残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《教示③》第六回
「なあに、骨董ではないのだ、ご主人。実はの、此処其処に置いてある骨董を入れる木箱を探しておってな」
「木箱? で、ございますか?」
「ああ、そうよ。一尺と尺二寸程の物が入り用なのだ」
「ははは…。そのような物ならば、裏の小屋にあると存じますので幾つか持って参りましょうほどに、暫くお待ちになって下さいまし」
そう云うと、店の主(あるじ)は奥へ引っ込もうとした。長谷川は、その後ろ姿に声を投げた。
「如何ほど包めばよいかのう?」
主は、ビクッ! として、ふり返った。
「金子(きんす)でございますか? そのようなものはお気遣いなく」
「そうもいくまいて」
「では、十文ほども貰っておきましょうか」
「左様な安値でいいのかな?」
「ははは…。取り敢えず、物を先に持って参りますので、お待ちを」
そう笑って云うと、主は奥へと急いで消えた。
ほんの僅かな時が流れ、ふたたび主は顔を出した。両手には幾つかの木箱を抱え、それらを畳上へゆったりと置く。どの箱も程々に古びた味わいのある木箱で、埃(ほこり)まみれだったが、値打ちものの壺などが入っていた風にも長谷川には見えた。