水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑えるユーモア短編集-36- お金虫

2017年02月05日 00時00分00秒 | #小説

 黄金虫(コガネムシ)はよく知られた昆虫だが、お金虫という昆虫は誰も見たことがない。この世に存在しない幻(まぼろし)の虫で、おそらくは誰もが見たことがない虫なのである。ところが、この男、あえて名は言わないが、このお金虫に出会ってしまったのである。最初に出会ったとき、お金虫は、ただのゴキブリに似て見えた。最初にバッタリ出食わしたとき、虫は動いておらず、ただじっとしていた。男は顔を近づけた。どうもゴキブリ…との外観を感じ、男は捕えようとティッシュを二枚ばかり手にし、サッ! と、虫に被(かぶ)せた。だが、その虫は男よりも早くサッ! と逃げた。その敏捷(びんしょう)さに、男はゴキブリを感じた。
 ただ、最初に出会ったとき、男はその虫がお金虫だとは気づいていなかった。男がただのゴキブリではないと思ったのは、数度、出食わしてからである。ただのゴキブリとは違い、よく見ると、茶羽根から眩(まばゆ)い金色の光を放っていたのだ。お金虫だっ! と男はその瞬間、単純に思った。お金=お足だからで、なるほど! …とお金虫の存在を知ったのである。ゴキブリとお金虫の違いを男が知ったのは、さらに数度、出くわしてからである。ゴキブリは居つくが、お金虫は居つかない…と、分かったのだ。しかも、働いた日はお金虫はよく姿を現し、金色の光を輝かせ、男を元気づけたのである。
 … という夢を男は見た。お金虫など、この世にいる訳がない。しかし、男は、その後も夢を夢とは思えず、懸命に働いて生き続けている。

                             完


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