(9月24日 統一ロシア党大会で返り咲きを発表したプーチン首相 「実質的に権力を持った人が名実ともに国のトップになるというのはわかりやすい」(ロシアTV局職員)というところでしょうか。“flickr”より By IonP2010 http://www.flickr.com/photos/49033115@N03/6180072475/ )
【「将来についてメドベージェフ氏と数年前から合意していた」】
メドベージェフ大統領とプーチン首相の双頭体制が次期大統領選挙でどうなるのか・・・「実権を握るプーチン首相が返り咲くだろう」、「メドベージェフ大統領も再選の意欲があるみたいだ」、「二人の間で考え方の違い、対立もある」、「いや、表向きのソフトな顔と実質的決定者の役割分担にすぎない」とか、いろいろ言われてきましたが、結局、プーチン首相が返り咲き、長期政権運営に乗り出すことで決着しました。
一方、メドベージェフ大統領は首相としてプーチン政権を支えるという、大統領と首相が交替する“たすき掛け構想”となっています。
****ロシア:次期大統領にプーチン氏返り咲きへ****
24日に開かれた政権与党「統一ロシア」の党大会で、ロシアの次期大統領にプーチン首相の返り咲きが固まった。プーチン氏の大統領復帰は「既定路線」だったことも判明したが、党大会を利用して公表することで“サプライズ”を演出し、国民の関心を引きつける狙いがあったとみられる。
一方、“強硬派”プーチン氏の再登板で欧米との関係が緊張に向かう可能性もある。
プーチン氏は08年に2期8年間務めた大統領を退任したあと首相に就任し、後継指名した腹心のメドベージェフ大統領と2人で政権を運営する「双頭体制」を敷いてきた。しかし、プーチン氏が国家を主導してきたのが実情で、メドベージェフ大統領が憲法改正で大統領任期を4年から6年に延長したのも、プーチン氏復帰に備えたものとの見方が出ていた。
来年3月の次期大統領選を巡っては両氏のどちらが出馬するかが焦点だったが、プーチン氏は24日、党大会の演説で、「将来についてメドベージェフ氏と数年前から合意していた」と述べ、自身の出馬が既定路線だったことを認めた。これまで発表されなかったのは、メドベージェフ政権がレームダック化するのを避けるためだったとみられる。
また12月4日投票の下院選で、統一ロシアが支持率低下のため議席を減らすと予想されていたなか、党首であるプーチン氏の大統領復帰を前提に選挙を戦ったほうが有利と判断した可能性がある。
プーチン氏が大統領に復帰する場合、メドベージェフ氏の処遇が最大の問題とされていた。だが、新政権の首相に指名し、メドベージェフ氏が大統領として目標に掲げてきた「近代化」政策を継続させることでメンツを保つ形となった。
ロシア国内ではプーチン氏の大統領復帰を歓迎する声が強い。しかし、強権的なプーチン路線の継続には「ロシアの停滞を招く」(ゴルバチョフ元ソ連大統領)など批判的な見方もある。プーチン、メドベージェフ両氏が大統領と首相ポストを交代して政権を継続することには「権力のたらい回し」との批判も出そうだ。
一方、外交面で、メドベージェフ大統領はプーチン政権時代に悪化した米国との関係を「リセット」するなど、穏健・リベラルなイメージで欧米諸国に受け入れられてきた。プーチン氏の大統領復帰で、ロシアと欧米の関係が再び険悪化する恐れもある。【9月24日 毎日】
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【厳しい下院選予測】
この早い時期の公表を意外に見る向きもありますが、“大統領選に向けては、当初、12月の下院選の結果を判断材料に、プーチン氏が自らとメドベージェフ氏のどちらかに候補を決めるとみられていた。その時の社会情勢や国際情勢が厳しければ、根強い人気を誇るプーチン氏が改めて登板するとも言われていた。
だが、プーチン氏は、下院選の情勢に危機感を強めた。統一ロシアだけでは、下院の絶対安定多数を得られないと見ていた。世論調査で「双頭」や統一ロシアへの支持率が軒並み落ちていたからだ。”【9月25日 朝日】とのことです。
下院選については、“世論調査機関「レバダ・センター」の最近の世論調査では、与党・統一ロシアに投票すると答えた人は54%。ただ300議席には届かないとの予測”【9月23日 朝日】“全ロシア世論調査センターの最新の調査によると、統一ロシアの獲得予想議席は277で憲法改正に必要な300議席(定数の3分の2)を割り込んでいる”【9月23日 毎日】と、盤石のように思われているプーチン支配体制にとって意外に厳しい情勢となっています。
【メドベージェフ大統領の力不足、政治エリートの危機意識】
