国会の予算委員会で審議(しんぎ)が行われている。とある議員の質問に対し、答弁に立ったとある大臣との遣(や)り取りの一部始終(いちぶしじゅう)である。
「と、いうことはですよっ! A案の策定は事実上、なされていない、ということになりますよねっ!!」
「とある大臣っ!」
委員長が肩凝りの首筋(くびすじ)を片手で揉(も)みながら、煩(うるさ)そうにとある大臣を指名する。指名されたとある大臣が席を立ち、答弁席へゆったりと向かう。
「いやいやっ! そ、そんな馬鹿なことはありません! A案の策定を進めなければ、我が国の財政は確実に将来、破綻(はたん)を致しますっ! 与野党の枠(わく)を越え、超党派でようやく煮詰まったA案を反故(ほご)にするなど、到底あり得ませんっ!」
とある大臣は少し興奮気味に否定し、自席へと戻(もど)った。
「委員長っ!」
「…とある議員」
どうでもいいような小声で委員長が呟(つぶや)く。
「そら、そうでしょうよっ! 私はなにも政府が反故にしようとしている、などとは言っておりませんっ! 短中期の策定が困難な公債発行の起債残額を、なんとかせねばっ! という長期の償還(しょうかん)案です。このままでは財政破綻は避(さ)けられないっ! それは分ってるっ! そうならないよう、今後、100ヶ年で少しづつ起債残額を減らしていこう! と、与党の皆さんと煮詰めた案ですからっ! 私はそんな質問を大臣にしてるんじゃないっ! いっこうに神輿(みこし)が上がってないから、こうしてお訊(き)きしてるんじゃありませんかっ! 進んでるんですかっ!?」
とある大臣が、すぐさま、サッ! と挙手をした。
「…とある大臣」
委員長が、また首筋を揉みながら、とある大臣を一応、指名する。
「神輿は上がってますっ! はい、十分に上がっておりますっ! 今年のお祭りはいい天気でしょう!」
短く答弁すると、とある大臣は銃弾を避けるかのように自席へ早足で撤収(てっしゅう)した。とっ! ただちに、とある議員が挙手と同時に声を大きくした。
「委員長っ!!」
「と、とある議員!」
ウトウトしかけたところを起こされた形で、委員長が慌(あわ)てて、とある議員を指名する。
「なにを言っておられるんですっ! お祭りは、そらいい天気でしょうよっ!」
審議は疑問が湧(わ)くようなお祭り話へと発展した。
お祭り話は別として、これが予算の審議なのである。^^
完