Con Gas, Sin Hielo

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「シェイプオブウォーター」

2018年03月04日 16時37分23秒 | 映画(2018)
力なき者を護るのは愛。


間もなく発表となる第90回アカデミー賞で最多の13部門ノミネートと話題になっている本作。おたく監督として名を馳せているG.デル・トロ監督が放つ異色のファンタジーである。

主人公は耳は聞こえるが言葉を話すことができないイライザ。再上映専門の古びた映画館の2階に住み、夜のとばりが下りる頃に目覚まし時計の音で起き、夜通し政府の研究所で清掃員として働く日々を送っていた。

しゃべらない彼女は一見幸せなのかそうでないのかが分からない。ただ、仕事へ向かうバスの車窓に映る夢見がちな表情は、まるでこれからサクセスストーリーが待ち受けるヒロインのように見えた。

そんな彼女の前に突然現れたのは、研究所に極秘で運び込まれた謎の生物。研究所の責任者・ストリックランドの指を食いちぎった半魚人のような生物に対して、何故か心を奪われるイライザ。やがて謎の生物の方も彼女の思いを感じ取り、二人は生物学の垣根や常識を超えた関係を築いていく。

筋立ては分かりやすい。人物設定も非常に単純で、主人公をはじめとしたいわゆる弱者に対して、職場の幹部や国家といった強大な存在を対極に配置。彼らは異質なものの象徴である謎の生物を力で押しつぶそうとする。

そういった物語の構図は社会的正しさを求める現代の風潮に合っているのだろう。でも、それを加味したとしても、この風変わりな作品にアカデミーがどう判断を下すのかはなかなか予想がつかない。

もちろん作品の価値は扱うテーマだけではない。音楽や美術など細かいところにもデル・トロ監督のこだわりがしっかり表現されているからこその13部門である。

1960年代前半は、米ソが覇権を競い合う冷戦の創成期。差別がべったりと染みついた社会には、上流に所属する者だけが触れられる世界と、下流として生きる者が這い回る世界が明確に分かれていた。

ストリックランドは強者側の象徴として極端な描写に終始する。更なる出世への腰かけとして研究所がある田舎勤務を受け入れた彼は、ステレオタイプな白人妻子を広い邸宅に住まわせ、いまや低燃費で誰も評価しないマッチョなアメ車・キャデラックを乗り回す。

時代の理不尽さが浮き彫りになると同時に、現代に生きる我々からすれば滑稽で哀れとも思えてくる。視覚的効果は抜群だ。

他方、イライザのいる光景は色の鮮やかさこそないが、常に水の潤いに満たされ、柔らかく温かい音楽が流れている。仕事を失った老人のジャイルズ、職場仲間の黒人女性ゼルダがいつも見守っている。

愛に身をゆだねた者と、それをねじ伏せようとした者の結末は、容易に想像ができたとしても心に小さな灯がともる。映画だからこそできる表現の豊かさに溢れた味わい深い一品に仕上がっている。

(80点)
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