今回決定は、外野席の観客からすれば、ふたりの力比べがどうなるかと見守っていた矢先、あっけなく、波風立てない形で話がまとまったということで、ちょっと面白みに欠ける展開とも言えます。
メドベージェフ大統領は統一ロシアの党大会で、12年3月の大統領選後、自らは政府で「実務的な仕事」をする用意があると述べ、プーチン政権を支えることを明らかにしています。
メドベージェフ大統領としても再選の意欲はあったようですが、力比べとなれば、所詮メドベージェフ大統領はプーチン首相の敵ではなかったとも言えます。
****露大統領選 権力闘争に敗れたメドベージェフ氏****
ロシアのプーチン首相の大統領選出馬が決まった背景には、メドベージェフ大統領の力不足、このままでは国家が崩壊するというプーチン首相と官僚、国会議員ら政治エリートの強い危機意識があった。メドベージェフ氏は再選への強い意欲を持っていたが、日本や中国をめぐるプーチン氏との戦略の違いから、大統領職を辞さなくてはならない“包囲網”を敷かれてしまっていた。
プーチン氏は中国をアジア最大の脅威と見なし、それに対抗するため日本との関係を重視していた。しかしメドベージェフ氏が対日関係悪化を招き、日本というカードを使えない状況を生み出してしまっていた。
メドベージェフ氏の最大の失敗は対北朝鮮外交だ。メドベージェフ氏は北朝鮮との関係改善で国際社会での地位向上を目指す戦略を打ち出したが、プーチン氏は北朝鮮が日本との間で拉致問題を抱えている事実を強く認識していた。さらに大統領は天然ガスを韓国、北朝鮮に送る方針を示したが、これはガスの対日輸出が細ることを意味する。今回、北朝鮮の金正日総書記はモスクワを訪問しなかったが、これはプーチン氏側が金総書記の公式訪問という形を取らせなかったためだ。
またメドベージェフ氏はロシアのナショナリズムをあおるため北方領土を訪問し、領土交渉は完全にゼロの状態に陥った。プーチン氏は(平和条約締結後の歯舞、色丹両島の日本への引き渡しを定めた)「56年宣言」をロシアにとって「義務的なもの」と認識しており、この点でも2人の戦略は大きく異なる。
ただ、プーチン氏が親日家だというわけではない。中国に対抗するために日本が大事だという、乾いた力の外交の考えを持っているということだ。
プーチン氏が大統領となれば、日本との関係ではまず北方領土問題が動き始めるだろう。交渉は大変で、ロシアが四島をすぐに返すということは考えられないが、日本人の感情を逆なでするやり方はないだろう。また日本へのガス輸出でも、対中牽制(けんせい)という意味合いから日本に優先的に送ると考えられる。
ただ、プーチン氏はタフ・ネゴシエーターだ。それに向き合うだけの外交的な基礎体力が日本側にあるだろうか。野田佳彦首相は外交に弱いという側面が否めず、ロシアに“してやられる”可能性は少なくない。【佐藤優氏 9月25日 産経】
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ロシア国内的には、プーチン首相の強権的性格、プーチン前大統領時代の8年間に政権内ではシロビキ(軍や治安・特務系機関出身者)と呼ばれる守旧派が台頭し、官僚機構の肥大化と政治・経済の国家統制が進行したという“実績”から、今後の経済近代化が進展するのか、民主主義・人権が損なわれることがないのか、懸念されるところでもあります。
プーチン首相は24日の党大会で、メドベージェフ大統領が最優先課題に掲げた経済「近代化」路線を継続するとも宣言してはいますが・・・・。
【北方領土問題への影響】
最近いよいよ情勢が悪化している北方領土問題を抱える日本としては、上記産経記事にもあるように、プーチン首相の返り咲きで、若干持ち直す目も出てきたともいえます。
ひとつは、記事にある“中国を牽制するための日本重視”という戦略的側面がありますが、もうひとつ言えるのは、領土問題は国内反対派を抑え込めるような強権的支配者の方が動きやすいという面もあります。
もとより領土・国境は、条約や交渉の背後にある過去・現在の力関係で決まってきており、理屈や正論では動きにくいものです。
また、立場が違えば、お互いの言い分・主張も異なりますので、戦争でもしない限り、いずれかの主張が100%とおることはありえません。
双方何らかの譲歩が必要になりますが、領土問題での譲歩は国内世論、特に保守的な強硬論の標的になります。
特に、ロシアは現在の自国支配地域を譲る形になりますので、そこでの譲歩は反対論を封じ込めるほどの力を必要とします。その意味で、最高権力者にして強権的なプーチン首相が、なんらかロシアにとってメリットがあると判断すれば、動きが出る可能性があります。決定権を持つ人間が交渉の表に出てきた方が、話がまとまりやすいとも言えます。アラブ強権支配者を支持してきたアメリカのような言い草になりますが・・・。
