博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2020年7月に読んだ本

2020年08月01日 | 読書メーター
六国史以前: 日本書紀への道のり (歴史文化ライブラリー)六国史以前: 日本書紀への道のり (歴史文化ライブラリー)感想帝紀・旧辞、天皇記・国記、そして古事記がいかなる書であったのかを考察する。特に古事記が元来特定の書の名前ではなくカテゴリーを指すものだったという指摘はおもしろい。古人の名に仮託した「擬作」が前近代においては創作活動、自己表現として許容されていたのではないかという指摘は、日本古代のみならず東アジア古代の創作や学術を考えるうえで示唆的である。読了日:07月03日 著者:関根 淳

謎とき『風と共に去りぬ』: 矛盾と葛藤にみちた世界文学 (新潮選書)謎とき『風と共に去りぬ』: 矛盾と葛藤にみちた世界文学 (新潮選書)感想とんだ形で映画版が話題になってしまった『風と共に去りぬ』の翻訳者による作品論。映画版と原作との違い、原著者の半生や家系と物語との関係、文体論、2人で1人というスカーレットとメラニーとの関係など、多方面から作品を論じる。今話題になっている方面としては、後人による続編が差別意識への対抗手段になったという話が面白い。映画版の問題は、原著で「なにが書かれているか」に注目し、「どう描かれているか」の部分に目をつぶったという点にありそうだ。読了日:07月06日 著者:鴻巣 友季子

反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー感想ヒトが動物を家畜化することはヒトが家畜に奉仕することにながる、城壁は外敵から国家を守るとともに、国内の耕作者を外に出さないという役割も帯びている、国家を持たない移動性を誇る野蛮人は自分たちの富を得るために定住国家を必要とした等々、逆説から見る初期国家誕生の歴史。小麦・大麦などが政治的作物となった経緯、部族は国家による行政上のフィクションという指摘など、「古代」という時代を考えるうえで啓発的な記述が多い。読了日:07月08日 著者:ジェームズ・C・スコット

はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)感想哲学と宗教、科学との違いは何か?哲学的な思考や議論を進めるうえでどういうワナがあるのか?といったことを基礎の基礎から解説。サンデル流の思考実験のほとんどがニセ問題であり、導き出したい結論に合わせて設定されたものであるというのは、SNS上でいくらでも見本が出てきそうである。読了日:07月10日 著者:苫野一徳

情報生産者になる (ちくま新書)情報生産者になる (ちくま新書)感想論文の書き方というか研究のやり方、発表のしかた入門。本書を読めば研究テーマの立て方から研究内容を新書に落とし込むうえでの心構えまで、研究の流れが把握できる。「大きな問いは小さな問いの集合からできあがっている」「(時代区分の上で)十進法は歴史にとって単なる偶然にすぎない」「書きたいものより書けるものを」など、研究上の至言が多い。客観性・中立性は神話にすぎない、論文を書くことはひとつの政治的実践というのは、自然科学の分野ですらあてはまるだろう。読了日:07月12日 著者:上野千鶴子

高校世界史でわかる 科学史の核心 (NHK出版新書)高校世界史でわかる 科学史の核心 (NHK出版新書)感想ニュートンから核兵器、宇宙開発まで。研究成果の発表は当初学者同士の手紙のやりとりで行われ、王立協会に寄せられた手紙をまとめるという形で学術雑誌の刊行が開始されたとか、自然科学の方法を社会科学に取り入れようとして混乱を引き起こすといったことはニュートンの時代から繰り返されているという話が面白い。マイトナーと「ガラスの天井」、レーナルトらによるアインシュタインの業績評価を見ると、科学そのものは客観的・普遍的でありっても、研究の評価は必ずしもそうではないことになりそうだが。読了日:07月15日 著者:小山 慶太

文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点 (講談社現代新書)文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点 (講談社現代新書)感想「文字世界」「文字圏」という単位で読み解く文明論。箸食など食の作法と文字圏との関係、各文明の凝集力・同化力の度合いなど、個別のトピックには面白いものもあるが、肝心の文字・言語の話にそれほど分量を割いているわけではなく、深みもない。「文字」を基準とすることに著者なりのこだわりはあるのだろうが、そのこだわりの理由が見えてこない。読了日:07月17日 著者:鈴木 董

「中国」の形成 現代への展望 (シリーズ 中国の歴史)「中国」の形成 現代への展望 (シリーズ 中国の歴史)感想前半は「因俗而治」をキーワードに清朝による中国統治について読み解き、後半はこれを国民国家としての「中国」に転換させていく動きを負う。一方で官と民、政治と社会が乖離し、郷紳が両者をつなぐという旧社会のあり方は、都市のエリート層と農村の下層民という二元構造として新中国に持ち越され、文革によって一元化が図られたが、惨憺たる結果となったと位置づける。理解が図式的すぎるという問題はあるが、まとまりはよい。読了日:07月20日 著者:岡本 隆司

東條英機 「独裁者」を演じた男 (文春新書)東條英機 「独裁者」を演じた男 (文春新書)感想平民派を自認、軍官僚としては有能、何でも自分でやらなければ気が済まない、天皇の忠臣、そういった人物が総力戦の「総帥」たらんとし、「演じそこないの日本的名君」として東京裁判で散っていくまでを描く。有名なゴミ箱視察については色々と理屈を連ねているが、それはそれでダメだろうというか、結局は「演じそこないの名君」であることを端的に示すエピソードでしかないのではないかと感じた。また本書で展開されるような総力戦の指導者としての東條の実像は、昭和天皇の戦争責任問題ともつながるはずであるが…読了日:07月23日 著者:一ノ瀬 俊也

大元帥 昭和天皇 (ちくま学芸文庫)大元帥 昭和天皇 (ちくま学芸文庫)感想日中戦争、アジア太平洋戦争において、昭和天皇が「大元帥」として統帥部への下問を通じ、主体的、積極的に戦争指導を行っていたことを描き出す。その戦略眼には非凡なものがある一方で、戦況の推移に一喜一憂し、下問が悪影響をもたらすこともあった。また軍部の側も天皇の言葉を利用する一面もあった。そうした細かな論証を積み重ねることで、絶対君主に近い立場にあった昭和天皇の戦争責任を問うていく。近代君主と戦争との関わりは、明治天皇、あるいは英国王や独皇帝、露皇帝などと比較したらどうなるのかという点が気になる。読了日:07月26日 著者:山田 朗

北朝の天皇-「室町幕府に翻弄された皇統」の実像 (中公新書 (2601))北朝の天皇-「室町幕府に翻弄された皇統」の実像 (中公新書 (2601))感想自らの権威に不安があり、北朝天皇家に保証を求めた足利将軍家と、経済力がなく足利将軍家に保証を求めた北朝天皇家の相互依存関係を描き出す。将軍と天皇との個人的な相性はともかく、足利将軍家は「王家」の執事として振る舞わなければならない宿命にあった。その役割を担えなくなった時が足利将軍家終焉の時であった。天皇家とその後の織豊政権、徳川将軍家との関係はどのようだったかという所まで考えさせられる。読了日:07月29日 著者:石原 比伊呂

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