孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア・ウクライナのガス騒動  新たなガス供給ルート模索と原発回帰

2009-02-08 17:16:49 | 国際情勢

(ロシアのプーチン首相とウクライナのティモシェンコ首相のガス問題に関する合意文書取り交わしの場面 写真左下の手がティモシェンコ首相ですが、個人的には、首相の美貌が写っていないのが非常に残念です。
“flickr”より By Antonis SHEN
http://www.flickr.com/photos/antonis/3233793002/

【とばっちりの欧州各国】
ロシアとウクライナの年末恒例ガス騒動は、ロシアが1月1日からウクライナへのガス輸出を停止、7日にはウクライナによるガスの抜き取りなどを理由に同国経由の欧州向けガス供給も停止したことによって、供給が完全に止まった国が東・南欧7ヵ国、供給減少を含め被害を受けた国は計17ヵ国と、過去に例を見ない大騒動に発展しました。

ロシアのプーチン首相とウクライナのティモシェンコ首相の協議により、結局、ウクライナ向けガス供給価格とウクライナに支払う欧州向けガスのパイプライン通過料を来年からともに欧州並みの価格に引き上げること、ただし今年はガス価格を欧州の2割引きに、通過料は据え置くことで合意し、1月20日にようやく欧州へガスが届くことになりました。

この騒動の時期、私は、冬場でも10℃をきることは少ない奄美大島からスキー場もある宮崎県五ヶ瀬町に引っ越してきました。
ところが越してきた4,5日間は、エアコンの不調や電気容量の関係でエアコンが使えず、外は雪が積もり、夜間・朝方は室内でも2℃くらいまで下がる状況で、室内でもコートにマフラーという格好でファンヒーターの前で固まっていました。
そんなこともあって、暖房用ガスが途絶え寒さに震えるブルガリアやスロバキアなど東欧諸国の人々のニュースを他人事ならぬ共感を持って見聞きしていました。

この騒動の背景には、伝えられているように、親欧米路線をとりNATO加盟を目指す旧ソ連のウクライナに対するロシアの政治的圧力、資源価格低落によるロシアの財政悪化・ウクライナの経済事情逼迫という経済問題、更にウクライナにおけるかつての同志であるユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相の次期大統領選挙に向けての抗争といった側面があります。

【ナブッコ、ノード・ストリーム、オデッサ-ブロディ】
それはともかく、結果的にロシア・ウクライナ双方とも国際的信用を落とすところとなり、関係各国は同様のトラブルを毎回繰り返すことに業を煮やしており、こうした事態を回避する動きを早めることが予測されます。

****ガス供給:ロシア迂回ルートの実現に向け首脳会議開幕*****
ロシアを迂回するガス輸送ルート「ナブッコ・パイプライン」の実現を目指す関係国の首脳会議が1月27日、ブダペストで始まった。欧州向けロシア産ガスの約2週間にわたる供給停止を背景に、関係国間ではナブッコ計画に期待が集まる。だが、肝心のガス供給源や100億ユーロ(約1兆2000億円)とも言われる資金確保のめどは立っておらず、計画の具体化が問われている。
会議にはホスト国ハンガリーのジュルチャーニ首相、欧州連合(EU)議長国チェコのトポラーネク首相、ガス危機に直撃されたブルガリアのスタニシェフ首相、ガス供給国として期待されるアゼルバイジャンのアリエフ大統領らが出席した。
ナブッコは中央アジアから欧州向けにガスを送る計画。トルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリーを経て、オーストリアまで約3300キロのパイプライン整備を目指す。
ジュルチャーニ首相は「欧州として資金面の支援が欠かせない」とEUの後押しを求めているが、EUの金融機関「欧州投資銀行」のメイスタット総裁は26日、首脳会議前の会見で「融資基準を満たすかどうか情報を得てからだ」と慎重な姿勢を崩さなかった。【1月27日 毎日】
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ロシアもウクライナ経由を回避したい思いでは同じです。
ロシアは新たなパイプライン計画「ノード・ストリーム」を進めています。

