原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

くるみ割り人形(全幕)

2007年12月25日 | 芸術
 我が家の年末恒例の行事は、バレエ公演「くるみ割り人形(全幕)」を観ることだ。今年は、昨日(12月24日)のクリスマスイブに五反田ゆうぽうとホールへ松山バレエ団の「くるみ割り人形(全幕)」を観に出かけた。

 「くるみ割り人形」は、まずチャイコフスキーの音楽がすばらしい。バレエ観賞の趣味がなくともこの音楽を聴いたことのない人はまず存在しないであろう。「序曲」「行進曲」「ロシアの踊り」「足笛の踊り」「花のワルツ」「金平糖の精の踊り」… 全幕に渡り、名曲の数々である。
 我が家の場合、子どもが小学生の時にバレエ教室でこの「くるみ割り人形(全幕)」に子ども役で出演したことがあり、私もそのリハーサル等の付き添いで何度もお供したため、私も子どもも全幕全曲マスターしている。音楽をマスターした上でのバレエ観賞は数倍楽しめるものだ。

 さて、この時期はあちこちの国内外バレエ団が「くるみ割り人形」を公演しており、毎年いろいろなバレエ団の「くるみ割り人形」を観賞しているのだが、私の好みは松山バレエ団の「くるみ割り人形」だ。当ブログのバックナンバー「バレエを観に行こう!」でも既述しているが、松山バレエ団の「くるみ割り人形」は、出演者総数が飛び抜けて多く、絢爛豪華でとにかく楽しい。子ども達もたくさん出演しているのだが、そこだけ浮いておらず、全体の中にうまく溶け込んでいる。

 松山バレエ団といえばまず森下洋子さんを思い浮かべる。数年前に森下洋子さんのクララを拝見した。元々きゃしゃで小柄でいらっしゃる森下さんであるが、舞台上の森下さんはご年齢が想像できない可愛らしさであり、美しく輝いていらっしゃったのが印象的である。
 昨日は山川晶子さんのクララを拝見した。大抵クララ役は小柄な方が多いのだが、山川さんは今まで観た中で一番長身のクララであった。が、少女役の山川さんのクララも長身でも少しも違和感がなく全体的に美しいクララであった。
 今回は2階席からの観賞であったが、2階席の良さは舞台の全体像が見渡せることである。特に五反田ゆうぽうとホールの場合舞台の奥行きが深いのであるが、出演者総数が多く(常に50名以上のダンサーが所狭しと踊っている。)、舞台全体をフルに活用し舞台後方まで細かい演出をしている松山バレエ団の場合、2階席からの観賞の方が全体を堪能できて楽しめるように思う。
 もう一点、松山バレエ団の特徴は場面入れ替えの手際がよく、場面が変わる事を観客に気付かれない間に場面が大きく入れ変わっていることである。どういう風にこの離れ業をやってのけているのかと言うと、ダンサーが自ら踊りながら小道具を運んできたり持ち去ったりしているのである。2階席からだとこの動きがよく観察できるのであるが、この演出やダンサー達の手際の良さを見て感心するのもひとつの趣である。
 「くるみ割り人形」の中で私の一番のお気に入りは、第一幕最後の「雪の精の踊り」である。(素人好みですみませんが、コールドバレエが好きなんです。)総勢約30名が、一糸乱れぬ踊りを繰り広げるのが圧巻である。ダンサー層の厚い松山バレエ団の場合、踊りが揃っているのは当然のこと、コールド全員の身長、手足の長さ細さ、顔の小ささまですべてぴたりと揃っているのである。相当の内部オーディションをしているものと察する。
 また、松山バレエ団の場合、第二幕の「ジゴーニュおばさんとピエロ」も特徴的で見せ場である。ジゴーニュおばさんの大きなスカートの中から子どものピエロが20人程出てきて踊るのであるが、今年はこのピエロ役の子どもも厳選したと思われる。ただ可愛らしいのみでなく演技力、技術力も伴っており、今回観客からの拍手が一番大きい場面だったようだ。
 そして、今回大きく演出を変えていたのは、クララが夢から覚める前、くるみ割り人形の王子と別れる直前の場面で二人のしっとりとした愛のグラン・パドドウの踊りを設けていたことだ。これにより、今回の「くるみ割り人形」は単なる少女クララのクリスマスの夜の夢の世界の範囲を超えて男女の出会いと別れの切なさも描かれ、クライマックスへの感動へとつながった。原作にはないこの演出は大成功だったのではないかと私は感じる。

  
 


 さて、「くるみ割り人形(全幕)」を観終わると、いよいよ今年も終わりだ。
 
 新年には、「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート」を聴く(大トリの“ラデツキー行進曲”を聴かないと我が家では一年が始まらない。)ことが毎年元旦の楽しみである。(テレビで、だけどね。 いつかはウィーンまで聴きに行きたいものだ…。)