水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第五十七回)

2011年07月05日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第五十七回

『そうですか…。課長が呼ばれるまでもなく、僕のことは話さないと、話が前へ進まないんじゃないですか? 教授が僕の存在を信じるかどうかは別として、ですが…』
「ああ、まあな…。佃(つくだ)教授も一応は霊動学を専門分野とされているお方だ。そう無碍(むげ)にも、されないと思うが…」
『そら、そうですよ。僕なりに霊波を教授へ送らせてもらいますし…』
「滑川(なめかわ)教授に、したようにかい?」
『ええ、まあ…』
 二人(一人と一霊)が話していることなどまったく知らぬげで、部屋の少し離れた所にいる佃教授と三人の助手は、オレンジ色に点滅するランプと振れるVUメーターを見ながら、ああだ、こうだ…と、機械を睨(にら)んで夢中になっていた。
「で、それが済めば、どうするんだ?」
『…。役目を果たせば、僕は消えますよ。だって、いたって仕方ないじゃないですか、課長と話せないんだし、…』
「いや、それは私が教授に話をしてからにしてくれよ。教授が見えない君の話を信じたとすれば、これはもう、状況が変わるからねえ」
『そうでしょうか?』
「だって、そうだろうが。私の話を信じた教授は、恐らく君がここにいるのか? と訊(たず)ねるだろう。そこで私は肯定して、機械が反応しているのは目に見えない君がいるからだ、と云う」
『すると教授は今、僕がこの部屋にいるのかね、と訊(き)かれる訳ですね?』
「そうだ…。で、僕は君を指さして、ここにいます、と云う」
『なるほど…。そこで僕が何らかの霊動を起こせば、確実に教授は僕の存在を信じる、ってことですか』


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