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ノード・ストリームとは、サンクトペテルブルグの北に位置する都市ヴィボルグと、欧州最大の顧客であるドイツを直接結ぶ海底パイプラインのことである。現在ロシアと西欧を結んでいる地上パイプラインは、ウクライナやポーランドなど親米反ロの国々を経由している。これがロシアにとって頭痛の種なのだ。
新しいパイプラインはスウェーデンの経済水域を通るため、同国政府は、「航路妨害」「漁業区域の妨害」「環境破壊問題」などを理由に反対している。そのため、当初2010年完工予定だったのが、12年まで延長された。
しかし、このプロジェクトにはロシア・ドイツ・オランダが直接参加し、他の西欧諸国も天然ガスの安定供給を必要としていることから、遅れはあっても完成するものと見られる。
そのとき、反ロのウクライナにはこう宣告するだろう。「カネが払えなければ凍死しろ!」と。【1月26日 DIAMOND online】
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昨年5月頃になりますが、ウクライナ・グルジアというロシア離れを強める国の主導で、ウクライナが敷設した既存のパイプライン「オデッサ-ブロディ」を使って、カスピ海産の石油・天然ガス資源をロシアを回避して欧州に運ぶという計画が協議されているという報道もありました。
「オデッサ-ブロディ」は現在、ロシアが自国産石油を黒海経由で輸出するために使っており、ロシアとの契約を破棄することになるこの計画にはロシアの反発も予想されています。
また、現在、石油や天然ガスの輸出をロシア国内のパイプラインに依存しているカスピ海沿岸のカザフスタンやトルクメニスタンなど資源国の協力も不可欠です。【08年5月23日 毎日】

【原子力発電見直し】
話は天然ガスに留まらず、欧州各国の原子力発電見直し論議にも及んでいます。

****スウェーデン:原発建て替えの方針 回帰の動き欧州諸国に****
スウェーデン政府は5日、原子力発電所を段階的に廃棄する政策を撤回する方針を表明した。同国は約30年間維持してきた脱原発政策の見直しによって稼働中の原子炉10基を建て替える考えで、議会承認が必要だ。政策転換の理由を「地球温暖化防止とエネルギー供給の確保」としている。同様の理由などによって、原発回帰の動きは欧州諸国に広がり始めている。(中略)

欧州各国に原発回帰の動きを広げているのは、地球温暖化対策だけでなく、天然ガスの最大の供給国ロシアが資源を政治的意図の道具にする傾向への警戒もあるからだ。ロシアとウクライナの対立に端を発した先月の欧州向け天然ガス供給停止問題では、危機的状況に陥ったブルガリアやスロバキアが廃炉にした原発の再稼働を検討した。

一方、ドイツではシュレーダー前政権が00年に脱原発の方針を決め、2020年ごろまでに国内のすべての原発を停止する方針を02年に法制化した。05年秋に発足したメルケル政権は、大連立内閣の政策協定で脱原発維持を決めている。また、スペインのサパテロ首相は昨年6月、既存原発を刷新せず、原発を段階的に廃止する方針を表明した。

原子力発電を脱二酸化炭素の「クリーンエネルギー」と位置づける考え方に対し、原発の安全性の問題を重視する環境団体から強い反発がある。その一方で環境保護対策で先進国と評価されてきた北欧・スウェーデンで、脱原発政策放棄が鮮明になったことは国際世論にかなりの影響を与えそうだ。
スウェーデンの世論調査では、「原発維持賛成」の意見が過半数を占めている。与党・中央党のオーロフソン党首は「原子力エネルギーは予見できる将来の電力供給システムの一部になる。これはもはや事実だ」と強調した。【2月6日 毎日】
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「エネルギー供給の確保」と「原発の安全性」は悩ましい問題ですが、回答がアプリオリに決まっている訳ではなく、代替エネルギーの安定確保に関する事情、そのための政策的努力との兼ね合いで論議されるものでしょう。
日本について言えば、ドイツやスペインのような政策的努力をやや欠いているのではないかという印象を感じています。

コメント (1)
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