(ツバル ラグーンと外洋を隔てる僅かな陸地に襲いかかる波 海面上昇・水没の話は別にしても、ツバルは大潮で浸水する脆弱性を以前から抱えています。 “市街地の一部は春秋分に近い時期に発生する通常より大きな大潮で満潮時に地中から湧き出してくる水によって 0.6 m まで浸水する。 特に強風が吹く2月を中心として発生する大潮は大きくなり、南太平洋では「キング・タイド」(king tide) と呼ばれている”【ウィキペディア】 写真は“flickr”より By Ecoflo http://www.flickr.com/photos/ecoflo/5459580293/ )
【気温が上昇するにつれて、乾燥地域の周縁部で緑化が進行】
いつも言うように、温暖化の議論で悩ましいのは、複雑な短期的変動を行う気候とその影響の長期的推移を見通すことが非常に困難なことです。
温暖化そのものに対する反論もありますが、温暖化した場合の影響についても諸説あるようです。
一般的・常識的には、温暖化の進行で、現在も進行していると言われている砂漠化が、より厳しくなって飢餓などの原因にもなりかねない・・・と思われています。
しかし、温暖化の進行は砂漠化ではなく、砂漠の緑化をもたらすとの主張もあります。そして、それは現地調査や衛星画像で明らかだ・・・とのことです。
****地球温暖化で緑化が進む?常識を覆す楽観論が登場*****
気温が上昇すると世界各地で降雨量が増え植物が繁殖する、とドイツ人研究者が指摘
数干年前、現在スーダンがある辺りのサハラ砂漠には大河が流れていた。魚やワニ、カバが生息しており、農業を営む人々の暮らしを支えていた。
やがてアフリカ北部は乾燥し、草原はサハラ砂漠と化してしまった。この大河も1年の大半は干上がっている。原因は気候変動だ。
ドイツのケルン大学の地質学者シュテファン・クレペリンが行った6000年前のデータなどに基づく研究によれば、気温が下がるにつれてサハラ砂漠は拡大していった。世界的な寒冷化に伴い、大気中の飽和水蒸気量が減少して降雨量が減り、乾燥地域が増えたのだ。
だが今、逆転現象が起きている。気温が上昇するにつれて、サハラ砂漠などの乾燥地域の周縁部で緑化が進行しているのだ。
以前は砂漠だった場所に草や低木、アカシアの木が生えていると、クレペリンは言う。こうした変化は、30年に及ぶ現地調査で彼が撮り続けてきた写真や衛星画像からも明らかだ。
乾燥地域がより肥沃に
気候変動が今のペースで進むと、アマゾンの熱帯雨林は消失し、降雨量が減り、大規模な干ばつが起きるかもしれない・・・こうした悲観論に、クレペリンの地質学的データは疑問を投げ掛ける。
国連主催のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「悲観的」な報告は、アフリカの広範な地域で降雨量が減少し、ソマリアで起きているような飢饉が珍しいものではなくなるかもしれないと予測している。
こうしたシナリオに批判的な目を向ける科学者はクレペリンだけではない。彼らの膨大なデータが示しているのは、気温の上昇によって世界の幅広い地域で降雨量が増え、植物がより繁殖し、何世紀も荒れ果てていた地域に植物が生えてくるという可能性だ。
極寒の地グリーンランドでも再び農業が行われるようになってきた。そもそもグリーンランドという名前は、「中世の温暖期」に最初にこの島に上陸した人物が、ここでは農業が可能だとして名付けた恚のだとされる。
アルプスでは樹木の限界高度が徐々に上昇している、という報告もある。(中略)
サハラ砂漠南緑のサヘル・サバンナ地帯はしばしば飢饉に見舞われるという問題を抱えている。だがこれは気候というよりむしろ、50年代以降に人目が約3倍に増え、草を根ごと食べ尽くすヤギがたくさん飼われるようになったことに関係しているようだ。
クレペリンによると、ヤギが入ってこないようにフェンスを張り巡らせた地域には植物がまた生え始め、かつてないほど緑化が進みつつあるという。サヘル地域は自然に砂濃化したのではない。「自然」を保護すれば逆の現象が起きるのだ。
クレペリンは、温暖化に関する主流派の説に反する楽観的な考えを吹聴しているとして、一部の科学者から非難されているとこぼす。「彼らはコンピューターを使った予測算出に夢中で、現地で実際に起きていることには無関心のようだ」
しかしクレペリンら「楽観派」の説が正しければ、温暖化が進んでも最悪の状況は避けられるかもしれない。【9月14日 Newsweek日本版】
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クレペリン氏の説が正しいのかどうかは判断のしようがありません。
仮に正しい場合でも、人口爆発が続くアフリカで飢餓を防ぐためには、“ヤギが入ってこないようなフェンス”という考え方の工夫・努力が求められます。何もしなければ、結果はやはりソマリアのような悲劇でしょう。
【「島々が海面上昇に対する回復力を備えている」】
砂漠化と並んで、温暖化の影響としてあげられるのが海面上昇、それによる国土消失です。
これについても異論はあります。
****温暖化:「海面上昇でもツバル沈まず」 英科学誌に論文****
「太平洋の島々は成長を続けており、海面が上昇しても沈むことはない」--。そう主張する研究論文が英科学誌「ニュー・サイエンティスト」に掲載され、議論を呼んでいる。(中略)
過去60年間に撮影された航空写真と高解像度の衛星写真を使い、ツバルやキリバスなど太平洋諸島の27島の陸地表面の変化を調査した。
