先の記事で、複素数の共役を利用して、虚(数)が実(数)に化ける妙を紹介した。
その化ける過程を一般化すれば、
①Aにある操作を加えて変換する。これをA'とする。
②AとA'とを合成する。
というシンプルな手順となる。
実は、上と逆過程の、「実が虚に化ける」ことも可能、いやすでに現実化している。
存在の基本様態である”波動”を使う。
ハイデガー哲学と量子論を合わせて表現すると、
存在者(在るモノ)が粒子ならば、その存在者を可能にする存在(在るコト)は波動である。
粒子(物質)について、その物資に対して上の過程をほどこすには、①に”反物質”なる不可思議なモノを用意する必要があるが、少なくとも私は用意できない。
ところが波動に対しては、上の過程をほどこして波動を”虚”にすることが、私でもタダで”例示”できる。
それをこれから示す。
具体的な波動として、音(波)を使ってみる。
音は空気の振動という”実”エネルギーである。
振動の時間幅すなわち「波長」、これを実用的に表現し直した「周波数」は、振動の頻度(波の密度)であり、
振動の上下幅、すなわち「振幅」は振動エネルギーの強さである。
音波の場合は、周波数は”音の高さ”(Hz)、振幅は”音の大きさ”(dB)を示す(波の高さは、音の高さでなく、音の大きさである)。
今から例示する現象は、パソコンで簡単に経験できるので、できたら以下の操作を実行してほしい。
音波を自由に編集(操作)できるAudacityというパソコン用のフリーアプリがあるので、それを使って説明する(→Win版、Mac版があり、それぞれ日本語版のダウンロードサイトがあるのでググってほしい)。
先ず、メニューの生成>※トーンから、440Hzのサイン波(純音)を素材音として生成する。
※:>はメニューの選択過程
鳴らすと、プーという電子音がラの高さでデフォルトの振幅(0.8dB)と30秒間鳴るのを確認(鳴らす時間は10秒程度でいい)。
画面の波形表示を拡大して(○に+のアイコンを押し続ける)、下図のように波の形が視認できる状態にする。
次にアプリで以下の操作を施す。
①新規トラックを作り(トラック>新規追加>モノラルトラック)、波形全体をコピペして同じ周波数のサイン波を2トラック作成する。
2トラックはステレオ効果として普通に使うもの。
②その1つのトラックを選んで、メニューからエフェクト>インバート(位相を反転)を選ぶ。
その結果、選んだ方のトラック(右図の下のトラック)は位相(波の上下)が反転される。
③片方ずつ「ソロ」で再生してみる(他方が「ミュート」される)。
それぞれのトラックは周波数も振幅も同じなので、同じ音が鳴るのを確認する。
④「ソロ」を解除して同時に二つ再生する。
どうなるか。
音が消える(何も聞こえない)。
④でいったい何が起こったのか。
ある位相の波とその逆位相の波が合わさると、波の山と谷が合成されることになり、すなわち+1と-1を足した状態になり値が0となる。
実エネルギーのある二つの音が、位相が反対という理由によって、たがいに波を打ち消し合って、波が生滅するのだ(波動固有の現象)。
これが、実が虚に変換される過程。
すなわち、片方の位相を逆転するという操作①
そして、双方を合わせるという操作②
結果としての無音は、音が”無い"(0)のではなく、二つの”実”が波動的理由で打ち消し合った結果なので、存在するが聞こえないという”虚”というべきもの。
数学的に言えば+1と-1の合成としての0だが、物理的には-1の音はなく、2つの(位相の異なる)同じエネルギーの音が実在している。
これはなにもコンピュータというデジタル空間の現象ではない。
実際の環境音を打ち消す装置が実用化されている。
そう、私がずっと愛用しているノイズキャンセリング・ヘッドホン。
ノイズキャンセリングはこの原理を使っている。
存在の基本様態が波動であるなら、すべての存在にこの原理は適用できるはずだ。
例えば、この原理を使うと”大津波を消す”ことも理論的には可能。