松本清張の小説「空の城」を読んだ。「くうのしろ」と読む。文春文庫である。
内容は安宅産業が経営不振で伊藤忠商事に吸収された経緯を書いたものである。ニューファンドランド島に作った巨大石油精製施設への原油供給利権を独占契約した安宅産業が、この施設がうまく稼働せずに赤字を重ね、実質倒産に追い込まれていく過程を小説にしている。小説なので社名などは変えているが、精密な調査に基づいたものだとしている。
レバノン人のやり手経営者でニクソン大統領とも関係の深い経営者がカナダ政府と結託して石油精製施設を作るのだが、うまく行かない。その際にレバノン人のほうはきちんとリスクを考え自己資本を使わず外部投資で賄っているのだが日本側は仕事を取りたいばかりに契約が甘く、結局うまく赤字をかぶせられてしまい、これが原因で倒産した、という話になっている。
解説では安宅コレクションで有名な骨董品収集家の社主が主人公のような書き方をしているが、私は外していると見る。社主は当時の日本企業の独特の問題点を浮かび上がらせているが、私は会社に膨大な損失を与えた常務の心理描写につながっている部分が中心だと思う。松本清張は犯罪者を悪い奴と決めつけるというよりも、普通の人が特に悪意もないのに社会の仕組みの中で必然的に犯罪を犯すように追い込まれていく過程を描くうまいと私は思っている。この場合には犯罪としては挙げられなかったが実質的な背任行為を行うに至った安宅関係者の追い込まれていく過程が主題だと思うし、興味深かった。
その一方で日本の小説に良くある、「突然終わる」という感じが物足らなかった。問題が露見したときに、関係者はどういう行動を取ったのか、そこには大きなドラマがあってうまく逃げた人、逃げられずに割を食った人などが居るはずなのだが、そのあたりが突然終わってしまう感じで物足りない。他の分野でも日本の小説家は話を膨らませるのはうまいが膨らんだ話に落とし前をつける力は不足していると感じる。
松本清張の経済小説は珍しいが、事実に基づいた話で、ダイエー、三越なども似たような感じがあったのではないか、と思わせる小説であることは事実である。
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