原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

iPS臨床応用 丼予算計上より法規制を優先せよ

2013年01月31日 | 時事論評
 一昨昨日の1月28日に召集された第183回通常国会の所信表明演説に於いて、自民党安倍首相は自らが構想する経済政策 「アベノミクス」 を前面に出す言及を行った。
 
 この「アベノミクス」に関しては、既に野党や産業界、諸外国よりの反発を招き、敵対心を煽っている現状である。
 原左都子の私論としても、一部の期待感で株高や円安等経済指数の急変動をもたらしてはいるものの、実質的経済力の裏付けなき一国の身勝手な国力増強政策が国内外で今後どこまで機能し得るのか、不確実性の高い政策と捉えている。
 (「アベノミクス」に関してはまた日を改め、我がエッセイ集において議論の叩き台としたい。)


 さて、今回のエッセイでは表題の通り 「iPS細胞臨床応用研究」 に関する現状の問題点を取り上げ、私論を展開することを目的としている。

 自民党安倍政権は「アベノミクス」経済政策の一環として、iPS細胞臨床応用研究にも数千億円に上る巨額の国家予算を注ぎ込もうとしている様子だ。
 昨年京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞研究によりノーベル医学生理学賞を受賞したのに伴い、国内において当該研究の知名度及び市民の期待感が高まっている事を受けての巨額予算計上と私は理解している。 (早い話が、これまた自民党の夏の参院選対策票取り目的と私は解釈しているのだが…

 と言うのも元医学関係者の原左都子としては、そもそも昨年山中氏がiPS細胞研究によりノーベル賞を獲得した事自体に対し、疑義を抱いている。
 「原左都子エッセイ集」2012年10月バックナンバー 「科学基礎研究の終点は『ノーベル賞』なのか?」と題するエッセイにおいてその疑義内容に関して論評しているため、以下に少し反復させていただこう。
 原左都子が今回懸念するのは、「iPS細胞」研究に対してノーベル賞を贈呈するのは時期尚早だったのではないかという点だ。 と言うのも、「iPS細胞」は未だ基礎研究段階を超えてはおらず、人間の命を救うべく臨床医学に達していないと考えるべきではあるまいか?  決して、今回の山中氏の「ノーベル医学生理学賞」受賞にいちゃもんをつけるつもりはない。 ただ原左都子が考察するに、「ノーベル賞」受賞対象となる科学分野の基礎研究とは、医学生理学賞、物理学賞、化学賞を問わず、現在までは当該基礎研究の成果が既に世界規模で実証されていたり、経済効果がもたらされている研究に対して授けられて来たような記憶がある。 それら過去に於けるノーベル賞受賞対象と比較して、山中氏による「iPS細胞」研究はご本人も言及されている通り、まだまだ研究途上と表現するべきではあるまいか? 
 今回のエッセイの最後に「ノーベル賞」を筆頭とする「賞」なるものの意義を問いたい私だ。 「賞」を取得したことでその人物の今後の道程を歪めたり、更なる発展意欲を縮める賞であるならば、その存在価値はない。 そうではなく、受賞者に今後に続く精進を煽る意味での「賞」であって欲しいものだ。
 (以上、「原左都子エッセイ集」バックナンバーより私論部分の一部を引用)


 上記エッセイを綴った後に、私は朝日新聞紙面「声」欄で、これまた私論と一致する内容の投稿を発見した。
 少し古くなるが2012年11月9日の「声」欄で公開された51歳男性による「iPS細胞、畏れ忘れずに」と題する投書の一部を、以下に要約して紹介しよう。
 京都大学研究チームがiPS細胞から卵子を作るのに成功したとの報道に触れて戸惑った。 数日後、山中伸弥氏のノーベル賞受賞が決まってからも違和感を拭えずにいる。 iPS細胞はあらゆる臓器を作れる可能性があるらしい。臨床応用が実現すれば、難病の苦しみから解放される人々の数は計り知れないことは理解できる。それでも…  「倫理上の問題」解決を急ぐことなく、一つひとつの臨床応用について十分な議論がなされるよう望む。


 「iPS細胞臨床応用研究」とは、上記朝日新聞「声」欄投書者が懸念されている「倫理面」での問題に加えて、「再生医療現場における患者への人体リスク」との大きな問題を孕んでいる事実も厄介な課題である。

 朝日新聞1月29日朝刊一面記事によると、自民党政権厚生労働省は「iPS細胞臨床応用研究」に於ける安全確保を目的とした「再生医療規制法」案により、人体へのリスクが大きい治療を計画する医療機関には国の承認を求め、患者に健康被害が出た場合の補償を義務付けるとの報道だ。 現在開催されている通常国会での提出、成立を目指すという。

 原左都子の私論としては、「iPS細胞臨床応用」へ“丼勘定”で巨額の歳費計上法案を国民の前に提示する以前の問題として、上記「再生医療規制法」案の提出こそを優先して欲しかった思いだ。
 世の中には、必ずや“便乗組”が存在するものだ。 朝日新聞同日別ページの報道においても、既に「再生医療便乗組」の野放図な“便乗”の実態が取り上げられている。 例えば、民間クリニックの間では既に万病に効くとPRする“似非再生医療”が広まっているとの報道である。 その効果や安全性は確認されておらず、公的医療保険が使用できない段階の中、自由診療で数百万円が支払われる事例もあるという。


 最後に原左都子の私論でまとめよう。

 そもそもこの国の「健康医療教育」がお粗末過ぎることに関しては、「原左都子エッセイ集」バックナンバーにおいて幾度となく訴えてきている。
 その弊害故に医療に関する知識が乏しい市民が一旦体調を崩した場合、老若男女を問わず直ぐに医療機関へ直行する事態となる。

 京都大学教授であられる山中伸弥教授グループのiPS細胞研究、ひいてはそれによる昨年のノーベル賞受賞はもちろん讃えられるべきであろう。
 片や、昨年末に発足したばかりの自民党政権がそれにすぐさま便乗して巨額の予算を計上することを、山中教授は如何に捉えられているのであろうか?
 元医学関係者である原左都子が推測するに、山中氏とて国による巨額予算計上は一応うれしいであろうとは思う。  その反面、再生医療がもたらす“倫理面”での問題、及び悪質な“再生医療便乗組”の出現にも頭脳明晰な山中氏ならば既に思いを馳せられておられることと信じたい。

 そうであるからこそ、ノーベル賞との誉れ高き賞を取った国内研究者の今後更なる研究を妨げないためにも、国政には何を優先するべきかを熟考した対応を期待したいものである。