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「ワンスアポンアタイムインハリウッド」

2019年09月01日 00時32分55秒 | 映画(2019)
ハリウッドのやさしいおとぎ話。


1960年代後半から70年代にかけての時代の印象は、戦争、暴力、混沌である。泥沼化したベトナム戦争、国内では安保闘争から学生運動や過激派による事件、オイルショックなど不穏な言葉ばかりが思い浮かぶ。

そんな時代の最中、1969年に起きたシャロンテート事件は、名前は聞いたことはある気がするが、詳細を知ったのは今回が初めてであった。

ヒッピーたちのカルト集団が新進の若手女優を惨殺した事件はハリウッド史上最大の悲劇と呼ばれていると言う。

その事件を題材にした映画を、なんとあのQ.タランティーノ監督が作った。しかもL.ディカプリオB.ピットという2大俳優が主演というのだから興味が湧かないはずがない。

観る前は、3人とも過激な演出がハマる顔触れだけにそれなりの覚悟をしていたのだが、始まってみるとかなりコミカルな場面が多かった。

L.ディカプリオ演じるリック・ダルトンは、50年代にテレビシリーズの主役として人気を博していた。しかし映画界へ転身しようとして失敗し、今は新たなスターの引き立て役として単発の悪役しか仕事が来ない状態である。

彼にいつも寄り添うようにいるのがB.ピット演じるクリフ・ブース。リックのスタント俳優であるとともに、彼の私生活のほとんどを面倒見るマネージャー的な役割を果たす。わがままで気分屋のリックを冷静にとりなしているように見えるが、実は彼にもいわくつきの過去があるようで・・・。

と、この二人はいずれもフィクションのキャラクターなのだが、彼らの周りを実際にあった映像作品や人物が彩っていて、観ているうちに昔のハリウッドの実話をなぞっているような感覚に引き込まれていく。

リックはもう少しで「大脱走」の主役になっていた。クリフがブルースリーにけんかを売った。そしてリックが住む邸宅の隣に引っ越してきたのが、R.ポランスキー監督とシャロンテート夫妻であった。

「ローズマリーの赤ちゃん」を世に出して飛ぶ鳥を落とす勢いのポランスキー監督がヒエラルキーの頂点とすれば、落ち目のリックは1ランク下、そのマネージャーでトレーラーハウスに住んでいるクリフはもう一つ下になる。その更に下に位置するのが路上にたむろするヒッピーたちである。

物語の序盤で画面を横切るようにヒッピーたちが歩いていく。そのうちの一人がクリフに目配せをする。

この立場の違う登場人物たちがどう交差していくのか。意味ありそうでなさそうな長いシークエンスの重なりが、緊張感を生むとともに後半への期待感を増加させる。

そしてすべてが繋がるクライマックス。この展開は正直予想していなかった。

何故この事件を題材に選んだのか、そして事件をどう描いてみせたのか。事件の背景を少しなぞっただけなのに涙があふれそうになった。更にとても爽快な気分になった。

次から次へと出てくる当時のテレビや映画の映像、人々のファッション、自動車に娯楽施設の造形。おそらく細部まで緻密に忠実に作り上げたに違いない。贅沢を味わいつつ、かつ予想外に心が温かくなる快作であった。

(95点)
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