孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  中国への文化財返還で“人権”要求

2009-02-21 12:51:58 | 国際情勢

(北京・円明園の廃墟 中国自身が文化大革命の頃までは顧みなかった遺跡ではありますが。“flickr”より By dbaron
http://www.flickr.com/photos/dbaron/2444007320/)

日本・欧米的な価値観からみて、中国に重大な人権問題が存在することは周知のところです。
その中国で「人権デモ」が阻止されたとのこと。

****中国、「人権デモ」阻止****
クリントン米国務長官の訪中を機に中国の人権問題を訴えようと、北京市中心部で20日、「人権の旅」と題された数百人規模のデモが実施される予定だったが、公安当局は同日、厳しい警備態勢を敷いて事実上阻止した。デモは北京市民以外に、地方当局の不正や腐敗を訴えるために地方から北京に住み着く農民ら陳情者が中心となる予定だった。【2月21日 産経】
*******************

【「チベット問題は中国の内政問題」】
一方、アメリカは中国との連携を強化の方向を強めています。
先のローマでのG7において、中国の人民元相場に対する圧力が前回より後退した表現となりましたが、これは長官就任前に「オバマ大統領は中国が為替操作をしていると信じている」と指摘し、為替政策をめぐり中国との関係が一時悪化したアメリカ・ガイトナー財務長官の意向が強く反映されたものと報じられています。 【2月15日 時事】

「人権デモ」が意識したヒラリー・クリントン国務長官ですが、「人権問題が世界的金融危機、気候変動、安全保障といった問題での進展を妨げてはならない」と述べ、米中両国は、中国政府のチベットへの対応など、人権問題における長年の意見の食い違いについて歩み寄るよりも、現在世界で起きている重要問題に取り組む可能性の方が高いとの見解を示しています。【2月21日 AFP】
世界不況という現状を考えると、中国との連携を重視せざるを得ないところと思われます。

一方、何事につけ自己主張が強いフランスも、昨年4月の北京五輪の聖火リレー妨害問題や、昨年12月にサルコジ大統領がチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談した問題で、中国との関係が悪化しましたが、今月10日、ラファラン元首相が訪中して温家宝首相と会談、「チベット問題は中国の内政問題であり、フランスは中国の核心的な利益を害するつもりは毛頭ない」と発言して、関係修復をはかっています。

【波紋を広げるネズミとウサギ】
そんななかで、第2次アヘン戦争(アロー戦争)時に英仏連合軍によって破壊された北京「円明園」から持ち出されていたネズミとウサギの頭部ブロンズ像をめぐって、あらたな軋轢がおきそうな様子です。

****「人権軽視なら銅像返さない」=中国の要求にクギ-仏所有者****
パリで25日に競売に掛けられるブロンズ像2体が、北京の庭園から略奪されたものだとして、中国政府が返還を求めている問題で、フランス人の所有者は20日、「無条件では渡さない。中国が人権を認めるつもりなら提供の用意がある」と述べ、人権を軽視する国には返還しないとクギを刺した。
競売されるのは北京の「円明園」から清朝時代に英仏軍が持ち出したとされるウサギとネズミの頭部の像。所有者でデザイナーの故イブ・サンローラン氏のパートナーだったピエール・ベルジェ氏(78)は仏メディアに「中国が考えているのと違って、無条件で渡す気はない」と話した。【2月21日 時事】
*************************

中国外交部の姜瑜報道官は「周知の通り、当該文化財は第2次アヘン戦争時に英仏連合軍に強奪され、長年海外に流出していた中国の貴重な文化財である。中国はこれらに対して、疑問の余地なき所有権を有しており、当該文化財は中国に返還するのが当然である。戦争中に不法に略奪した文化財を競売にかけるとは、中国人民の感情を傷つけ、中国人民の文化的権益を損なうだけでなく、国際条約にも反する。関係方面の慎重な考慮を望む。」と返還を要求しています。【2月13日「人民網日本語版」】

ウサギとネズミの頭部銅像は円明園にあった12支銅像の中の2点で、1860年に英仏連合軍が円明園を強奪した際になくなり、現在までのところ、5点が中国に返還されています。
ウシ、サル、トラの頭部銅像は2000年に保利集団が約3000万香港ドルで取り戻し、ブタ、ウマの頭部銅像は澳門の何鴻燊氏が2003年、2007年にそれぞれ700万元、6910万香港ドルの資金を投じて買い戻し、中国に寄贈しているとか。

【奪った側と奪われた側】
今回は中国政府の公的な返還要求に併せて、劉洋氏をはじめとする中国民間弁護士団が、国際法にもとづく訴訟を起して返還を要求しています。

****************
劉洋氏によると、弁護士団の最たる法律的根拠は、私法統一国際協会(UNIDROIT)による「盗取または不法に輸出された文化財に関する条約」である。条約は、盗まれた文化財の所有者は盗まれた文化財を返却すべきであることを明確に規定している。フランスは条約の加盟国で、中国は1997年に同条約に加盟した際、「中華人民共和国は戦争が原因で略奪され或いは盗まれて海外に密輸された文化財に対して、時間的制限を設けずに取り戻す権利を保留する」と表明した。現在、弁護士団は世界中のこれに類似した訴訟事件を探し集めているが、そのうち4件が勝訴し、1件が敗訴していることから、弁護士団は勝訴に自信満々である。

しかし、弁護士団が依拠するすべてのルール体系は国際的道義のみを拠り所に維持されており、効果的な制約メカニズムに欠けるため、成功を収める可能性は大きくないと見る専門家もいる。
事実上、文化財主権国の申し立てに対して、西側諸国は少しも耳を貸さないだけでなく、声明をでっち上げた。大英博物館やパリのルーブル美術館をはじめとする19の博物館は2002年に、いわゆる「世界の博物館の重要性と価値に関する声明」の中で、これらの獲得物(略奪品)は、購入したものであれ、贈答・交換などの方式で手に入れたものであれ、いずれも博物館の収蔵品の一部となっており、ひいては国のコレクションにまでなっている、と公言した。(後略)【2月20日「北京週報日本語版」】
*****************

ピエール・ベルジェ氏の「中国が人権を認めるつもりなら・・・」云々はわからないではないですが、ただ、当該文化財について言えば、やはりもともと欧米列強が世界中の多くの国々から強奪・収奪した無数の文化財・遺産の一部であり、その返還について「そこまで言うかな・・・」との違和感を覚えます。

この違和感は、単に文化財持ち出しの話だけでなく、欧米列強の話だけでもなく、もっと広く通じるところがあるものかとは思いますが、話が拡散するので今日はここまで。


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする