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「レイニーデイインニューヨーク」

2020年07月06日 22時32分44秒 | 映画(2020)
帰るべき場所は、もうそこにはない。


W.アレンはしばらくニューヨークを離れて映画を撮っていたことがあった。その中にはキャリアで最高級の評価を受けた「ミッドナイトインパリ」といった作品もあり、決して彼の製作能力が衰えたわけではなかった。

しかし、やはりアレンといえばニューヨークである。本作は、これまでの作品の中でもニューヨークの街並みに焦点をひときわ多く当てたものとなっており、宣伝広告の中では「アレンによるニューヨークへのラブレター」といった言葉も見られる。

T.シャラメ演じるギャツビーは、ニューヨークのエリート家庭に育った青年。親への反抗心を抱きながら郊外の大学へ通っている。アリゾナの銀行経営者を親に持つアシュレーというガールフレンドがいるが、社交界に肌が合わないこともあり将来のことはほとんど考えていない。

ある日、アシュレーが学校の課題としてニューヨークで映画監督のインタビューをすることになった。せっかくだから彼女にいいところを見せようと地元デートのセッティングをするギャツビー。しかしこの二人の些細な週末の計画は思わぬ方向へ。

生き生きと描かれた多くの登場人物が交錯し合い、ちょっとしたアクシデントの積み重ねで運命が転がり出す独特のアレン節は健在。T.シャラメの斜に構えた青年も魅力的だが、負けず劣らずの存在なのがアシュレーを演じたE.ファニングだ。

かわいいけれどまったく垢抜けない、アリゾナの人が見たら苦笑するんじゃないかと思うようなアシュレーが、ニューヨークのどまんなか、しかもショウビズのセレブたちの中に入っていってみんなを掻き回す。いや、正確に言えばショウビズ界の男たちが光に群がる虫のように勝手に振り回されているだけなのだが。

彼女を巡るどたばた劇はこれまたアレン作品の醍醐味と言える。いい大人が何やってるの?という役を演じるのがJ.ロウL.シュライバーD.ルナというのも贅沢。

そのどたばた劇の裏でギャツビーには新たな展開が訪れる。多彩な顔を持つニューヨークの街。雨が降るだけで街の表情は変わる。生まれ育った場所なのにまったく気付かなかったこと。彼は新しい可能性を感じ取る。

最後の場面でギャツビーが取る選択には、おそらくアレン自身の思いが投影されているのだろう。ヨーロッパで映画を撮るのも悪くないけどやっぱりニューヨークが好きだと。

しかし皮肉なことに、いまの米国ではアレン作品に出演した自分の行動を間違いだったという流れが出始めている。直接の原因は30年近く前に起きたアレンの性的虐待疑惑だと言う。2年以上前に完成した本作は米国では未だに上映されていない。

故郷に戻って溢れんばかりの愛を捧げたつもりが、その愛はいつしか片思いになっていた。いや、そこにもう愛するひとはいなくなっていた。

W.アレンが描くニューヨークの映画とはこれでお別れなのかもしれない。40年近く彼の新作を映画館で観ることが楽しみだっただけに、まさかこんな最後になろうとは寂しくてやりきれない。

(90点)
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