水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑えるユーモア短編集-46- 機械馬鹿

2017年02月15日 00時00分00秒 | #小説

 機械馬鹿になるということがある。便利で短時間で済むはずの機械操作に手間取り、結局、時間ばかりを取られ、作業も進まなかった者のことを意味する。起き出した薄毛(うすげ)は、朝早くからノートパソコンを起動していた。だが、なかなか立ち上がらず、ようやく立ち上がるまで数分が経過していた。以前はすぐ立ち上がったのだから、薄毛としては不満だった。お蔭(かげ)で朝食はトーストも食べられなくなってしまったではないかっ! と薄毛は憤懣(ふんまん)やる方なく、イラついていた。さらに輪をかけて、立ち上がったパソコンの常駐・セキュリティソフトの動作が緩慢+指示が多いという厄介(やっかい)さも絡(から)み、すっかり手間取ってしまったのである。そこへ加えて、この重さを改善しようと検索し始めたのが災いし、予定の文章入力は昼まで何も進まなかった。要は、中山道で難儀(なんぎ)し、関ヶ原の戦いに間に合わなかった徳川秀忠公のようになってしまったのである。そして薄毛は、いつの間にかパソコンを目の前にして眠ってしまっていた。
 気づくと薄毛は、まだ起き出していなかった。起きた記憶は残っていて、しかもパソコンの延捗(えんちょく)で難儀した記憶も鮮明だったから、寝室にいる自分が理解できなかった。意味が分からないまま取り敢(あ)えずまた起き出した薄毛は機械馬鹿になる危険を感じ、トーストとサラダ、ハムエッグをゆっくりと美味(うま)そうに食べ、外の修理作業を先にやることにした。徳川家康公のように東海道を進んだのである。修理を順調に終えたあと、薄毛はパソコンを手にしようとしたが、まあ、空いた時間でもいいか…と軽く考えたのが功を奏(そう)し、結局、機械馬鹿になることを避けることが出来たのである。めでたし、めでたし…。

                             完


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