孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  「変化」をアピールする新政権

2011-09-18 20:50:59 | ミャンマー

(首都ネピドーのナイトマーケット ネピドーの写真と言うと、真新しい建物とひと気のない空間・・・といったものが多かったのですが、開発が進むにつれて一般市民も増加し、こうした他の町と同じようなマーケットも見られるようになっているようです。 “flickr”より By A.LwinDigital http://www.flickr.com/photos/a-lwin/5830074218/in/photostream/

議会では、政治囚恩赦を求める発言も
民政移管したミャンマー政府は、実質的には軍事政権が看板を付け替えたようなものとも思われていましたが、最近のアウン・サン・スー・チーさんや民主化運動勢力への意外なほどの“寛容”な対応について、8月25日ブログ「ミャンマー  民主化勢力との関係改善図る姿勢を見せる政権側」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110825)で取り上げたところです。

この柔軟姿勢は、その後も継続しています。
国会では、予想以上に率直・自由な議論がなされているとの報道もあります。

****23年ぶりミャンマー国会 発言は自由・取材は制限*****
・・・・傍聴した下院の議席は440。総選挙で選ばれた4分の3は各出身民族の伝統衣装姿だ。残りのカーキ色姿の集団が軍人枠の議員たちだ。
「土地を接収する場合、国民生活に影響を与えないよう最小限であるべきだ」
「必要以上の接収かは、政府が監視する」
議員の質問に閣僚が答えた。政府に批判的な発言でも議場で拍手が起きた。

民営のミャンマー国際テレビのディレクター、サイ・ゾム・パさん(35)は「これだけ自由に討論するとは」と驚く。だが議員への接触など、記者室から傍聴する以外の取材は許されず、検閲も残る。(中略)

無所属のテイン・ニョン下院議員が先月25日、大統領に約2千人とされる政治囚の恩赦を求めるべきだと提案した。軍政下なら逮捕の可能性もある発言だ。
トゥラ・シュエ・マン議長は「賛同者はいるか」と問いかけ、軍人議員からも2人が賛成した。コー・コー内務相は、議長にうながされ、テイン・セイン大統領へ提案内容を報告すると約束。国内の新聞、テレビ、週刊誌で報じられた。

報道の自由のための立法、民主化活動家の逮捕を容易にしてきた緊急事態法の改正など、テイン・ニョン議員はすでに17回の質問や提案を出した。内容は事前に事務局に届ける必要があるが、「制限はない」。
民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)の一員だった。軍政批判で3年間拘束された。軍政下の選挙を不当だとしてボイコットを決めたNLDから離れ、立候補した。国会での議論こそが、民主化への道と考えたからだ。

しかし議員の4分の1は軍人。残る議席も7割超を軍政が母体の連邦団結発展党(USDP)が占める。可決した提案はないが、「審議内容は議事録に残り、一部だけだが報道される。政府が無視することはできないだろう」。

ある財界関係者は「シュエ・マン議長が存在感を見せている」と語る。元軍政ナンバー3で大統領の本命と見られていたが、ナンバー4のテイン・セイン氏が大統領に。下院の議論を活発化させることで影響力をふるっているという。【9月14日 朝日】
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テイン・セイン大統領と会談したスー・チーさんも、新政府の姿勢を、「(大統領は)真の肯定的な変化を望んでいる」と評価しています。
一般市民の情報アクセスについても、改善されつつあるとの情報があります。

****BBC・ユーチューブ、ミャンマーで閲覧可 規制緩和か****
ミャンマー(ビルマ)で、軍事政権下ではアクセスできなかった英BBCや亡命ビルマ人らによるメディア、動画投稿サイト「ユーチューブ」などのインターネットサイトが、閲覧可能になった。3月に発足した新政府の改革の一環と見られる。

ミャンマーからの情報によると、亡命ビルマ人らが主体の「ビルマ民主の声(DVB)」のサイトも含め、15日ごろから突然、閲覧できるようになった。ただ、約2週間前にも一時的に閲覧可能になったことがあり、今回が恒久的な措置なのかは不明。

軍政下で、国内メディアはすべての記事で検閲を受け、軍政批判につながる記事は一切掲載できなかった。BBCやDVBに対しては、国営メディアが連日、「憎悪の種をまく」「殺人的」などと批判。ユーチューブには、反政府デモや民主化運動に関する動画が多数投稿されていた。【9月17日 朝日】
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【「規律ある民主主義」】
もちろん、議会では圧倒的多数を与党・軍関係者が占めており、「政府に管理された議会」との評価もあります。また、メディア規制も緩くはなっていますが、政府批判報道は許されていません。
政権側は、こうした管理された民主化を「規律ある民主主義」と称しています。中国の管理社会にも似た雰囲気です。

