博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2021年3月に読んだ本

2021年04月01日 | 読書メーター
レイシズムとは何か (ちくま新書)レイシズムとは何か (ちくま新書)感想
前半でレイシズムに関する一般論について解説し、後半で日本の個別事情、特に在日コリアン問題について論じていくという構成。日本では欧米と違って反レイシズム規範が確立されておらず、反差別を訴えるうえで被害者に告発・証言を強いる歪な構造になってしまっているという問題、レイシズムとナショナリズムとの癒着関係、性差別など他の差別との関係がまとめられている。ルース・ベネディクト『レイシズム』の日本版、21世紀のアップデート版となっている。
読了日:03月01日 著者:梁 英聖

満洲国: 交錯するナショナリズム (967) (平凡社新書 967)満洲国: 交錯するナショナリズム (967) (平凡社新書 967)感想
満洲国の通史的な解説に加えて文芸・映画・思想・学術など文化面に着目しているのが特徴だが、内容的に中途半端になってしまった感がある。ナショナリズムと文化面に全振りしても良かったのではないか。冒頭の「でっちあげ」に関する議論も、計画性という面ではその通りだが、物事は単純化できないという以上の話にはならず、さして意味のある議論とは思えない。
読了日:03月03日 著者:鈴木 貞美

板垣退助-自由民権指導者の実像 (中公新書)板垣退助-自由民権指導者の実像 (中公新書)感想
知名度は高いがその事績については意外と知られていない人物の代表格。外遊の際は、交際関係の広さ、物事の吸収力や融通といった点で伊藤博文と対照的になってしまった。その外遊の時のスペンサーとの会見の様子など、実像と「伝説」の間の乖離がこの人物の特徴のようだ。有名な「板垣死すとも自由は死せず」についても「伝説」にすぎないと思っていたが、少なくとも類似の言葉を発していたのは事実とのこと。
読了日:03月05日 著者:中元 崇智

漢詩のレッスン (岩波ジュニア新書)漢詩のレッスン (岩波ジュニア新書)感想
漢詩はこう読む、こうも読めるという読解の手本。取り上げられているのは15首の唐詩、それも絶句に限られているが、最初の孟浩然「春暁」で、「暁を覚えず」というのは孟浩然が役人でないことを裏に含んでいるという解説ではや引き込まれた。
読了日:03月07日 著者:川合 康三

女帝の古代王権史 (ちくま新書)女帝の古代王権史 (ちくま新書)感想
『つくられた卑弥呼』の続考。推古~孝謙・聖徳を中心に、古代の女帝が男系継承を前提とした中継ぎというような軽い存在ではなかったこと、古代の皇位継承が族内婚を前提とした男女双系的なものであり、長老女性と年少男性による共治がパターン化しつつあったこと、草壁が皇太子であったというのは後付け的な理解であることなどを論じ、天皇位について男系継承とは別の伝統があり得たことを示している。
読了日:03月10日 著者:義江 明子

サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書 2634)サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書 2634)感想
サラ金の盛衰を切り口に、家計の管理という視点からの夫婦の関係、雇用と出世、「中の人」たちによる感情労働、顧客情報の電算化、そして中国式の管理社会化、サラ金の問題を民族問題として変換する動きと、意外かつ多様な方向へと話が広がっていく。現代日本の社会経済史として盲点を突いた書。
読了日:03月12日 著者:小島 庸平

曽国藩: 天を畏れ勤・倹・清を全うした官僚 (世界史リブレット人 71)曽国藩: 天を畏れ勤・倹・清を全うした官僚 (世界史リブレット人 71)感想
太平天国の乱の鎮圧、洋務運動と曾国藩の事績だけでなく、曾国藩の体現する教養、天地会などのその他の民衆反乱、当時の排外感情、そしてそもそも中国の近代化とは……と、背景も含めてコンパクトにまとめている。図表類もよく整理されている。
読了日:03月14日 著者:清水 稔

