水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑えるユーモア短編集-33- ボタ餅とオハギ

2017年02月02日 00時00分00秒 | #小説

 なぜ、お彼岸にボタ餅なのか? を研究する風変わりな一人の男がいた。この男、甲羅(こうら)に言わせれば、別に美味(うま)い寿司でもいいじゃないかっ! ということになる。━ お彼岸にはボタ餅 ━ これは古来より浸透している日本的なものだが、甘いものが好きな甲羅だったから、取り分けて不服がある・・という慣習ではなかったが、どうも気になって仕方がなかった。
 ある日、ふと甲羅が立ち寄った図書館で本を調べていると、あることが判明した。
「なになに…春のお彼岸がボタ餅[こし餡(あん)]で、秋はオハギ[粒(つぶ)餡]か? …」
 甲羅は新しい知識を得た。なおも甲羅は読み進んだ。
「秋は収穫したての小豆(あずき)だから粒餡で食べ、春は小豆の皮が硬(かた)くなるからこし餡で食べるようになったとする説が有力である・・か。なるほどな」
 甲羅は別に決まりではないのだから、春のお彼岸にオハギでもいい訳だ…と、転じて思った。さらに甲羅は読み進めた。
「江戸時代か…。なになに! 小豆のオハギやボタ餅は、庶民が普段、食べられない高価な砂糖を使った甘菓子で、魔除(まよ)けの功徳(くどく)があるとされたか…それをご先祖さまに食べていただき、そのお余りを食すことで家族の無事を祈った・・訳だ…。信仰心からということだな」
 別にお余りを頂戴(ちょうだい)しなくても、堂々と先に食べりゃいいのにな…と、甲羅はまた、転じて思った。
「邪気を払え、でお供えにもなり、しかも美味いものを食べられる・・一石三鳥だっ!」
 グゥ~~! っと腹が鳴り、急にボタ餅が食べたくなった甲羅は、慌(あわ)てて図書館を出た。別に慌てなくてもボタ餅は逃げないのだが…。

                             完


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