原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

美人のお酌も程々に

2009年06月11日 | 
 先だっての朝日新聞記事によると、長野県庁において県職員らの酒宴の席での「お酌禁止令」が発令されたとのことである。

 長野県内の日本酒生産量が減少の一途を辿る中、若手の酒造組合会員からの「最近はお酌を嫌う若者も多い」との発言を受け、自らも「お酌文化」に疑問を抱いていた長野県副知事が、早速年度替わりの県幹部の送迎会で「お酌禁止」を宣言したというのがそのいきさつであるようだ。

 必ず「手酌で自分のペースで飲みましょう」という副知事の呼びかけは、職員に好評であるらしい。
 「お酌」によって嫌々飲まされるのが迷惑、という理由以外に、女性職員からは「つぎに回らなければならないという気負い等がなくなった」、あるいは、「宴会後、おちょこやコップに残っている酒が減った」という“エコ”観点から歓迎する意見も出ているようだ。


 さて、本ブログの「酒」カテゴリーバックナンバー等においても再三暴露してきているが、私は自他共に認める正真正銘の“飲兵衛”である。
 (ペンネーム原左都子の“左”には種々の由来があるのだが、酒好きの“左党”の意味合いも実は含まれているのよ~~。

 そんな私も、若かりし頃より「お酌」は断固として反対派である。あれは、飲兵衛にとっても大いにストレスが溜まる飲み方なのだ。
 「お酌」というのは飲兵衛の立場から言うと、いちいち他人様についでもらわないことには“次が飲めない”飲み方なのだ。 それはまるで“犬がお預けをくらっている感覚”なのである。  私の場合、飲むペースが異様に速いのだが、「お酌」飲み会の場合、次は誰がいつ頃つぎに来るのか周囲を見計らって状況観察しつつ、自分を押し殺してちびりちびりと飲まねばならないことになる訳だが、欲求不満ばかりが溜まる宴会とならざるを得ない。

 もちろん、親しい間柄の飲み会では皆がそれぞれのペースを心得ているため、たとえ「お酌」によってもストレスが溜まることはない。
 一方、ひと昔前の職場の宴会等においてはこの「お酌」方式による飲み会が大多数だったのだが、これがいただけない。
 まだ若かりし頃、この「お酌」飲み会において大いに傷つけられたのは、杯を飲み干して次の「お酌」がなかなか来ずにイラついていた私に投げかけられる一言であった。
 「あら、ごめんなさいね。気が付かなくて。」 などと言われつつ「お酌」されると一気に酔いが覚めてしまい、とっとと帰ろうかと思ったものだ。
 「おー、いける口だね。どんどんいこう!」 といってどんどんつぎ足してくれるのは飲兵衛にとってありがたかったよなあ~。
 何はともあれ、マイペースで心地よく飲ませて欲しいものである。


 冒頭の長野県庁の女性職員の発言にもあるように、「お酌」をして回ることを強要されるプレッシャーも鬱陶しいものだ。
 一昔前の時代には、職場の“女性”や“新人”に「お酌」を強要することがまかり通っていたのだが、私は基本的に周囲に“媚を売る”ことが我が娘時代から苦手な人間だった。 自分は酒好きな癖に勝手なのだが、周囲に「お酌」をして回ることを忌み嫌いつつ今まで我が酒人生を歩んで来ている。

 私の場合飲兵衛だったことが幸いしたのか、女であるのに「お酌」を強要されずに娘時代の数ある宴会を無事に渡り歩いて来ているのだが、数年前にある職場の宴会において、そんな私にも「お酌」を強要する人物が出現して、愕然とさせられた経験がある。
 それは、当時の私の(医学専門職としての)アルバイト先だった“国がらみの某特殊法人”の職員の飲み会においての出来事だ。
 この職場の飲み会はとにかく形式ばっていた。(私に言わせれば)ほとんど飲めない人物の集合体であったため、“ここではまともに飲めない”と判断した私はいつも一滴も飲まないことに決めて(なぜならば飲兵衛にとって中途半端に飲む事ほどストレスフルなことはないため)、白けつつ時間が過ぎ去ることのみを待っていたものである。
 ある時、そんな私に近づいてきた職場長(某分野において世界的に名立たる人物なのだが)が、「あなたは新人なのだから、ここで座っていないで職場の皆に“お酌”をして回るべきだ。」と直言したのだ。
 おそらくその職場長と大きく年齢も変わらず、既にある程度人生経験を積んでいた私は、この不躾な言葉には驚愕させられたものである。 その暴言を受けて周囲を見渡すと、アルバイトの女性達がせっせか「お酌」をして回っているのだ。(「お酌」をするために雇われた訳でもなかろうに…)
 “セクハラ”で訴訟を起こされる事態がまかり通っているこの時代に、ずい分と世間知らずの“勇気ある”職場長の発言に呆れつつ、その後、この職場の飲み会には二度と出席することはなかった私である。


 何はともあれ「お酌」はするのもされるのも勘弁願いつつ、飲兵衛も下戸も、女性も男性も、上司も新人も、あなたも私も、お酒とは自分のペースで美味しく楽しみたいものですね! 
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