「敦煌」と日本人-シルクロードにたどる戦後の日中関係 (中公選書)「敦煌」と日本人-シルクロードにたどる戦後の日中関係 (中公選書)感想
敦煌文書の発見から「監獄」化した現在の新疆ウイグル自治区の状況まで、敦煌を含めた日本人の「自分探し」としてのシルクロード観を総ざらいした本、なのだが、それにとどまらず堺正章の『西遊記』や徳間書店の「中国の思想」シリーズなど、80年代頃の中国理解、中国体験や日中関係にも話題を広げている。往時の熱気が感じられる筆致。
読了日:03月15日 著者:榎本 泰子

中国の歴史9 海と帝国 明清時代 (講談社学術文庫)中国の歴史9 海と帝国 明清時代 (講談社学術文庫)感想
グローバルヒストリーの手法でとらえる明清史。朝貢、互市、日本との関係など海上交易だけでなく、時代区分の問題など、話題は多岐にわたる。個別の話題では、『三宝太監西洋記』が意外に参照に足る海外の情報が盛り込まれているという史料的評価、張保など19世紀の南シナ海の海賊が明代の倭寇とは異なり、歴史的な役割を果たせなかったという話が面白い。最後のマルクスと「ミッチェル報告書」の話も見事。
読了日:03月18日 著者:上田 信

三国志入門 (文春新書 1302)三国志入門 (文春新書 1302)感想
正史三国志の人物、戦い、格言などを紹介。見所をピックアップした入門編ということになるだろうか。ただ、出だしの「小説」をめぐる話は疑問。中国前近代の「小説」という語は欧米の「ノベル」とはイコールではないので、あまり意味のない議論だと思う。
読了日:03月20日 著者:宮城谷 昌光

漢字を使った文化はどう広がっていたのか: 東アジアの漢字漢文文化圏 (東アジア文化講座)漢字を使った文化はどう広がっていたのか: 東アジアの漢字漢文文化圏 (東アジア文化講座)感想
論文集というよりは、「漢字・漢文文化」に関係する事項の基本的な理解をまとめた教科書的な本となっている。類書よりも朝鮮半島やベトナムの状況についての項目が多いのが特徴か。この種の本としては中国の女書のやや詳しい解説を収めたものも初めて見た気がする。序文で言及される「漢字文化圏」という呼称の内包する問題の指摘はなかなかに強烈である。
読了日:03月23日 著者:

カラー版 王室外交物語 紀元前14世紀から現代まで (光文社新書)カラー版 王室外交物語 紀元前14世紀から現代まで (光文社新書)感想
近現代の王室外交だけでなく、その前提となる「外交」のはじまり、近代外交が形成されるまでの話がよくまとまっていて参考になる。世界最古の外交文書と位置づけられるアマルナ文書に、外交官特権の萌芽のような要素が既に見られるといった話や、中国の華夷秩序との比較がおもしろい。
読了日:03月24日 著者:君塚 直隆

お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門感想
小説、映画、演劇等々英語圏の作品の批評を中心としたエッセイ集。なぜ善良な男がモテないのか?という問いに隠された罠、昔から文学の題材となっていた「キモ金」おじさん、本当にプリンセス願望を持っているのは誰か?シンデレラ物語に秘められた可能性、女だけの街に住む女性たちが本当に必要とするもの等々、ジェンダーの要素に着目してエンタメを鑑賞するためのヒントを与えてくれる本。
読了日:03月26日 著者:北村紗衣

今川のおんな家長 寿桂尼 (中世から近世へ)今川のおんな家長 寿桂尼 (中世から近世へ)感想
夫・氏親の死、そして子・氏輝の夭逝によって期せずして「おんな家長」の座につくこととなった寿桂尼。義元は彼女の実子ではなかったということで、2人の関係性は今まで思っていたものとはかなり異なってくることになる。当時の「おんな家長」の一般性、「男家長」との対比、「おんな家長」の歴史的な展開など、多くの問題を掘り起こしているという点でも面白い。
読了日:03月28日 著者:黒田 基樹


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