今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

閉眼片足立ちが困難な理由2:より学術的説明

2021年09月05日 | 心理学

眼片足立ちが困難な理由(→閉眼片足立ちが困難な理由)について、「自由エネルギー原理」※という脳の理論を使って、もう少し学術的に説明できそうなので、その論理で説明してみる。
※:『脳の大統一理論:自由エネルギー原理とはなにか』乾敏郎・阪口豊 岩波書店 2020

これはものすごくかいつまんで言うと、ビートたけしの定番のギャグで、手に持ったコップが、口にではなくおでこにあてる動作があるが、逆にわれわれが普段、なぜ思った通りにコップを口元に持っていけるのかを説明できるもの(ホントはもっと数学的)。

まず感覚レベルで、コップの位置・形の感覚情報が与えられ、それに向って手を伸ばす運動をするのだが、つかんで移動する間のコップの位置の予想と現実との感覚の差が最小になるように運動制御され、コップの位置が目標となる口元に達するまでこの誤差の最小化が維持され続けるためというわけ。
そしてその誤差は無自覚レベルで”計算”され、最小化についても同様。
すなわちわれわれは意識レベル(システム2)で数字を使って計算するだけでなく、無意識レベル(システム1)で情報にもとづいて自動的に”計算”しているのだ※。
※:野球の打者が打上げた飛球を外野手は、システム2で運動方程式を解くことはせず、打球の視覚的軌跡による予測誤差を最小化する方向に向って走り続けて(システム1で"計算”しながら)、落下点に達する。”目測”を誤るとすれば、それはシステム1の計算ミスによる。

ちなみに、この計算にはベイズ統計学※が使われる。
※:我々が無自覚的にベイズ統計学を知っているのではなく、主観的確率を考慮するベイズ統計学が心理学的なのだ。

さて、改めて言うが、そもそも「片足での直立の維持」は、力学的にとても難しいことを前提にすべきである。

実際、関節を曲げられるフィギュアでトライすればわかるが、両足立ちでさえバランス確保に慎重になるのだが、ましてや片足立ちにさせようとすると、足首あたりの特定関節に負荷が集中して、その関節が動いてしまって、片足立ちはほとんど不可能であることがわかる。

では、なぜ生身の人間は可能なのか(ただし開眼で)。

片足立ちは、本来的に不安定であるため、身体はそれを維持するために”動的に”バランスを取り続ける。
すなわち重心は一定範囲内で揺動し続けている。

われわれの場合、フィギュアと違って特定関節に負荷が集中しないのは、重心の揺らぎに対する反射的な(意識を経由しない)姿勢制御によって、揺らぎの方向が戻されるという微調整が繰り返されるためである。

その制御努力すら自覚されないほどバランスが維持できている開眼時は、姿勢制御が多方向から同時に発生するため、身体がほとんど静止している状態を達成できている。
すなわち、無自覚レベルの”計算”が持続されている。

フィギュアにはこの計算機能がない(アシモなどのロボットは計算可能)。

この計算の対象が、視野による外環境(視野)の安定性だ。

視野が固定される方向で、重心のゆらぎ(姿勢誤差)が意識(システム2)を経由せずに無意識の機構で連続的に補正(計算)される。
それによって視野の揺動の予測誤差が最小化される。

そもそも姿勢を維持する直接の機能は筋肉と平衡感覚であり、これらはともに「自己受容感覚」という。

片足立ちの維持は、視覚情報という外受容感覚信号の誤差最小化(視野の安定)を達成することを目標として、自己受容感覚の揺らぎ(誤差)の制御(最小化)が達成されている結果である。
すなわち視覚的誤差は姿勢誤差によって発生するため、視覚的誤差をモニターしながら、それを最小化することで姿勢誤差を制御するのである(乗物の運転制御もそうやっている)。

以上を前提として、眼するとこれが困難になる理由を考えてみる。

開眼時の姿勢維持は、視野の安定という目標のため(視野)の予測信号と実際の揺れを通した視覚信号との誤差(視覚的誤差)を最小にすることで達成できたが、
眼によってこの外受容感覚信号が遮断されれば、視覚誤差がまったく計算できなくなる。
そのため、それにもとづいて計算されるはずの姿勢誤差も計算できなくなってしまう。

