ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

第3世代移動通信の標準化(7) ヨーロッパでの対立と合意

2011-01-24 10:00:04 | 昔話

しばらく間が空いてしまったが、3G移動体通信の標準化の流れの続きを書こう。

アメリカとのすり合わせはある程度は進んだものの、「合わせよう」という合意に達するところまでは行かなかった。並行して韓国とも議論を進めていたが、韓国側はそれほど特定の技術にこだわりを見せていなかったので大きな問題にはならなかった。問題はうまくいっていると思っていたヨーロッパとの整合で起こった。

当時、ヨーロッパではFramesというR&D検討会の中でIMT2000の検討が進められていたが、その中には日本の検討会のように複数の方式が提案されており、その中で最有力と見られていたのがアルファコンセプトと呼ばれるWCDMA方式だった。これをサポートしていたのはエリクソン、ノキアといった北欧の会社だった。

それがある時期から、デルタコンセプトと呼ばれる方式がヨーロッパ内で急浮上してきてヨーロッパ域内で大議論になった。デルタコンセプトというのはヨーロッパで開発されたGSM方式をできるだけ継承しながら広帯域するような方式だった。詰めは不十分だったがGSMの延長線上というコンセプトが受けが良くて、シーメンス、アルカテルといったフランス・ドイツ勢がサポートしていた。

我々日本勢は青くなった。もしヨーロッパがデルタコンセプトのほうに流れてしまうと、また日本は孤立してしまう。ヨーロッパにアルファコンセプトを採用してもらうためにWCDMAの良さをヨーロッパのオペレータに分かってもらおうと様々な活動をした。97年の秋頃には私も何度もヨーロッパに行ってオペレータにWCDMAの良さを説明した。

ヨーロッパでは投票にかけられたがアルファが60%、デルタが40%で決着しなかった。ヨーロッパではどちらかが70%取らないと結論としないというルールになっていた。ドコモの社長がWCDMAに合わせてくれるならコアネットワークはGSMに合わせる、というような発言もして、97年末にFDD方式(上り下りは別周波数)はアルファ、TDD方式(上り下り同一周波数)はデルタ方式ということで妥協が取れ、決着した。それまで携帯電話の殆どはFDDであったので我々としては一安心だった。

この議論の過程で、ヨーロッパの議論の厳しさを私は体感した。このデルタコンセプトからできたTDD方式は、日本ではIPモバイルという会社に周波数が割り当てられたが、商用に至らないうちに会社は倒産し、周波数は政府に返却されている。