、もうひとつの飢餓国へ】
グテレス国連難民高等弁務官は「すべてのソマリア人にはソマリアで生きる権利がある」と発言していますが、ソマリアでは生きていけない現実もあり、国外への脱出を試みる住民も多くいます。
しかし、命がけでアデン湾を越えて対岸のイエメンに逃れても、イエメン自体が、国民の栄養失調の割合が世界で3番目に高い飢餓国であるという厳しい現実があります。
****ソマリア難民を待つもう一つの飢餓の国****
最悪の飢饉から逃れるため、ソマリアを脱出する難民が行き着く先は、同じように飢餓と情勢不安が深刻化するイエメンという悲劇
内戦と干ばつにより、過去60年間で最悪の飢饉にあえぐソマリアでは、海を渡ってイエメンへ逃れる難民がここにきて急増している。
彼らは粗末な密航船にスシ詰めになって、アラビア半島とアフリカ大陸を隔てるアデン湾を横断する。しかし命の危険を冒してやっとたどり着く先は、国民の栄養失調の割合が世界で3番目に高い飢餓国だ。
8月だけでも、既に3700人のソマリア難民がイエメンへ流入。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、月単位では今年に入ってから最も高い流入率だという。ソマリア難民の流入は今に始まったことではない。例年、多くの難民船がソマリア北部の港町ボサソからイエメンにたどり着くが、今年はピーク時期が早まっているようだ。
ソマリア難民は、「不安定な治安や深刻な干ばつ、食糧価格の高騰や雇用難」から逃れようと、支援団体が呼ぶところの「世界で最も危険な亡命ルート」を渡ってイエメンを目指す。
「イエメンの情勢は極めて不安定だ。そんな国を逃亡先に選ぶということは、ソマリア難民がそれだけ死に物狂いだという証拠だ」と、UNHCRの広報官エイドリアン・エドワーズは先週末に語った。「彼らは、粗末な密航船に詰め込まれてアデン湾を渡る。危険な航海で命を落とす者も多い。月曜にも、ボートが転覆してソマリア人2人が溺死したばかりだ」
ケニアに流入する人数は減ったが
イエメンでは、今年初めからサレハ大統領の即時退陣を求めるデモが続き、治安と人道問題が悪化の一途をたどっている。その一方で、今や中東地域で2番目に多い19万2000人のソマリア難民を抱えている。UNHCRによれば、そのうち約1万5000人は今年に入ってからイエメン入りしたという。
他の周辺国の同じ状況かというと、そうでもない。ソマリアと国境を接するケニアでは、流入するソマリア難民の数は減少している。ケニアにいるソマリア難民は49万8000人近くに上るが、1日当たりの到着人数は従来の1500人から1000〜1200人にまで減少した。
それでも、UNHCRは今後数カ月の間で、イエメンにたどり着くソマリア難民の数はさらに増加するとみている。「家を捨てた多くのソマリア人が、既にボサソで待機しているとみられる。彼らは海が静まるのを待ってから、密航するつもりだろう」と、エドワーズは言う。【8月29日 Newsweek】
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アデン湾を渡る「世界で最も危険な亡命ルート」は、単にボート転覆などの事故だけでなく、法外な追加費用を要求して、払えない者を海に投げ捨てる・・・などの悪徳仲介業者が横行していることでも知られています。