孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南スーダン  日本、PKOへ陸自派遣の方針 変わるPKO、「中立」から「公正」へ

2011-09-17 20:38:29 | スーダン

(木の下で授業を受ける南スーダンの子供たち “flickr”より By USAID EGAT http://www.flickr.com/photos/egatphotos/6147833510/

【「(自衛隊は)インフラ整備で世界最高水準の技術を持つ」】
7月9日に北部からの分離独立を実現した南スーダンでは、内戦で国土が疲弊し、インフラは殆んど整備されていない状況にあります。このため、国連は日本に対しPKO参加を強く求めていました。
日本政府は、現地の治安状況への不安や、日本国内での震災復興への対応もあって、対応を明らかにしていませんでしたが、野田政権は実施の方針を固めたようです。

****南スーダンに陸自PKO…300人規模で****
政府は、南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に、陸上自衛隊の施設部隊を派遣する方針を固め、具体化の検討に入った。
今月中にも調査団を現地に派遣する。複数の政府筋が16日、明らかにした。20日から訪米する野田首相は、国連総会の一般討論演説と潘基文(パン・ギムン)国連事務総長との会談で、この方針を表明する方向で調整を進めている。

派遣部隊の規模は300人程度を想定している。現地の道路や橋の建設・修復などのインフラ整備などを行う方針だ。検討と準備が進めば、早ければ年内に派遣を実現したい考えだ。実現すれば、民主党政権下でのPKO新規参加は、2010年2月のハイチへの復興支援以来、2回目となる。

南スーダンは今年7月、スーダンから分離・独立を果たしたが、長い内戦による国土の荒廃が深刻な問題になっている。PKOをめぐっては、潘氏が先月8日、当時の菅首相と会談した際、陸自部隊の派遣を要請するなど、国連が日本政府に強く要請していた。
しかし、菅政権の基盤が不安定だったことに加え、陸自は東日本大震災への対応に追われていた。また、現地の治安情勢が不透明だったことから、防衛省内に慎重論が強く、司令部要員の派遣を前提とした調査団を9月初旬に派遣し、首都周辺の治安などを確認するにとどまっていた。【9月17日 読売】
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国連・潘基文国連事務総長が日本に強く働きかけたのは、ハイチでの実績が高く評価されてのことと報じられています。

****国連、日本にPKO派遣熱望 南スーダンの道路整備など****
先月独立した南スーダンで道路建設などを担う国連平和維持活動(PKO)に日本が参加するよう、国連が熱望している。ハイチの道路整備などで実績を残す日本の技術力を高く評価してのことだ。ただ、日本側は、自衛隊の派遣には慎重な姿勢だ。
国連の潘基文(パン・ギムン)・事務総長は8日夜、菅直人首相に「日本からぜひ(陸上自衛隊の)施設部隊を派遣してほしい」と申し入れた。9日朝には北沢俊美防衛相にも直談判をした。

国連PKO局は自衛隊を「インフラ整備で世界最高水準の技術を持つ」と評価する。これを決定づけたのは、巨大地震に見舞われたハイチでの活動だった。
日本が派遣した陸上自衛隊は、昨年3月末から2カ月間で、壊滅的被害を受けた首都ポルトープランスから隣国ドミニカ共和国まで続く幹線道路を整備。盛り土を施し、雨期でも冠水しない。必要物資を届けるライフラインとして今も使われている。国連幹部は「南スーダンでも同じような活躍をしてほしい」と話す。【8月9日 朝日】
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こうした表向きの話以外にもいろんな事情はあるのでしょうが、技術力が高く評価されて派遣を懇願されるということは、国際社会での応分の責任を果たすべき日本にとっても結構な話かと思います。

南北スーダンの国境沿いで戦闘激化
その南スーダンでは、8月末に組閣が行われましたが、先ずは無難な方向で動き出したようです。
****独立の南スーダン、内閣発足 北部与党元メンバーも入閣****
先月9日に独立した南スーダンのサルバ・キール大統領は27日、正式内閣を発足させた。内戦を戦ってきた北部与党の元メンバーも入閣させるなど、内外の情勢に配慮を見せた。
ロイター通信などによると、今回の組閣では民族同士の融和も考慮し、幅広い地域や民族から選ばれた。(後略)
【8月29日 朝日】
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もちろん、これまでも何回か取り上げてきたように、石油収入の配分を巡る北部スーダンとの交渉難航、アビエイ地区の帰属問題、南スーダン内部における部族間対立・・・など、問題は山積しています。
北部スーダンに属する、南スーダンに接する青ナイル州や南コルドファン州では、スーダン軍と南スーダン系武装勢力との戦闘が激化し、多くの難民が発生している問題もあります。

****南北スーダン:国境で戦闘激化 2万人が難民に****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は6日、7月に分離した南北スーダンの国境沿いにあるスーダン・青ナイル州などで、スーダン軍と南スーダン系武装勢力との戦闘が激化、約2万人が難民となり隣国エチオピア北部に避難していると発表した。
同様に国境沿いにあるスーダン・南コルドファン州でも双方の戦闘が断続的に続き、国連の潘基文事務総長は2日、即時停戦を求める声明を発表したが、紛争は長期化の兆しを見せ始めている。

