戦車などは、法律の規定で夜間にしか運べないものもあった。
日中は、市民生活への影響が懸念されるためだ。
そして自衛隊は、民間にも協力を求めた。
移動には、一般客も乗り合わせる定期便のフェリーを使い、戦車や大型の重機は民間の貨物船で運んだ。弾薬の一部は、運送業者が運んだという。
今回の演習で協力を得た民間企業は、輸送関連だけで20社以上にのぼる。
武器や弾薬を運んでいた企業からは、「事態がより切迫すれば、なし崩し的に協力の幅が広がり、巻き込まれるのではないか」といった戸惑いの声が聞かれたのも事実だ。
海洋進出を強める中国を念頭に、新たな部隊を配置するなど、南西諸島の防衛体制の強化を図ってきた自衛隊。
次の段階として、実際に部隊を動かす「実動」にかじを切り、実践的な備えを進めている現実が見えてきた。
陸上自衛隊第2師団 冨樫勇一師団長
陸上自衛隊第2師団 冨樫勇一師団長
「ルールに従い、手続きを踏みながら速やかに移動するという現実の中で訓練することで、いろいろな教訓や課題が得ることができる。いま、自衛隊の実効性の向上が、真に求められていると思う」
住民をどう避難させるのか
台湾での軍事衝突を想定したシミュレーションでもう一つ、大きな論点となったのが、「住民をどう避難させるか」という問題だ。
台湾での紛争によって、日本が軍事目標とみなされるリスクを考えれば、できるだけ早く住民を避難させなければならない。
防衛大臣役から、こんな質問が出た。
防衛大臣役 長島昭久 衆議院議員
防衛大臣役
「国民保護と事態認定というのは、どの程度リンクしているものなのか。事態認定がなくても、住民の避難というのは前広に始めていくものだと思っていたが、重要影響事態であれば、国民保護の発動もしやすくなるのか」
統合幕僚長役
「『武力攻撃事態等』で認定、ですね」
日本が直接、武力攻撃を受けたか、攻撃を受けることが予測される事態でなければ、自衛隊は法律に基づく国民保護はできない、という答えだった。
これに対して出されたのが、地震や豪雨など、自然災害への対応を定めた災害対策基本法に基づく避難の呼びかけで対応できるのではないかという意見。
しかし、強い異論が出た。
官房長官役
「国民保護法による避難は戦時を想定した避難であり、災害対策基本法による避難とはベース的にまったく違う。災害対策基本法というエクスキューズはせず、法的にも、有事を想定した避難だと説明できるようにしたほうがいい」
国民保護法による避難には、ほかにも課題がある。
台湾からわずか100キロにある沖縄県の与那国島。
(続く)