一方、世論を重視する民主的政治体質の国では、ややもすれば声の大きい強硬論に引っ張られることにもなり、なかなか譲歩を伴う決定は困難です。野田政権はどうでしょうか・・・。
全般的な国際面で見ると、メドベージェフ大統領はプーチン政権時代に悪化した米国との関係を「リセット」するなど、穏健・リベラルなイメージで欧米諸国に受け入れられてきた面があり、プーチン首相の大統領復帰で、ロシアと欧米の関係が再び険悪化する恐れも指摘されています。
欧州各国でも、強権的な資源外交を警戒する向きがあります。
****プーチン氏再登板 強権外交復活を警戒 欧州、資源めぐり****
ロシアのプーチン首相が大統領に返り咲く見通しになったことで、旧ソ連圏の東欧を抱える欧州では、欧米流の民主主義体制とは一線を画した特異な双頭政治の継続に警戒感もある。
欧州連合(EU)加盟国では、天然ガスなどロシアの資源を必要としている国が少なくない。このためプーチン氏による強権的な資源外交が復活するのでは-との懸念が少なくない。
英国とロシアとの間にも、プーチン前大統領時代の2006年11月に、プーチン氏に批判的だった元ロシア情報機関員がロンドンで暗殺された事件がトゲとして残っている。
こうした中、キャメロン英首相は今月、英首相として6年ぶりにロシアを訪れ、メドベージェフ大統領、プーチン首相と会談するなど、関係改善に乗り出したところだ。
前駐露英国大使のブレントン氏は「メドベージェフ体制下でもプーチン氏が影響力を持っていたので大きな変化はない」と指摘するとともに、「プーチン氏の目的はロシアの国際的な地位を向上させることだ。そのためには経済や技術面で欧州の協力は欠かせないだろう」との見方を示している。【9月25日 産経】
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“ロシアの国際的な地位を向上させるための経済や技術面での協力”ということであれば、日本にもアピールできるところが多々あるのではないでしょうか。反対派を蹴散らす覚悟があればの話ですが。
【ロシア財務相、批判の辞意】
今回“たすき掛け”に対する政権内部からの批判として、クドリン財務相が辞任を発表しています。
****ロシア財務相、「メドベージェフ氏が首相就任なら辞任」*****
ロシアのアレクセイ・クドリン財務相は25日、2012年の「ウラジーミル・プーチン大統領」体制のもとで、ドミトリー・メドベージェフ現大統領が首相に就任するのであれば、新政権には加わらない考えを示した。ロシアの通信各社が報じた。
長期にわたって財務相を務めてきたクドリン氏は、「新政権に加わった自分を思い描くことができない。誰からもオファーが無かったということだけではない。私の持つ相違点が、私の政権参加を妨げるだろうと考えている」と語った。
メドベージェフ大統領は24日、2012年大統領選でプーチン首相に大統領職を明け渡し、自らは首相に就く方針を発表。2000年以降ロシアの財務相を務めてきたクドリン氏は、この方針に反対を表明したこれまでで最上級の政府高官となった。
クドリン財務相は、閣内で最もリベラルな声とみられており、2月には経済改革の実施に向けた負託を得られるのは「誠実な」選挙のみだと主張し、同僚たちの不興を買っていた。(中略)
また、クドリン財務相は、「経済政策でメドベージェフ氏と多くの相違」があったことを初めて明かした。クドリン氏は緊縮財政派であることが広く知られているが、相違点には、年金から武器購入までを含む軍事費の増加が関係したという。
「これは予算と経済のリスク増を生む。財政赤字を削減できなくなる」とクドリン氏は語り、そのような高額の出費はロシアの原油輸出依存を持続させるため、原油価格が下落したときに経済が混乱してしまうと指摘した。
24日のメドベージェフ氏による歴史的な発表後には、メドベージェフ氏の首席経済アドバイザーであるアルカジー・ドゥボルコビッチ補佐官も異議をとなえ、ツイッターで「喜ぶべきことはない」と述べ、「スポーツチャンネルに切り替えるのにちょうどよいタイミングだ」と語っていた。【9月25日 AFP】
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“メドベージェフ氏と多くの相違”というのは、もっとわかりやすく言えば、“強いロシアにこだわる旧守的なプーチン首相の意向に従うメドベージェフ氏と多くの相違”ということではないでしょうか。