青ナイル州は南北内戦(83~05年)時からの激戦地として知られる。スーダン側に属するが、南コルドファン州とともに、南スーダンとはその分離独立前から人的、文化的つながりが深く、両州とも南スーダンの与党「スーダン人民解放運動」の支持者が少なくない。

国営スーダン通信によると、スーダン政府は2日、スーダン人民解放運動との関係が指摘される青ナイル州の知事を罷免、新知事にスーダン軍司令官を任命した。今回の紛争はこうした「南支持者」に対するスーダン側の強硬な追放戦略がきっかけとなり、双方の緊張が一気に高まり戦闘に発展した可能性が高い。

AFP通信によると、6日、青ナイル州の州都ダマジンでは、スーダン軍と南スーダン系武装勢力との間で激しい戦闘が発生。各地で銃声や迫撃砲の音が響き、死傷者が出た模様だ。同州南部の街コルムクでも戦闘が起き、多数の住民が連日、エチオピアに避難している。

スーダン政府は、南スーダンが青ナイル州や南コルドファン州の武装勢力を支援していると批判。バシル・スーダン大統領は、青ナイル州に非常事態宣言を出した。
スーダンからの難民が流れ込むエチオピアは、すでに隣国ソマリアからの多数の難民を受け入れている。干ばつなどによる食糧危機も深刻化しており、UNHCRは「スーダンからの難民はさらに増えるだろう」と指摘。難民用のテントを新設するなど緊急事態への対応に追われている。【9月7日 毎日】
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【「市民を弾圧する当事者への武力行使も辞さない」】
このように多くの問題を抱える南スーダンの治安は決して安定している訳ではありません。
これまでもPKOは、ルワンダでのジェノサイドやボスニア・ヘルツェゴビナ紛争時の「スレブレニツァの虐殺」などにおいて、現地の紛争からの「中立」を意識するあまり、結局虐殺を座視することになったとの批判があります。
こうした経験も踏まえて、国連安保理は、PKOにおける武力行使も容認する姿勢を明らかにしています。

****PKO、武力行使も容認…安保理議長声明採択へ****
国連安全保障理事会が26日、平和維持活動(PKO)に関する会合を開き、紛争当事者に対する原則として、不介入を意味する「中立」でなく、武力行使も容認される「公平」を掲げる議長声明を全会一致で採択することがわかった。「中立」を前提とする日本のPKO5原則の見直し論議への影響も予想される。

本紙が25日入手した声明案は、PKO活動の原則として「当事者の同意」「自衛限定の武器使用」と並んで「公平」を挙げている。
「公平」の原則はこれまでも国連事務局内部文書で確認されているが、安保理で正式に採択されることになる。外交筋は「市民を弾圧する当事者への武力行使も辞さないとの国連の方針に安保理がお墨付きを与える意義は大きい」と解説する。

PKOは従来、停戦監視などの任務が中心で、国連も長年、「中立」を原則としてきた。しかし、1990年代以降は内戦が戦われていた国に派遣されるケースが増え、市民保護を目的に武力行使を認める「公平」の概念が重視されるようになった。今年4月にはPKO部隊が、落選後も居座りを続けるコートジボワール大統領の官邸を襲撃して投降させたこともあった。【8月27日 読売】
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日本の場合、平和憲法を背景にした「中立」を前提とするPKO5原則がありますので、すぐに“武力行使”云々という話にはならないのでしょうし、今回はあくまでもインフラ整備を目的とした派遣ですが、今後、派遣隊員の安全確保の議論と併せて、虐殺の危険にさらされている市民の保護をどのように考えるのか、目の前で市民が殺されているのを座視するのか・・・改めて議論する必要があると思われます。

戦闘に巻き込まれる可能性も
今回派遣についても、自衛隊が戦闘に巻き込まれる事態を危惧する声もあります。
****南スーダンPKOに自衛隊は行けるのか****
周辺に多くの紛争をかかえ道路も整備されていない国で、戦闘に巻き込まれず貢献するのは至難の技
今月独立した南スーダンの復興を支援する国連のPKO部隊に日本政府が自衛隊の派遣を検討している。日本メディアはこぞって賛同しているが、実現はそう簡単ではない。

国連安保理は今月、7000人規模のPKO部隊「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」の設置を決め、日本政府に対して、道路や橋を整備する自衛隊の施設部隊の派遣を要請。さらに事務総長は、PKO要員を運ぶヘリコプター部隊の派遣も求める考えを示している。

しかし南スーダンで復興支援活動をしているNGO「日本紛争予防センター」の瀬谷ルミ子事務局長は、このPKOは「自衛隊にとって極めて過酷な活動になるだろう」と語る。
瀬谷によると南スーダンは北部との間だけでなく近隣国との紛争や部族対立も抱えており、部隊が展開する地域によっては戦闘に巻き込まれる可能性がある。さらに懸念されるのはインフラの不備で、都市部を除けば道路がまったく整備されておらず雨期には洪水で移動さえ困難になる地域も多い。

実際に戦闘に巻き込まれた場合にどう対応するのか。過酷な環境下で自衛隊部隊が十分な貢献ができるのか。肝心な議論はまだ始まっていない。【8月19日 Newsweek】
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PKOに送り出す以上は、腹をくくった対応が必要になるように思えます。
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