Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ストーリーオブマイライフ/わたしの若草物語」

2020年06月21日 22時24分41秒 | 映画(2020)
いまの幸せ。それぞれの幸せ。


うちの子に弟か妹がいたらどうなっていただろう。もう叶わないことだけれどよく考える。

兄弟は化学反応だ。同じ遺伝子を受け継ぎながらこうも性格が違うものかと、自分の兄をみると思い知る。そして性格が違う存在が近くにいるからこそ、その影響はとてつもなく大きい。

二人の兄弟でそれだけ感じるのだから、四人になったらどこまで可能性は広がるのか。もちろん良いことばかりではないだろうけれど、わくわく感は確実に大きいことだろう。

恥ずかしながら、若草物語は本を読んだことも映画を観たこともなく、まったく初めての体験であった。アカデミー賞のノミネートがなければ今回も観なかったかもしれない。

四姉妹の物語ということはかろうじて知っていた。主役は次女のジョー。小説家を目指す彼女は、結婚こそが女の幸せなどという古い考えには目もくれず、持ち前の感性と情熱で人生を切り開いていく行動的な女性である。

ジョーの人物設定は、多様性を正義とする現代にあまりにぴったりとハマっていて、はじめは原作を時代に寄せてアレンジしたものと思い込んでいた。後で調べると設定はほぼ忠実。南北戦争と言えば150年以上も昔のはなし。なるほど欧米はさすがに進化が早かったのだ。

四人はこれでもかというくらい徹底的にキャラクターが分かれている。趣味嗜好も異なり、次女が小説ならば、三女は音楽、四女は美術である。こんなにキレイな分かれるのも作ってるんでしょ、と思ったらこれまた原作通り。わが国だと、弟や妹は上の兄弟と同じ部活に入っちゃうことが多い気がするけど、これもお国柄か。

父は北軍の従軍のため長期間家を空けており、留守を守るのは母を含めた女性たち。長女のメグと三女のベスがおとなしめな一方、ジョーと四女のエイミーは勝気な性格でお互いに衝突を繰り返す。

ジョーを演じたS.ローナンとエイミーを演じたF.ピューはいずれもアカデミー賞にノミネートされた。クセのある次女と四女を魅力たっぷりに演じ、観ているうちに彼女ら以外での二人は考えられないと思えてくるようになった。

映画の脚本は、ジョーがNY、エイミーがヨーロッパに移住して家族が離れ離れになった現代と、四姉妹がぶつかりながらも一つ屋根の下で仲睦まじく暮らしていた7年前とを頻繁に行き来する構成を採用している。

ややもすると混乱を来す手法だが、下手に冒頭に全員の紹介をするよりも、四姉妹の特徴を自然に観る側の脳内に植え付けるとともに映画への興味を掻き立てることに成功している。

繰り返しになるが、原作を捻じ曲げたり誇張したりという部分はほとんどないらしい。それでいながら、これだけ高い評価を受ける作品と成り得ているのは、物語が現代にこそ通じる生き方を描いていることと、その魅力を損なわず、むしろ増幅して伝えた作り手の技量によるものにほかならない。

そのような中で、最後の場面でジョーが出版社と原稿料を交渉する下りは興味深い。

ジョーは「ビジネスのために、主人公が結婚するよう結末を書き換えた(だから著作権や印税の取り分を考慮すべき)」と主張する。その後に出てくるジョーは実際にも結婚しているのだが、彼女の理想は必ずしも結婚ではなかったということを映画は語る。

つまりこれは、150年前と現在はまったく逆で、いまは「結婚してめでたしめでたし」ではビジネスが成立しないということを示している。幸せの定義は時代によって変わるのだ。

他方、夫を持ち、叔母が遺した家に作った学園で姉や妹と語らうジョーは限りなく幸せそうではあるが、それはあくまで彼女のはなし。いつの時代でも、幸せは人によって変わるのである。

(90点)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「デッドドントダイ」 | トップ | 「レイニーデイインニューヨ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画(2020)」カテゴリの最新記事