水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第五十八回)

2011年07月06日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第五十八回

「ああ…、そういうことだ。だから君は霊波を教授に送ったあと、すぐに消えてもらっては困るってことさ」
『分かりました。教授が課長の話を信じる、と云えば、とことん付き合いましょう。どちらにしろ、霊界へ戻ったところで、コレという用はないんですが…』
「なんだ、そうだったのか、ははは…」
 上山は、ついうっかり笑ってしまった。助手達としばらく話していた佃(つくだ)教授も、いつの間にか黙ってしまい、機械を見続けていた。そこへ上山の笑い声が聞こえたから、何ごとかと怪訝(けげん)な表情で急遽(きゅうきょ)、上山の方へ戻ってきた。

「どうかしましたか? 急に笑い声がしましたが…」
「いやあ、ちょっと咳込んだだけです。なんでもありません」
「そうですか…」
 幽霊平林が上山の隣で片手の人差し指を立てて口に宛がっている。その仕草は幽霊というより人間そのもので、思わず上山を笑わせた。
「えっ? なにか…」
「いやいや、別に…。ちょっと、あることを思い出したもので…」
 佃教授は上山を見て、ふたたび怪訝な表情を浮かべた。
「それより教授、ひとつお訊(たず)ねしてもよろしいでしょうか?」
 上山は、話を終えることで教授の気持を外(はず)そうとした。
「はあ、何でしょう…」
「こんなことを云えば、教授がお笑いになると思いますが…」
「いえ、そんなことはありませんよ。どうぞ、云って下さい」
「では…。あの…」
「はい…」
「私ですね。霊が見えるんですよ」
 上山は冷静な声で、ゆったりと云った。


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