
(2日、共同記者会見する温家宝首相とブラウン英首相 “flickr”より By Foreign and Commonwealth Office
http://www.flickr.com/photos/foreignoffice/3247611288/)
【「自信の旅」】
国内的には悪化する雇用情勢、深刻化する干ばつ被害、不動産価格暴落の懸念など問題山積の中国ですが、外交面では先月末の温家宝首相の欧州歴訪、更に今月10日からの胡錦濤国家主席の中東・アフリカ5カ国訪問と、“大国”としての存在感を誇示する攻勢を強めています。
*****関係強化へ「自信の旅」=27日から欧州歴訪-中国首相******
中国の温家宝首相は27日から1週間の日程で、スイス、ドイツ、スペイン、英国と欧州連合(EU)本部を歴訪する。金融危機克服への共同対応や経済交流拡大を確認し、「中・欧間の協力進展に向けた自信を誇示する旅」(呉紅波外務次官補)としたい考えだ。
中・欧関係は、昨年12月に当時EU議長国だったフランスのサルコジ大統領がチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したことに中国が反発して冷却化。予定された中国・EU首脳会議も延期となった。今回の訪欧ではフランスは含まれておらず、欧州各国との関係強化を通じてフランスをけん制する思惑もありそうだ。
こうした中、中国国内では「米国発の金融危機や気候変動問題などで欧州は依然強い発言権を握り、中・欧の戦略的パートナー関係をなおざりにはできない」(国際問題専門家)との声が上がっている。異例の春節(旧正月)休暇中の外遊で対欧関係重視を誇示する狙いとみられる。【1月26日 時事】
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2日、イギリス・ケンブリッジ大学で講演中の温家宝首相が、「なぜ大学がこの独裁者に平伏できるのか」などと叫ぶ者に靴を投げつけられるハプニングもありました。
中国国内のネットでは、英雄視されたブッシュ大統領のときとは打って変わって“卑劣な!”といった批判を呼び起こしたようですが、中国国営メディアはこの事件について報道を控えるか無視するかのどちらかで、政府間では問題にしない対応がとられました。
【関係強化をはかる英仏】
ブラウン英首相は2日、温家宝首相と会談後、中国の景気浮揚への取り組みを活用して1年半以内に対中輸出を倍増させたいと、対中国関係を強化していく方向を発表しています。
****対中輸出の倍増を目指す=英首相****
ブラウン首相は「金融危機に対処するための景気刺激策の一環として中国が発表した建設、インフラ部門のプロジェクトから、英企業は恩恵を受けるだろう」と述べるとともに、「中国は世界経済の健全性を回復する一つの方法として、自国の内需を拡大することを決定した」と指摘した。そのうえで「これはインフラ、医療、産業の発展につぎ込む資源を中国が一段と必要としているということだ」とし、「英企業にとってはこうした分野の契約から恩恵を受ける大きな好機となる」と強調した。
温首相は「今回の欧州5カ国歴訪中に150億元(約1962億円)相当の貿易契約に調印した。欧州からモノとサービスを購入するためのチームを派遣する」と語った。同首相はさらに、「中国が経済成長を維持できれば、金融危機に直面している世界全体に最も大きく貢献することになる」と述べた。【2月3日 時事】
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昨年12月にサルコジ大統領がチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談して以来関係が悪化し、今回の欧州歴訪でも訪問国に入っていなかったフランスも、ラファラン元首相が中国を訪問し軌道修正を図っています。
****中国・温首相、仏元首相と会談 両国、歩み寄りの動き****
中国中央テレビによると、温首相は「現在の中仏関係は困難に直面しているが、責任は中国側にはない。相互尊重や内政不干渉といった基本原則を曲げることはできない」と指摘。これに対して、ラファラン氏は「チベット問題は中国の内政問題であり、フランスは中国の核心的な利益を害するつもりは毛頭ない」と答えたという。
ラファラン氏は昨年4月にも、北京五輪の聖火リレー妨害問題でこじれた関係を修復するため、サルコジ大統領の特使として訪中した経緯がある。中国外務省の姜瑜副報道局長は10日の定例会見で、ラファラン氏を「長年にわたり両国の友好に尽くし、多大な貢献をしてきた」と改めて評価しており、今回も歩み寄りの動きとみられる。【2月10日 朝日】
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こうした動きを“中国への擦り寄り”と呼ぶかどうかはともかく、英仏ともに中国の存在を無視できない実情が窺われます。
【資源外交からの脱却】
一方、胡錦濤国家主席は10日から8日間の日程でサウジアラビアのほか、マリ、セネガル、タンザニア、モーリシャスのアフリカ4カ国を公式訪問しています。
****胡主席 アフリカ4度目歴訪 金融危機 “大国”の存在感誇示*****
胡主席のアフリカ訪問は2003年の就任後4度目だ。外務、商務の閣僚2人も先月、アフリカ諸国を歴訪した。中国はアフリカ諸国との関係を「新型戦略的関係」と位置付けており、金融危機への対応から援助外交への関心が薄れている日米欧のすき間を突く形でアフリカ諸国との経済関係を強化し途上国の代表として影響力を飛躍的に高めることを狙っている。
今回の胡主席のアフリカ歴訪は07年2月の8カ国訪問に次ぐものだ。
中国外務省の姜瑜報道官は、一連の対アフリカ外交について、「新しい戦略パートナー関係を深く発展させる」と表現した。
これは、これまでのアフリカ外交が欧米諸国から「石油など資源獲得を重点にした資源外交であり、中国製品を売りつける新植民地主義だ」と批判されたことを踏まえ、今後は「医療、教育、農業、インフラ、公共施設など社会発展につながる支援や、アフリカ人民の雇用と生活水準向上につながる支援を重視する新たな形」(外務省幹部)を探っていくことを意味している。
援助や借款を与える見返りに石油・鉱物資源を受け取る資源外交が根本的に変化するのかは不明だが、金融危機でアフリカ経済が打撃を受けている現状を踏まえ、胡主席はこれまでよりも積極的に援助や債務免除を打ち出す構えだ。また中国はアフリカ諸国の輸出を支援するため、すでにアフリカ31カ国から輸入する繊維、農産物など10種類以上の製品にゼロ関税を実施しているが、その対象範囲をさらに拡大させる方針だ。
中国とアフリカ諸国の貿易額は、2000年の106億ドルから昨年には前年比45%増の1068億ドルと10倍に膨らんだ。直接投資額は中国側の統計がまちまちだが、すでに累計で数十億ドルから100億ドルの規模とみられ、援助対象国も48カ国に広がっている。
日米欧の対アフリカ支援が減少傾向にあるなか、胡主席は援助拡大を進めることで、4月にロンドンで開かれる主要20カ国・地域(G20)金融サミットで、途上国代表の“大国”として存在感を誇示するための布石の意味もあるようだ。【2月5日 産経】
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就任後4度目というのは、相当の力のいれように思えます。
従来型の資源外交パターンから脱却するのかどうかはわかりませんが、そういうことを意識するようになったということだけでも“変化”のようにも見えます。
また、アフリカ諸国における中国の存在感が更に高まることは間違いないようです。
【東アジア世界の将来像】
日本では、最大の貿易相手国という深い経済的関係・戦争だけでなく有史以来の長い歴史・交流にもかかわらず、中国に対する信頼感・親近感がかつてなく低下しています。
中国が人権問題・政治体制をはじめ日本とは異なる多くの問題を抱える国であることは事実ですが、いたずらに“上から目線”の優越感や対抗意識にとらわれず、その大きな存在を直視したうえで新しい東アジア世界の将来像を構築する必要があるように思えます。