加齢によって心身が衰えるフレイル。
少しでも長く、健康に暮らすため、各地の取り組みや専門家の話から、
活用できるヒントを探ります。
2022年春からは、「食事」、「運動」、「社会参加」を中心に予防法を紹介。
まずは、フレイルの基本をおさらいします。(村上藍)
☆やるべきこと理解 意識変化
フレイル予防のため、体の状態をチェックする参加者。
講座では、運動の動画の検索方法や歩数計アプリの使い方も学んだ(3月4日、埼玉県三芳町で)
3月上旬、埼玉県三芳町で開かれた「65歳から始めるフレイル予防講座」。
6人の参加者が、町が作成した運動の動画の検索方法や、
スマートフォン用アプリの使い方を学んでいた。
新型コロナウイルスの影響で、人と集うことが難しくなったため、
インターネットを活用してもらおうと、町が内容を追加して企画した。
講座では、個人に合った運動や散歩コースが提案されるアプリや、歩数計アプリが紹介された。
参加者からは「アプリでなら、簡単に取り組めそう」、
「やれることから始めたい」という声が上がっていた。
町では65歳以上を対象に、講座を実施。
町健康増進課の担当者は「早い時期から継続して、予防を心がけてほしい」
とねらいを話す。
講座は5回で、ストレッチや口腔(こうくう)ケア、食事など、
予防法を網羅的に学べる内容だ。
参加した橋本誠さん(75歳)は、講座を受けるまで、フレイルについて知らなかったが、
足腰が弱り、歩くのが遅くなったと感じていたという。
「やるべきことが明確になって、意識が変わった。
現状を維持できるように体操やウォーキングをしたい」と意気込んでいた。
☆フレイルとは?
フレイルは、年齢を重ね、健康なときより心身が衰えているものの、
介護が必要な状態ではない、中間の段階のことだ。
「虚弱」を意味する英語「frailty(フレイルティ)」が語源で、
日本老年医学会が2014年に提唱した。
東京都健康長寿医療センターが2020年に発表した調査によると、
入院などをせず地域で暮らす全国の65歳以上の8・7%が、フレイル状態だった。
フレイルかどうかは、生活の様子や筋肉量、滑舌などで総合的に判断する。
東京大高齢社会総合研究機構が開発したフレイルチェックでは、
両手の親指と人さし指の輪で、ふくらはぎを囲んで筋肉量を把握する「指輪っかテスト」や、
「昨年と比べて外出の回数が減った」など11項目の質問に答える方法で測定する。
フレイルの予防には、食事、運動、社会参加の三つのポイントが重要だとされる。
例えば、肉や魚をしっかり食べて、ウォーキングに出かけて足腰を鍛え、
ボランティア活動で地域の人と関わるといった生活だ。
元気な高齢者を増やそうと、自治体は、予防や啓発でフレイル対策に取り組む。
2020年度には、75歳以上を対象にフレイル健診も始まっている。
☆日常生活に「対策ちょい足し」
フレイル予防のポイントを東京大高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授(老年医学)に聞いた。
フレイルは、筋肉の減少ややる気が起きないなどの心身の衰え、
人とのつながりの希薄化といった多面的な老いが絡み合って生じます。
これらの衰えは加齢のせいにしがちですが、対策を取れば、改善が期待できます。
対策をしなければ、あっという間に心身の状態が悪化しますが、
きちんと対策すれば、健康にも戻れる状態。それがフレイルです。
ただ、適切な食事や運動、社会参加が大切と分かっていても、
生活をガラッと変えることは難しいです。
そこで「日常生活のちょい足し」を推奨しています。
例えば、運動習慣のない人が筋トレを始めても、継続するのは大変です。
でも、ゴミ出しのついでに、感染対策をしながら近所の人と話し、
ちょっとした散歩もするというのは、簡単にできるのではないでしょうか。
続けられる対策を日常生活に盛り込むことが大切です。
コロナ禍による外出自粛の影響で、体を動かしたり、人と会う機会が減ったりしたため、
心身機能が悪化する高齢者もいました。
地域の活動の場はまだ少ないですが、オンラインなど新たな手法を取り入れることも大事です。
いつまでも自立した生活が送れるように、日常生活を見つめ直していきましょう。
☆[フレイル予防隊]ウォーキング前にストレッチ
フレイル予防のちょっとしたコツを「予防隊」が教えてもらい、体験する新コーナーです。
初回はウォーキング前のストレッチを教わりました。
「準備運動をすると、脚がつるのを予防し、肉離れの危険性も減らせます」
そう説明するのは、東京都健康長寿医療センターの清野諭さん(38歳)。
東京都板橋区のフレイルサポーター、佐藤和子さん(68歳)と長尾英子さん(74歳)が挑戦した。
清野さんによると、ストレッチは、地面に近い部分から順番にすると覚えやすいという。
三つのストレッチで、脚の筋肉を伸ばしていく。
まずはアキレス腱(けん)。
脚を前後に開き、後ろ脚のかかとは地面に付けたまま、
前脚の膝を少し曲げて体重をかけていく。
長尾さんから「ふらつく場合は、壁や椅子などつかまれるものがあるといいわね」
という提案もあった。
次は太ももの裏側。
後ろ脚の膝を軽く曲げ、前脚の爪先を上げて上体を前に倒す=写真上=。
最後は、太ももの前側と脚の付け根。
両脚を広く前後に開き、後ろ脚の膝を地面に近づける=同下=。
「三つのストレッチで体が温まった」と佐藤さん。
清野さんは「ウォーキング後も、同じように筋肉を伸ばすと、疲れが残りにくくなりますよ」
とアドバイスしていた。
☆[元気ごはん]サバたま丼
フレイル予防には、たんぱく質を中心に、幅広い食材をきちんと食べることが大切。
大妻女子大学の川口美喜子教授に、簡単においしく食べられるレシピを教えてもらいます。
◎材料1人分
サバ水煮缶80g/卵1個/タマネギ1/4個/ご飯150g/砂糖小さじ2杯弱/
しょうゆ小さじ2杯弱/酒小さじ2杯/油大さじ1杯/ネギ適量
◎作り方
〈1〉タマネギを薄切りにする。
〈2〉フライパンに油を熱してタマネギをいため、砂糖、しょうゆ、酒を入れて、中火で煮る。
〈3〉〈2〉にサバ缶を汁ごと加える。
〈4〉卵を溶いて〈3〉に入れ、ふたをして卵が半熟になる程度まで蒸し焼きにする。
〈5〉温かいご飯にのせる。ネギはお好みで。
缶詰は熱が通っていて軟らかいので、短時間で一手間加えることができます。
丼は食欲がわかない時にも食べやすいので、
焼き鳥やイワシのかば焼きなどの缶詰でも作ってみてください。・・》