Con Gas, Sin Hielo

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「リチャードジュエル」

2020年02月11日 13時19分44秒 | 映画(2020)
正義を背負うリスク。


アトランタオリンピックというと24年前の話である。人々は9.11を知らないし、携帯電話もそれほど普及していなかったから、世の中の景色は現代とは隔世の感がある。

それでも、本作がスポットを当てたテーマは現代社会にも通底する、というより更に深刻化している問題である。

オリンピックの関連イベントとして開かれていた音楽フェスの会場で爆発事件が発生する。警備員として勤務していたリチャード・ジュエルは、いち早く不審物を発見し観客を避難させたとして、メディアから正義のヒーローと祭り上げられる。

しかし事態は一転、FBIがリチャードを容疑者に指定していることが伝えられると周りはバッシング一色となる。リチャードに逆転の目はあるのか。

事件を捜査するということはまだ事実が確定していないということ。だからこそ「推定無罪」という言葉があるのに、ちまたの噂は正反対の方向に広がっていく。

この人は怪しい、性格が悪そう、こんなことを言ってたよ。推測と切り取り。時には意図的に空気を操って群集心理を誘導していく大きな力。リチャードの事件は、普通に暮らしていてもそうした力の標的になりうる恐怖を見せてくれる。

うがった見方をすれば、この映画だってどこまで事実なのかは分からない。映画だから一定の脚色が含まれていることは想像に難くない。映画の中でえん罪が形成されていく過程はあまりにも杜撰だ。

ちょっと調べれば分かる話なのに何故リチャードを容疑者に仕立て上げたのか理解に苦しむし、FBIとメディアの繋がりもステレオタイプ過ぎて、この話をまともに受け取っていいのだろうかと斜に構えて観ていたというのが正直なところだ。

そんなわけで、結局リチャードは証拠不足で無罪になるもののもう一つ爽快感には欠ける結果となったのは残念であった。残念と言えば、注目を浴びるためなら何でもするとリチャードを陥れる新聞記事を出したメディアが何のおとがめもないというのにも不満が残った。真実は必ずしも劇的ではないということなのかもしれないが。

リチャードが無罪となった要因としては、相手がFBIの支局だったということも挙げられるかもしれない。これが国家の中枢だったら杜撰だろうが何だろうが握りつぶそうとパワーゲームを仕掛けてきたであろうに違いない。現実にそういうニュースは世界中でちらほら聞かれる。そう思うとやはりこの映画が描く世界は恐怖だ。

リチャードは言う。「自分を取り調べるのはいいが、今後同じように爆発物を見つけた警備員は、リチャードの二の舞になりたくないと任務を果たさなくなるだろう」

事なかれ主義。触らぬ神に祟りなし。こうした空気は世界中に蔓延している。もちろん自分だって例外じゃない。どうすれば違う流れを作れるのか。明快な答えがない難しい問題だ。

リチャードを支える弁護士でS.ロックウェルが好演。「ジョジョラビット」 - Con Gas, Sin Hieloといい、最近かっこいい役が急増中である。

(70点)
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