水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第九十一回)

2011年08月08日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第九十一回
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
 辺りに誰もいないことで、上山は現実に起きている異常事態に改めて気づかされた。とはいえ、空腹はどうしようもなく、上山はひとまず食堂へ行くことにした。今までの流れで考えれば、人以外はすべて正常に機能しているように思え、この考えで進めれば、食堂には食事も準備されていることになる。ただ、セルフで配膳をしなければならないだろう…と、上山には思えた。むろん、上山と同年配の江藤吹恵も消えているだろう…とも予想出来た。時間が経過するとともに、やはり一人では心もとなくなり、上山は幽霊平林を呼ぶことにした。
 上山が首をぐるりと一回転させると、幽霊平林がいつものアグレッシブな幽霊さでスゥ~っと現れ出た。今回の場合は意図的にグルリと首を一回転させたのだから、上山も即応体制である。
「おお、君! 待っていたぞ。どうしたもんかな?」
『課長! いきなり、どうしたもんかもないでしょ。ああ、ご苦労さんとか、云いようもいろいろあるでしょうが、呼んでおいて』
「いやあ、これは…。すまん、すまん」
『まあ、いいですよ。で、今は、なんでしょ? 駅の構内から、そんなに経(た)ってないですよ』
 やや不服そうに、幽霊平林は上山の前でやや上へと浮かび上がり、上から目線で上山を見下ろした。
「なんでしょって、分かってるだろ? どうすりゃいいか、皆目なんだよ~」
『はあ…。まあ、おおよそ、そんなことだろう…とは思ってましたが…』
「仕事をするったって私一人じゃなあ。だいいち、決裁する書類を誰も持ってこん。えっ! なにすりゃいいんだ?」
『僕に訊(き)かれましても…。まあ、今日のところは適当に過ごして、明日に備えて下さい』
「やはり、北枕か…」
『他に、コレ! っていうのが思いつかないれないんでしょ?』
「ああ、まあなあ…」


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