****政府批判の報道なし *****
新政府は、少数民族勢力への停戦呼びかけ、帰国する亡命者への恩赦の言及など、ソフト路線を打ち出している。テイン・セイン大統領は8月19日、スー・チーさんと会談。スー・チーさんも「(大統領は)真の肯定的な変化を望んでいる」と評価した。

両者の会談後、街中にスー・チーさんのポスターが貼られるようになった。国内メディアには、スー・チーさんの写真や記事が掲載され始めた。
地元記者は「これまで自己規制してきた。だが国会での議論がそのラインを大幅に超えたおかげで、我々への規制も緩くなった」。

軍政に反対する立場を明確にしてきた亡命ビルマ人らを中心としたメディアですら、議会を部分的に評価している。
ミャンマー国内の取材協力者が逮捕、投獄されている「ビルマ民主の声」(DVB)のトウ・ゾウ・ラット氏は「これまで全く謎だった国家予算も国会で発表された。その点では良い。だが、圧倒的多数がUSDP議員。結局、政府に管理された議会だ」と話す。

チョー・サン情報相は取材に「新政府はメディアと協力し、透明性と説明責任を尊重する」と述べた。だが「報道はときに社会を不安定にする。メディアはその責任を理解しなければならない」と釘を刺した。
民間の国内メディアの取材が許可されたとはいえ、国会中継は許されず、ニュースは議論の概要や決定事項をアナウンサーが読み上げるだけだ。政府を批判する報道はない。【9月14日 朝日】
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なお、軍政時代の最高実力者タン・シュエ氏(78)については、与党側は「引退しており、全く接触していない」と語っています。

****ミャンマーの与党書記長「軍政トップは引退*****
ミャンマーの軍政翼賛組織を事実上継承した同国与党・連邦団結発展党(USDP)のテー・ウ書記長は16日、ネピドーの党本部で読売新聞などと記者会見し、軍政時代の最高実力者タン・シュエ氏(78)について、「本当に引退し、自宅で静かに暮らしている。テイン・セイン大統領とも全く接触していない」と語った。

タン・シュエ氏は軍政トップの国家平和発展評議会(SPDC)議長として長年権力を握ってきたが、今年3月の民政移管後、国営メディアは動静を一切報じていない。書記長は「タン・シュエ氏が党を支配しているという見方は誤りだ」と指摘し、軍政ナンバー2だったマウン・エイ上級大将補も引退したと述べた。
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【「文民政府であることを示したいのだ」】
新政権側の思惑・今後の対応についてはよくわかりませんが、新政権が柔軟姿勢・「変化」をアピールする狙いについて、2014年の東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国になるため、また、経済制裁の解除を狙って欧米が求める民主化に一部応じているとの見方が一般的です。

ただ、前回ブログで紹介したように、“タイのシンクタンクVahu Development Instituteのアウン・ナイン・ウー氏は、政権は、軍部ではなく自分たちが国の責任者であることを示したいのだと語る。同氏は、「彼らは国のために良いことをやっていると見られたがっている。そしてなにより、文民政府であることを示したいのだ」と述べ、背後にどんな思惑があるにせよ、(大統領とスー・チーさんの)会談はミャンマー政府と反政府勢力が和解する上で「極めて重要だ」と指摘した。”【8月23日 AFP】ということが根底にあるように思われます。

そうであれば、不十分な点を批判するより、改善された点を評価することで、更なる改善を促す方向がいいのではないでしょうか。
クリントン米国務長官も、基本的にはこうした方向のようです。

****米国務長官、ミャンマー政府の対話姿勢「歓迎する*****
クリントン米国務長官は15日、ミャンマー(ビルマ)政府が民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんとの対話を始めたことなどを「歓迎する」と評価し、民主化に向けたさらなる行動を促した。
サンフランシスコでオーストラリアの閣僚らと開いた共同記者会見で語った。

クリントン氏は、テイン・セイン大統領とスー・チーさんとの初会談などを念頭に「この数週間、政府は歓迎すべき動きを見せている」と指摘。2千人以上とされる政治囚や北朝鮮との関係などに「深刻な疑問がある」としつつも、「政府が改革の必要性に言及し始めた」と評価した。ただ、14日に受刑中の記者に10年の刑期延長が言い渡されたことを取り上げ、人権の尊重を「具体的な行動」で示すようクギを刺した。【9月16日 朝日】
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日本政府の動きについては、“日本政府は「新政権との関係を築き、民主化の進展を促す」(外務省幹部)との姿勢だ。一部に限定している政府の途上国援助(ODA)の本格再開に向け、農業や保健、教育といった分野での新規案件を検討。ただ、民主化運動関係者らから慎重な対応を求める声も出ている”【9月14日 朝日】とのことです。

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