Con Gas, Sin Hielo

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「ジョジョラビット」

2020年01月18日 00時27分01秒 | 映画(2020)
見えない境界線を越えてしまわないように。


第二次世界大戦も佳境に差し掛かった時代のドイツ。10歳の少年・ジョジョは兵士を育成する少年のグループに入り、訓練の日々を送っていた。

わが国もそうであったように、戦時下のドイツはガンガンいこうぜ、ナチス一色に染まっていた。ジョジョもナチスの兵士として戦うことこそが正義と信じ込み、部屋にはヒトラーのポスターを貼って一人前になることを夢見ていた。

しかし理想とは裏腹にジョジョは、はじめは勇ましい言葉を発するものの、すぐに臆病風に吹かれてしまう心優しい子であった。挙句に付けられた呼び名は「ジョジョラビット」。不慮の事故もあって、ジョジョは訓練生から外れてしまう。

臆病な自分を鼓舞するために、ジョジョが頼りにするのは空想の友人・アドルフヒトラーであった。そんなある日、ジョジョは家の奥にある異変に気が付く。物音がする方向を辿っていくと、そこにはなんと敵視すべき存在のユダヤ人の少女が匿われていたのであった。

戦争が多くの人の運命を変えたことは間違いない。しかも敗戦国であれば、そのほとんどは取り返しのつかない悲劇となってしまったはずだ。

10歳の少年には選択する権利があったとしても圧倒的に知識が足りない。自分の性格に合っていようがいまいがナチスのために戦うのが唯一の道となるのは残念だが致し方ない。

しかしジョジョの運命は変わる。出会うはずのないユダヤ人少女・エルサとの交流が、もともと持っていた心優しさに火を灯すのだ。そのエルサを匿ったのはジョジョの母。戦争の悲劇からわが子を守りたい母の愛は叶うのか。

物語は、ジョジョの目線だけで描かれるわけではないが、彼のごく近くで起きていることだけを追って進んでいくので、実際にドイツが直面している状況は風景や他の人の様子から判断するしかない。しかしこれが実によくできている。

冒頭の場面で既にドイツは敗色濃厚になっている。それは、訓練グループの教官である大尉が漂わせるやる気のなさから明確に伝わるのだが、ジョジョがそれを感じ取ることはない。それは母親の日中の怪しい行動についても同じだ。

エルサとのふれあいが日に日に強まるのを見かねて、空想の友人・アドルフは警告する。10歳の少年に初めて葛藤が生まれるとほぼ同時にジョジョに新たな展開が訪れる。

やって来たのはゲシュタポであった。ここでも説明はない。10歳のジョジョはおろか、観ている側も何が起きたかよりも、まずエルサがどうなるかに神経が集中する。さらにそこに大尉がやって来た。

一連の後で我々はわかる。なぜゲシュタポや大尉がジョジョの家に現れたのか。既にジョジョの運命が大きく変わっていたこととともに、ジョジョの家族や大尉がどんな思いでジョジョを見守っていたのかを知るのである。

すべてを理解してしまったらあまりに切なくて感傷的になりそうなところだが、これもジョジョははっきり飲み込めないから、攻撃が続く街の中を夢中で走り回る。

戦時下を舞台にした映画にしては全体的に明るいトーンなのが印象的だが、その中でユダヤ人の処刑や少年兵への自爆強要といった場面がさらっと登場するところが余計に怖く感じられた。

最初は母と一緒のときにただ見つめるだけだった処刑場だが、二度目は吊るされているユダヤ人の遺体にすがりついて嗚咽する。ジョジョの意識の変化と人間としての成長を象徴する最大の場面であった。

さらに印象的だったのが、ずっと臆病な少年だったジョジョが最後に見せる表情。この年令にしてなかなかの役者ぶりに驚いた。

ジョジョの周りを固める演者も、S.ヨハンソンS.ロックウェルが上記のとおりジョジョを温かくそしてさりげなく見守る役を好演。さらには監督のT.ワイティティはアドルフ役でも活躍。多才だ。

(85点)
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