身体の重心の揺れは、実際には方向や大きさはランダムではなく、限られた範囲の方向のズレとその揺り戻しであることが多い。
それなのに、視覚信号という根拠を失った姿勢の予測信号は、メクラメッポウ(ランダム)な方向で揺動に対する制御をしようとするため、一定の確率で、揺動と同じ方向のズレ、すなわちかえって揺動(誤差)を拡大してしまう事がある。
なので、眼片足立ちをしていると、開眼時の微細な揺動に留まらず、不自然に身体が大きく動揺することがある。
そして重心(からの垂線)が基底面(片足の裏面)を外れたら、もう物理法則によって転倒するしかない。

ただし、その重心を支えきれない時の内受容感覚信号はとんでもなく大きい誤差信号(緊急事態)として適時に脳に伝わるため、反射的に浮いていた残りの足を地面につけて転倒を防ぐことはできる。

眼片足立ちの時、視覚からの信号の代わりに使えそうなのは、まずは体重を支えている足の筋紡錘からの感覚信号(重心の偏りによる負荷の増大)である。
その信号を読み取って姿勢制御のために運動野からの予測信号が発するのだが、この感覚信号の解読がうまくできていないと、予測制御がうまくいかない。

以上、説明は学術的になった。
が、理論を使うことで事態は改善できるか。

この理論では、信号に注意(システム2)を向けるとその精度が上がるという。
仰せの通り、足の筋肉に注意を向けているが、精度を上げるための材料(外環境情報)がないためか、うまくいかない。

そもそもこの理論は人間の認知システムを大脳皮質〜辺縁系で説明するのもなので、肝心の姿勢制御センターである小脳が含まれていない(私も説明自体も小脳部分を省略している)。
この理論が扱う無自覚な計算過程は大脳でのシステム1であり、大脳の外にある小脳はむしろシステム0に当る。→閉眼片足立ちでシステム0を鍛える

小脳は認知−運動系における完全無自覚な過程を大脳からの外部委託として専門的に担当している。
自分が(システム2を使って)自覚的にトレーニングできるのは、大脳の認知−運動系だけなので、小脳のトレーニングは大脳経由でやっていくしかなさそうだ。
ただしネットで検索できた”小脳トレーニング”は、いずれも視覚(眼球運動)を使ったものなので、眼の本課題には向かなそう。
残った可能性として、視覚以外の空間知覚である内耳の平衡感覚を感覚信号として使えるようにしたい。


最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (金子めぐみ)
2021-09-06 13:43:41
小脳の働きについて学んだことがなかったので、とても興味深く拝読いたしました!!

山根先生、視覚障がい者の方は、片足立ちしたときにわたしたちが開眼して片足立ちしているような状態でしょうか。

生まれつき視覚に障害がある場合と、途中でそうなった場合では違うのかなとわたしは今、考えています。

もしそうだとしたら、途中から視覚障害になった方は両足で立っていてもふらつくことがあるのかな、それは大変だな、などいろいろ考えています。

目が見えるってありがたいことなんだな、など、自分の五体満足な身体に感謝しました!!ありがとうございます^^

別のブログの話ですが、わたしも長い、長いあいだガラケーでした。
お仕事で必要ならラップトップを持っていくし、そうじゃなければメールと電話ができれば十分だったので、替える必要性を感じませんでした。

あまり電車は乗らないので、スイカはカードで不便を感じないし・・・やっぱり壊れた時がタイミングでした!!
だれもガラケーを使っていなくなるまで使用していたので、共通点があると嬉しく感じます^^
返信する
Unknown (山根)
2021-09-06 22:39:58
金子さん、たくさんのコメントありがとうございます。順番にゆっくり回答していきますね。
まず、両足立ちと片足立ちでは足の負荷・安定度が全然異なります。
両足立ちは、閉眼していてもふらつきません。
逆に言えば、それほど片足立ちは不自然なのです。
片足立ちは下腿全体の筋肉トレーニング効果があって、そのためにやっています(片足につき5分で筋肉が張る)。
視覚障害の人は、昔から杖をついていました。これば障害物の確認のためですが、バランス維持効果もあると思います。
返信する
Unknown (金子めぐみ)
2021-09-07 17:30:53
山根先生、ありがとうございます!!

たしかに、目を閉じて両足立ちならふらついたりしませんでした。もっとちゃんと考えて質問しなくては。。。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。