その結果、海面は60年前よりも12センチ上昇しているにもかかわらず、表面積が縮小しているのは4島のみ。23島は同じか逆に面積が拡大していることが明らかになった。ツバルでは九つの島のうち7島が3%以上拡大し、うち1島は約30%大きくなったという。
拡大は「浸食されたサンゴのかけらが風や波によって陸地に押し上げられ、積み重なった結果」であり、「サンゴは生きており、材料を継続的に供給している」と説明。1972年にハリケーンに襲われたツバルで、140ヘクタールにわたってサンゴのかけらが堆積(たいせき)し、島の面積が10%拡大した事例を紹介している。
研究に参加したオークランド大学(ニュージーランド)のポール・ケンチ准教授は「島々が海面上昇に対する回復力を備えていることを示す」と指摘し、「さらなる上昇にも対応する」と予測。
一方、海面上昇が農業など島民生活に影響を与えることは避けられないとして、「どのような地下水面や作物が温暖化に適応できるか調べる必要がある」としている。【10年6月9日 毎日】
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【「気候変動は今も、太平洋諸島の人々の生活、安全、幸福を脅かす単一かつ最大の脅威だ」】
これについても何とも評価しようがありませんが、キリバスやツバルなどからは、「台風が来れば、ヤシの木に登る以外に逃げ場はない」(COP16でツバル副首相)、「温暖化は国家存続の脅威だ」(ミクロネシア連邦の副大統領)との発言というか悲鳴が出ています。
仮に「島々が海面上昇に対する回復力を備えている」にしても、部分的には水没する地域もあり、適切な対応が求められます。“対応”としては、最終的には“移住”ということになります。
****「気候変動が最大の脅威」、太平洋諸島 移住計画策定へ****
ニュージーランドのオークランドで7~8日に開かれた太平洋諸島フォーラム(PIF)は、気候変動が加盟国にとって最大の脅威だと確認するとともに、海面上昇で国土水没の恐れがある地域の住民の移住計画の検討を進めることを決めた。
PIFは共同声明で「気候変動は今も、太平洋諸島の人々の生活、安全、幸福を脅かす単一かつ最大の脅威だ」と指摘。キリバスなどでは既に気候変動の影響が顕著に現れ、海面上昇のため村が水没して移住を強いられる住民が出ており、こうした人々への経済的支援が必要だと訴えた。
また、加盟16か国・地域の島しょ国の多くが海外援助に大きく依存していることから、「各国・地域それぞれの特殊事情や必要性」を考慮したうえで、加盟国・地域が住民の移住や経済支援の方法に関する報告書をまとめることを決めた。【9月9日 AFP】
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【オーストラリア 難民政策迷走】
この地域においてはオーストラリアが圧倒的地域大国の立場にありますので、移住計画においても、その役割は大きなものがあります。
オーストラリアの島嶼国からの移民に対する対応がどうなっているのかは知りませんが、ラッド前首相時代に寛容な難民政策をとったことで、アフガニスタンやスリランカ、イランやイラクから、マレーシアやインドネシアを経由して船でオーストラリアに渡って来る難民が後を絶ちません。
その結果、オーストラリアの受け入れ施設が許容量オーバー状態に陥り、ギラード首相は難民のマレーシアへの移送を計画しました。
しかし、以前にも取り上げたように、マレーシアの法律が難民に対して適切な保護を与えていないという問題があり、そうした国への移送は人権侵害にあたるとの批判が出て、結局、最高裁はマレーシア移送を違法との判断を示しています。
****「マレーシアへ難民移送」豪協定、最高裁が差し止め命令****
オーストラリアに押し寄せる難民認定希望者800人をマレーシアに移送し、すでに国連に難民認定された同国在住の4千人を受け入れる両国間の難民交換協定について、豪州最高裁は8月31日、違法だと判断、協定の差し止めを命じた。難民政策で迷走する豪州のギラード政権は窮地に陥っている。
労働党のギラード政権は、アフガニスタンなどからの難民船来航に歯止めをかける「特効薬」として7月末、協定を締結。8月初めに移送第1陣となるはずだったが、難民認定希望者側が「難民条約に未加入のマレーシアでは人権が保障されない」などと最高裁に訴えた。
最高裁は、認定希望者の他国への移送は豪移民法の定めた政府の権限を逸脱すると認定した。難民保護が法的に制度化されていない国への移送は認められないとも指摘した。
ギラード首相は1日の記者会見で、最高裁の決定に深い失望を表明。政府は、保守系のハワード元政権時に一時実施されたパプアニューギニアでの難民希望者の収容を再開させる案を模索してきたが、ギラード氏は「最高裁決定が(他の)海外での難民認定手続きを許可するかどうか、大いに疑問だ」と述べ、政策の見直しの必要性も示唆した。【9月5日 朝日】
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オーストラリアの難民政策の迷走は、単に受け入れ施設の環境悪化や収容期間の長期化といった問題だけでなく、欧州社会の保守化と同様に、社会全体の移民・難民に対する非寛容の傾向の反映でもあります。
そうした点を考慮すると、島嶼国からの移民受け入れに問題が起きそうにも思えます。