夢のような話が現実になることがある。ただ、その現実はなんとも不安定で変化し易(やす)く壊れ易い・・という欠点を持っている。だから、夢のような話が現実になったときの処し方が問題となる。
「た、棚橋さん…当たってますよっ!!」
会社のデスクに座り、パソコンで事務処理をしている棚橋に手が空いた隣のデスクの後輩社員、諸崎が新聞紙面と宝くじ券を比較しながら声を震わせて言った。手が空いた棚橋に諸崎が番号確認を頼んだのだ。
「ははは…5等の1万円でも当たったか…」
「と、とんでもないっ!! 1等の前後賞ですよっ!!」
「またまたまたっ! 私を担(かつ)ごうたって、その手は桑名の焼き蛤(はまぐり)だっ!」
「なに言ってんですかっ! み、見て下さいよっ!!」
震える手で諸崎は新聞と宝くじ券を棚橋に手渡した。
「そんな夢のような話が…どれどれっ! 一等が26組の127421番だから、前後賞は26組の127420番と127422番だろっ。…俺の券が26組の127422番…ええっ!!! 新聞が26組の127422番で俺のが26組の127422番…」
棚橋は失神しそうになり、ふらつきながら新聞紙面に釘づけとなった。
「一等が7億円で、その前後賞は1億5千万円ですよ、棚橋さんっ!」
その日から棚橋は夢のような話が現実となり、アレコレの雑念に悩まされることになった。なんといっても棚橋の月々の給料は、可処分所得で42万8千円だったのである。定年までコツコツ働いたとしても、とても1億5千万円には手が届きそうになかった。棚橋は呆然自失となり、労働意欲を失って現在休職しているという。
夢のような話は雑念を湧かせ人を惑わす危険を孕(はら)む・・という注意喚起のお話でした。^^
完
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