孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  安楽死阻止に向けた緊急政令審議中の死去

2009-02-15 12:31:31 | 世相

(ベルルスコーニ政権による延命措置停止差し止め法案に反対する集会・・・ではないでしょうか。イタリア語なので定かではないですが。
“flickr”より By Stefano Minguzzi - stefanominguzzi.com
http://www.flickr.com/photos/newbrainframes/3261994901/)

先日イタリアで、ある女性の安楽死をめぐり、政治・宗教を巻き込んで(あるいは、政治・宗教に巻き込まれて)社会は大きく揺れ動きました。

****安楽死論争の女性が死去=17年間の植物状態の末に-伊*****
イタリアからの報道によると、17年前に交通事故に遭い、植物状態になったエルアナ・エングラロさん(38)が9日、同国北東部ウディネの病院で死去した。エングラロさんをめぐっては、植物状態になった人の安楽死を認めるか否かで、政界やカトリック教会を巻き込んで論争になっていた。

長年にわたりエングラロさんの介護に当たってきた父親は、娘の死ぬ権利を認めるよう訴えを提起。昨秋には破棄院(最高裁に相当)で、植物状態からの回復がないことや、生前に本人が安楽死の意思表示をしていたことなどから、延命措置の解除を認める判決が下された。

これに対し、右派のベルルスコーニ政権は6日、延命治療の継続を求める政令を閣議決定。ただ、左派のナポリターノ大統領が署名を拒否して、政令は無効に追い込まれた。
このため、上下両院で過半数の議席を握るベルルスコーニ政権は政令を法案に切り替えて、9日に上院での審議を開始したが、入院する病院は延命措置解除に着手していた。【2月10日】
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エングラロさんの死去は、エングラロさんを死なせるべきではないとして上院で延命措置停止を差し止めるための緊急法案が審議されているさなかでした。

イタリアはローマ法王庁を抱える国ですので、その意向が社会に強く影響します。
ローマ法王庁のロザノバラガン保健従事者評議会議長(保健相)は「人の手を介して亡くなったのであれば、犯罪とみなし続ける」と病院の対応を批判しています。
こうした事態を受け、ウディネ地検は病院からカルテを押収するなど捜査を開始したと報じられています。

一方で、保守派のベルルスコーニ首相に対しては、この問題を政治問題化しているとの非難の声があがっているそうです。

安楽死に関しては多くの識者が議論している問題であり、万巻の書が書かれているところで、そうした抽象的な議論には全く疎い私が口をはさむことは何もありません。
ただ、延命措置に関する事例は自分たちの身のまわりでもときおり見聞きする、あるいは実際にその関係者になる問題でもあり、世間話の延長として、この種の話を仲間内で話す機会も多くあります。

そんな会話で殆どの人が口にするのが、「自分はそんな延命措置をしてまで生きたいとは思わない」ということです。
私自身もそのように思っています。
もっとも、そのとき「そうは言っても、自分自身がそういう場に置かれると、それでも生きたいと思うかもよ・・・」といつも付け加えますが。

人の命を人の手によって絶つことの根源的問題もあります。
また、安楽死的なものが認められる場合、そうした措置が一般的となり、本人の意思が必ずしもはっきりしないようなケースについても、周囲の人々の意思で死が決定されるような風潮を生むことも考えられます。

しかし、“植物状態”(このような言葉が適切かどうかはわかりませんが)に陥った時点、現在の医療技術では回復の見込みがほぼなくなった時点で、すでに人の力が及ぶところから離れたと解すべきではないでしょうか。
後に残された時間は、本人及び周囲の人々が死を受け入れるために心の準備をする猶予時間みたいなものでしょう。
その猶予時間が1ヶ月なのか1年なのかは様々でしょうが。

多くの事例の中には、うかがい知れぬ本人の意思に沿わないケースも出てくるかもしれませんが、そもそも、病気・事故・犯罪・・・殆どの人の死において、生きたいと願う本人・家族の意思に反して死は人に襲い掛かるものです。
本人が死を望んでいるかはっきりしないから・・・というのが延命措置を続ける絶対的な理由にもならないようにも思えます。

今回のエングラロさんのケースでは、静かに向かえるべき死が、政治的な思惑によって混乱のなかに投げ込まれた・・・そうした後味の悪さが残ります。


コメント
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