水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (78)破れかぶれ

2020年03月22日 00時00分00秒 | #小説

 破れかぶれ・・という言葉がある。どうにでもなれっ! と自棄(ヤケ)になった気分を表す言葉である。ある種、捨て鉢、投げやり、自暴自棄(じぼうじき)な気分だから、余り感心できた心の持ちようではない。だが、時として、この破れかぶれでやったことでコトが上手(うま)くいく場合がある。なぜか? という疑問が湧(わ)くが、時と場合によりけりだから運としか言いようがない。^^
 とある国際大会のスキー競技が行われている会場である。種目は男子50kmのノルディック複合競技である。前半のジャンプの得点がスタートの秒差になる。そして、いよいよ後半が始まろうとしていた。日本代表の禿尾(はげお)は周回の五周目、数人を牛蒡(ごぼう)抜きし、第一集団のトップに躍(おど)り出ていた。あと一周である。戻(もど)ったスタート地点で激しく鐘が鳴らされる。よしっ! これはいけるぞっ! と、禿尾は確信した。ところが、である。最後の下り坂でストックの片方が折れたのだ。二位との秒差は50秒である。スタッフが生憎(あいにく)、いない位置で折れたから堪(たま)らない。破れかぶれで、もう片方のストックとスケーティングでなんとか滑(すべ)るものの、減速はやむを得ない。瞬く間に二位との秒差は30秒に縮まった。禿尾はダメか…と諦念(ていねん)した。が、そのときである。ストックに頃合いの木の枝が使って下さいっ! とでも言うかのようにレース上にあるではないか! 禿尾は、神の助けか…と天を仰いで一礼し、その木の枝を借り物競争のように手にしてふたたび滑り始めた。おっ! これはいけるぞっ! と禿尾は滑る感触の良さを感じた。そしてラスト100mを見事に逃げ切り、金メダルを手にしたのである。めでたし、めでたし! ^^
 まっ! こんな馬鹿なことには百歩譲ってもならないだろうが、破れかぶれでしたことは、疑問が湧く奇想天外な結果を齎(もたら)すことは確かなようだ。^^

                                


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