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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  炭鉱事情にみる地方官僚腐敗

2009-02-24 21:52:43 | 世相

(中国の炭鉱 屑の中から自宅で使える石炭を取り出す作業 主に女性の仕事とか
“flickr”より By LHOON
http://www.flickr.com/photos/lhoon/191847332/)

中国でまた大きな炭鉱事故がありました。

****坑内でガス爆発、74人死亡=「安全管理」の国有重点炭鉱-中国****
中国中央テレビによると、山西省古交市にある屯蘭炭鉱で22日午前2時(日本時間同3時)すぎ、ガス爆発が起き、作業員74人が死亡、100人以上が負傷した。うち5人が重体という。
事故当時、坑内では436人が作業中だった。うち約350人が自力で脱出するか救助隊によって地上に引き揚げられたが、同日午後6時(同7時)までに74人の死亡が確認された。
山西省トップの張宝順党委書記が現場に急行し、救出作業の指揮に当たった。屯蘭炭鉱は大手石炭企業、山西焦煤集団傘下の国有重点炭鉱で、年産能力500万トン。炭鉱が集中する同省では事故が頻発しているが、新華社電は屯蘭について「安全管理で知られ、過去5年間、大きな事故は起こしていない」と伝えている。【2月23日 時事】
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坑内にはまだ数十人が取り残されているとも報じられています。
中国では炭鉱での事故が続いていますが、07年12月には同じく山西省の炭坑で爆発があり105人が死亡。
今回の事故もこれに匹敵する規模となる恐れがあるとも。【2月22日 AFP】

炭鉱は危険と隣り合わせの職場であり、炭鉱事故自体はかつて日本でも炭鉱が存在していた頃はしばしば経験しています。
日本最大の炭鉱であった三井三池炭鉱では、60年の激しい労働争議の後、63年には三川抗で458人の死者を出す大事故を起しています。更に機械化・安全対策も進んだ84年には有明抗で83人が死亡する事故も起きています。
ただ、中国の炭鉱事故には現在の中国の社会事情を色濃く反映した側面もあるようです。

「中国貧困絶望工場(The China Price)」(アレクサンドラ・ハーニー)に中国の炭鉱事情を扱った章があります。
以下、要点を抜粋します。

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中国のエネルギー供給量の3分の2以上が石炭由来であり、中国は世界最大の石炭産出国、かつ、最大の石炭消費国です。

石炭は経済成長のエンジンですが、同時に最大の環境汚染源でもあります。
中国の大気中に放出される煤煙と粉塵の70%、二酸化硫黄の90%以上が石炭由来と言われています。
地方役人の出世がその地域の経済成長で決まるシステムのため、これまで環境より成長が優先されてきました。
しかし、中央政府レベルでは、環境保護は政策的に優先課題となりつつあります。
温家宝首相は「グリーンGDP」(環境破壊による損失をコストとして控除する概念)を提唱して、成長一辺倒からの脱却を訴えているようですが、まだ地方では根付いていないようです。

中国には炭鉱が28000ヶ所あるそうですが、そのうち24000ヶ所が小規模炭鉱であり、この小規模炭鉱が中国石炭の3分の1を産出しています。そしてこの小規模炭鉱は最も危険な職場でもあります。
中国は世界の石炭産出量の35%を占めていますが、一方、炭鉱事故死者数の80%が中国です。
その中国炭鉱でも、大規模国有炭鉱は近代化・安全措置を進めていますが、炭鉱事故の70%以上が小規模炭鉱で発生しています。
大規模な炭鉱でも、地中奥深い所で働く危険な作業は出稼ぎ労働者が多く、正社員は地表近くの比較的安全な場所で働いているとか。
「顔にこびりついているススの多さを見れば、階級がわかる」

中国政府にとっては生産性が低く、環境対策・安全対策がなされていない小規模炭鉱は厄介物でもあり、無許可炭鉱の閉山を推進しています。
全国の石炭の4分の1を産出する山西省では2006年、3550の違法炭鉱を閉鎖させたそうです。

しかし、違法炭鉱は地元役人への賄賂によって生き残っています。
中国では電力の絶対的不足から、火力発電をまかなう石炭は魅力的な投資先となっています。
炭鉱所有者は一攫千金を狙って、数人で掘るような零細な違法炭鉱を操業します。
炭鉱労働者も金が欲しいのは同様で、危険を承知で働いています。

違法炭鉱の所有者はかねてから担当地方役人に賄賂をおくっていますので、違法炭鉱の摘発があるときは事前連絡があり、そのときは仕事を休み穴は隠すことで摘発を逃れるそうです。
「カネを持っていれば仕事は続けられるし、カネを使えば面倒も避けられる」

こうした小規模炭鉱では爆発など事故は日常茶飯事ですが、事故が起きても死体を隠す、遺族にはカネで口止めする、病死扱いにするといったことがなされているとか。
当然、賄賂を渡してある地方役人とは口裏あわせ・・・

地元役人自体が炭鉱に投資していることが多く、違法炭鉱がはびこり、収賄が横行する現状の是正がなかなか進みません。
中共中央紀律検査委員会は官僚・国有企業経営陣に炭鉱との利害関係を絶つように命令(2005年8月)しましたが、親族名義にするなどで、実態は改善されていないようです。
【「中国貧困絶望工場(The China Price)」(アレクサンドラ・ハーニー)より】
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今回の事故は安全対策も一応とられている大規模な国有炭鉱でおきたようですが、表面には出てこない違法小規模炭鉱での事故が多数存在しているようです。
そして、そうした事態を可能ならしめているのが、地方官僚の腐敗です。

中央政府の認識と、地方官僚の実態には大きなズレがあるようです。
最近は中国でも民衆の抗議行動が頻発し、社会が不安定化していますが、その大きな要因がこの地方官僚の腐敗にあります。
この問題に有効にメスをいれない限り、中国社会の改善も困難ですし、社会不安が一層つのります。


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