水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑えるユーモア短編集-58- 烏賊墨(いかすみ)定食

2017年02月27日 00時00分00秒 | #小説

 烏賊墨(いかすみ)定食とは文字どおり烏賊を使った定食・・と思いきや、実はそうではなく、店主のアイデアにより、客に挑戦を叩(たた)きつけるような蛸(たこ)のフルコース定食だった。分かりやすく言えば、客がこの定食を食べ終わったあと、店主が顔を好きなように烏賊墨で塗り書き、二人の記念写真を撮(と)らせれば、無料で食べられる・・という異色の定食である。いわば、平安末期の弁慶が京の五条大橋で集めた刀のようなものである。世界広しといえど、この定食はギネスに登録される定食と巷(ちまた)では評判になっていた。店内には撮られた写真の数々が貼(は)られ、展示されていた。さらに、この定食には記念写真を撮らせた客には一枚、烏賊墨パスタを食べられる無料の食券が貰(もら)える仕組みだった。
「親父! 烏賊墨定食!!」
「おっ! やられますかっ!」
 店主がニタリと笑った。 
「今日は早引けになったからな」
 常連の若い客は漁師(りょうし)で、漁に出ない日は漁業組合の雑用を任されていた。
「海が荒れてますからねぇ~」
「ああ…。それに一度、やってみたかったんだっ。というより、ははは…金回りが悪くてな」
「なるほどっ!」
 しばらくすると、フルコース蛸の烏賊墨定食が若い客の前に置かれた。その後は以下[烏賊]のとおり・・ではなく、以上のような進行となった。

                             完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする