博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2018年12月に読んだ本

2019年01月01日 | 読書メーター
本年もどうぞよろしくお願い致します。

叢書 東アジアの近現代史 第3巻 日本人の朝鮮観はいかにして形成されたか叢書 東アジアの近現代史 第3巻 日本人の朝鮮観はいかにして形成されたか感想
「日本人の朝鮮観」に関わる話をオムニバス形式でまとめる。著者の専門を反映して近世の話が多い。個々の話は面白いけれど、全体としては何だかボヤけた印象になるかなと。「鮮人」の呼称をめぐる変遷、特に蔑称として機械的に取り扱われるべきではないという主張は、「社会的に蔑称として機能し続けたことを軽視するものではない」という著者の断りがついているが、現状ではその断り書き込みでも不安が拭えないように思う。
読了日:12月02日 著者:池内 敏

漢字学ことはじめ漢字学ことはじめ感想
今年3月に行われた日本漢字学会設立記念シンポジウムの講演録だが、小倉紀蔵「韓国人の世界観と漢字」で触れられている現代韓国での漢字事情を面白く読んだ。韓国人全体の漢字リテラシーの高低を評価するには色々難しい事情があるようだ。またハングル専用論者が中国文明からの離脱を念頭に置く文化的ナショナリストであるという点は、日本の反中右派が漢字廃止に対して煮え切らない態度を取っているのと好対照になっているように思う。
読了日:12月02日 著者:

闘争の場としての古代史――東アジア史のゆくえ闘争の場としての古代史――東アジア史のゆくえ感想
朝鮮古代史あるいは「東アジア」史の史学史や歴史認識をめぐる論集だが、戦後に韓国の研究者が主張した広開土王碑改竄説に、日本の研究者が強い批判を浴びせたことについて、「実証史学」の名のもとに自らの民族主義的な体質を自白した、碑文研究の歴史そのものが帯びる自らのイデオロギー性に無自覚と批判しているのが面白い。今日の歴史認識をめぐる議論も日本側が「客観性」「冷静さ」を装いつつも民族主義から自由になれていないのではないか。そういったことを考えさせられる。
読了日:12月06日 著者:李成市

戦国僧侶列伝 (星海社新書)戦国僧侶列伝 (星海社新書)感想
一口に戦国時代の僧侶とは言っても、たとえば遊行僧の同念・普光ら、貴族化しつつあった本願寺宗主の証如・顕如・教如、皇族・摂関家出身の覚恕や道興・道増、大名・将軍のブレーンとなった雪斎・崇伝、「不受不施」をめぐり生前と死後に二度にわたって流罪を命じられた日奥、そもそも正規の僧侶であったかどうか意見が分かれる前田玄以とでは、その活動の意義や歴史的位置づけが異なる。面白いアプローチの仕方を見つけたなと素直に感心させられた。
読了日:12月08日 著者:

国際法 (ちくま新書)国際法 (ちくま新書)感想
「グロティウスは国際法の父か?」というところから始まる国際法の網羅的な入門書。国際法は無力である、よく破られるという議論に対し、実のところ国内法もしばしば破られているが、かと言って法律など無意味な存在ということにはならないとか、国際裁判の判決が問題の解決をもたらさないという議論に対して、実は国内の裁判でも問題の解決をもたらさないことがしばしばあるといった対比による解説が面白い。国際法への懐疑は、国内法を含めた法律、あるいは「法の支配」そのものへの懐疑につながるのかもしれない。
読了日:12月12日 著者:大沼 保昭

歴史を知る楽しみ (ちくまプリマー新書)歴史を知る楽しみ (ちくまプリマー新書)感想
ペリー来航が日本史の画期となるのは当たり前。ならその少し前のビドゥル(ビッドル)来航はなぜペリー来航ほど知勇目されないのか?同時代の認識はどうだったのか?というところから始まる歴史学入門。「歴史学ではこういう具合に考えます」という見本を、いくつか著者自身や先人の研究・思考の成果を引きつつ、いろんな角度から見せてくれる。最後の「歴史家は文学者流の表現を時には取り入れねばならない」という提言は、個人的に頭の片隅に置いておきたい。
読了日:12月12日 著者:家近 良樹

渋川春海: 失われた暦を求めて (日本史リブレット人)渋川春海: 失われた暦を求めて (日本史リブレット人)感想
貞享暦への改暦をめぐって、朝鮮との対比など改暦の世界史的意義や保科正之ら当時の為政者や学者たちの儒教的教養のありようについて言及するほか、渋川春海自身の思想、特に彼が中国暦の伝来以前に日本固有の暦法があったと固く信じるなど日本中心の復古主義的な信念を持っていたこと、中国を敢えて「西土」と呼び、中国暦をそのまま受容することは中国の属国となることを意味すると信じていたことなど、小説『天地明察』からは見えてこない彼の思想的暗部というか限界、思想史的な位置づけについてまとめている点が面白い。
読了日:12月13日 著者:林 淳

陸奥宗光-「日本外交の祖」の生涯 (中公新書)陸奥宗光-「日本外交の祖」の生涯 (中公新書)感想
土佐立志社系の政府転覆計画に関与して投獄されるまでの自信過剰が目立つ前半生が印象的。外交官としては「剃刀大臣」(これは農商務大臣を務めた時からのあだ名ということだが)として、大国を相手に策を駆使したというイメージが持たれているが、実のところ条約改正ではもっと地味な役回りだったようだ。同じく外交官として活躍した青木周蔵との対比や、伊藤博文・西園寺公望・原敬らとの交わり、「美人」として知られる亮子夫人についても紙幅が割かれている。
読了日:12月14日 著者:佐々木 雄一

決定版 日中戦争 (新潮新書)決定版 日中戦争 (新潮新書)感想
日中戦争の展開と収拾についてまとめる第一部と第三部の間に各論となる第二部第五~七章を挟み込む構成で、その第二部の部分を面白く読んだ。第五章で中国側が的確に国外への「プロパガンダ」を行う一方で日本側が国際的な「宣伝戦」に失敗したとされているが、第七章では国民が対外状況を「持てる国と持たざる国」という構図で理解し、統制の強化や生活の窮乏化を英米の対日敵対政策のせいだと思い込んだとあり、当時の日本は対外的プロパガンダは失敗したが、対内的プロパガンダは大成功したということになるのではないか。
読了日:12月17日 著者:波多野 澄雄,戸部 良一,松元 崇,庄司 潤一郎,川島 真

増補 南京事件論争史: 日本人は史実をどう認識してきたか (平凡社ライブラリー)増補 南京事件論争史: 日本人は史実をどう認識してきたか (平凡社ライブラリー)感想
日本人は南京事件をどう見たか/どう見てこなかったかを総ざらいした本であり、かつ関連書籍の解題集ともなっている。南京事件に関する病巣は「南京事件は中国が日本を国際社会から放逐するために仕掛けてきた情報戦・思想戦の一手段であり、謀略である」という否定派の被害者認識、あるい強迫観念意識にあるということになるのだろうが、この強い「信仰」はどうすれば解消されるのだろうか。
読了日:12月20日 著者:笠原 十九司

内戦の日本古代史 邪馬台国から武士の誕生まで (講談社現代新書)内戦の日本古代史 邪馬台国から武士の誕生まで (講談社現代新書)感想
大枠の話の流れよりも、たとえば恵美押勝の乱が、奈良時代において臣下が王権に対して軍事力を直接に行使した唯一の事例であるが、その無残な失敗が日本の支配者層への負の教訓となったとか、平将門の新皇即位は『将門記』の作文ではないかとか、個別の内戦の位置づけや解釈を面白く読んだ。桓武天皇が中国王朝に倣った「小帝国」を再構築するうえで「征夷」必要としたという話は、更に一歩進んで、征伐の対象となった蝦夷などの存在自体が王朝の都合で「作られた存在」であり、「異民族」としての実態を持っていなかったのではないかと疑わせるが…
読了日:12月21日 著者:倉本 一宏

承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書 2517)承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書 2517)感想
文武両道で何事にもエネルギッシュであるが、ワンマンであることが敗北の原因となったという後鳥羽院と、将軍としての威信をちゃんと備えていた源実朝という人物像が新鮮。和歌などの文化面からの分析が特徴的だが、「正攻法」による承久の乱論はいくらでもやりたがる人がいるだろうし、これはこれでよい。王朝の伝統的権威や官職補任をありがたがり、貴族との人脈形成のために教養を磨いたさまなど、当時の武士の処世を描いているあたりも面白い。
読了日:12月24日 著者:坂井 孝一

オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史 (中公新書 2518)オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史 (中公新書 2518)感想
日本で600年にわたるオスマン帝国史全体を扱う試みは半世紀ぶりとのことだが、帝国のトルコ性の推移など、王権や国家のアイデンティティの変遷、イェニチェリやウラマー、母后、宦官といった政治的アクターの変化、スルタンの兄弟殺しの慣行が廃された影響、同じトルコ系の侯国や西欧諸国との力関係の変化など、多くの問題が通時的に追えるようになっている。16世紀末以降の帝国を衰退期・停滞期ではなく変革期と位置づけている点、イェニチェリによる反乱を王権の濫用に対する異議として、その民主制を積極的に評価しているのが印象的。
読了日:12月28日 著者:小笠原 弘幸


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