水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 春の風景 特別編(下) コラボ(1) <推敲版>

2010年04月08日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景

       特別編
(下)コラボ(1) <推敲版>       

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   
その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ とある小川 昼
   レンゲ、タンポポの花が咲く野原と草の生えた土の道。小川と呼ぶには細過ぎる畦のせせ
らぎで遊ぶ正也。そよ風が吹いている田
   園風景。ポカポカとした陽気。広がる青空。輝く太
陽。
  正也M「風が流れていた。心地いい、そよ風だった。文明が進んで科学一辺倒の世の中にな
った光景が、日々、テレビ画面に溢れる
       時代になったが、僕からすれば、まるで絵空
事で、♪ 春のぉ小川はぁ~さらさら行くよぉ~ ♪ (唄って)なのだ」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「特別編
(下) コラボ」

○ 玄関 内  夕方
   玄関の戸を開けて入る正也。框(かまち)に腰を下ろし、靴を磨く恭一。犬小屋で熟睡中のポ
チ。
  正也  「…ただいま!」
  恭一  「おお、正也か…」
  正也M「家に入ると、父さんが珍しく革靴を磨いていた。まあ、商売道具の一つであろうし、一
応は父さんも人の子で、世間体が気にな
       るとみえ、磨いているようだった。まさか、
出世に差し障りがあるから…と考えてのことではないだろうと思う」
   框(かまち)へ近づく正也。黒い靴クリームを革靴に塗る恭一。
  恭一  「もうじき、夕飯だぞ(靴クリームを塗りながら)」
  正也  「うん…(可愛く)」
   框(かまち)へ上がろうと、靴を脱ぎかける正也。
  恭一  「お前はいいなあ…(ボソッと)」
  正也  「えっ? 何が、いいの?(可愛く)」
  恭一  「だって、そうだろ? お前の靴は運動靴だし、汚れて幾ら、のもんじゃないか。磨かな
くてもいいんだからなあ…(ボヤき口調
       で)」
   聞かなかった素振りで居間へ向かう正也。それ以上は語らず、黙ってブラシで靴を磨く恭
一。

○ 居間 夕方
   居間へ入り、長椅子に座る正也。庭を見ながら畳上の座布団に座っている恭之介。畳上の
座布団で背を上下させて熟睡しているタ
   マ。
  恭之介「おお正也、帰ってきたか…。今日は鰆(さわら)の味噌焼らしいぞ。未知子さんが、そう
云っていた…(嬉しそうな声で)」
  正也  「えっ? 鰆がいいの? 味噌焼は銀鯥(むつ)が一番だって、いつか云ってたじゃな
い、じいちゃん」
  恭之介「ははは…(笑って)。まあ、そう云うな。銀鯥は銀鯥。だが、鰆も鰆だけのことはあ
る…」
   靴を磨き終え、居間へ入る恭一。
  恭一  「まあ、革靴と運動靴の違いみたいなもんだ、正也(小声で笑いながら長椅子へ座
り)」
   恭一の言葉と同時に大笑いする恭之介。
  恭之介「ほう、恭一…。少し意味は違うが、お前にしては上手く云った」
  恭一  「それはないですよ、父さん(恐縮して)」
   互いに顔を見合わせて大笑いする恭之介と恭一。黙って二人を交互に見遣る正也。
  正也M「靴と味噌焼が妙なところでコラボして、父さんとじいちゃんを仲よくさせたのだった。
こういうことは結構よくある。先だっても、
       こういうことがあった」

○ (回想) 渡り廊下 夜
   身を潜めるように、ひそひそ話をする恭一と未知子。
  恭一  「お前は、そう云うがなあ…」
  未知子「そんなに気にすることはないわよ。高(たか)が一日のことじゃない。使わなきゃ、い
いのよ」
  恭一  「ああ…そりゃまあ、そうだが…」

                                  ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《教示②》第二十六回

2010年04月08日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示②》第二十六回
「お疲れでしょう。風呂を沸かせておきました。…それに夕餉の膳も整っておりますよ」
「それは畏れいります。さっそく頂戴致ししょう。今日は少し気疲れもありますから、随分と助かります」
「そうでしたか。それはよかった」
 二人の間に、そんな他愛もない会話が交された。左馬介は直ぐに話を切り出せず、少しずらすことにした。間合いが悪いというか、この場で直ぐ話せる内容ではないと判断したこともある。
 風呂を浴びると、それまでの疲れが消えていくような心地であった。道場の風呂場は、四、五人が入れる箱風呂の浴槽だったから、道場が賑わっていた頃は、浴槽に浸かりながら瞼を閉じ、そして想いに耽るというような悠長なことは出来なかった。だが今では、僅かに三人が交互に入るだけの人数に減っていた。客人身分の者達は、表立っては御客人として木札を掛け、道場に籍を置いているものの、宿泊以外は三人と顔を合わせられぬ決めがあったから、忍び衆のような存在なのだ。故に、当然のこととして、風呂も銭湯、或いは手間賃稼ぎの街屋で済ませていたのである。
 湯に浸かると疲れも取れ、名案が浮かぶ浮かばぬは別として、思慮は、ゆったりと出来た。


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