博客 金烏工房

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『百家講壇 孔慶東看武侠小説』その4(完)

2007年10月10日 | TVドキュメンタリー
『孔慶東看武侠小説』第12集~最終第14集まで鑑賞。

第12集「金庸小説的『短平快』」
『越女剣』・『鴛鴦刀』・『白馬嘯西風』の3つの中・短編について論じる。『越女剣』は金庸作品の中で最も短いが、愛情・歴史・神話・政治など様々な要素が詰まっている。またこの作品に登場する范蠡は、いわば革命を成し遂げた後であっさりと自らの地位を捨てて隠退したという点で、金庸が最も羨んだ歴史上の人物である。『鴛鴦刀』は最も喜劇的な作品で、金庸作品でしばしば見られる宝探しモデルを採る。『白馬嘯西風』は主人公の李文秀を中心に登場人物の片思いが連鎖する作品で、人類が永遠に解決できない問題のひとつ、すなわち民族間の対立を描く。

第13集「飛狐的故事」
『雪山飛狐』は百年にわたる歴史的背景がある物語を1日の物語に縮めており、西洋古典主義戯曲の手法「三一律」(1つの物語を1つの場所で1日の中で語る)を採っている。この物語の影の主人公は胡一刀で、他の人物の口を借りてその生涯が語られるが、これは旧来の章回小説とは異なる新しい文芸小説の手法であった。ただ、この作品では本来の主人公である胡斐の個性がほとんど描かれず、それを補うために彼の成長の過程を示す物語として『飛狐外伝』が書かれた。『飛狐外伝』の胡斐は見も知らぬ人々の利益のために戦う儒教的な「大丈夫」である。他人の利益のために戦うというのは共産党が天下を得た理由であり、『飛狐外伝』はその意味では革命文学と言えよう。

第14集「品読『書剣恩仇録』」
『書剣恩仇録』は金庸の処女作であり、彼を有名にした作品でもある。乾隆帝が実は漢族であるという伝承は、彼以後のすべての清朝皇帝が漢族であることをも示しており、本当は満州族に漢族の江山が奪われていないと、漢族が自らを騙すことに繋がる。これは魯迅が『阿Q正伝』で批判した精神的勝利法である。主人公の陳家洛は伝統的な文人・才子の長所と欠点を併せ持っており、金庸は陳家洛の描写を通じて伝統的な文人のあり方を批判している。小説を通じて中国人の国民性を批判するという手法は、金庸が学校で教育を受けた1930~40年代の頃の気風によるもので、魯迅による国民性批判を継承している。

金庸小説が一面で魯迅の小説のあり方を継承しているという指摘は、昨今中国の国語教科書で魯迅の作品が外されて金庸の『雪山飛狐』が新たに加えられたことが物議を醸していることからすると、何やら感慨深いものがあります(^^;) しかしとなると、中国人の国民性を主人公の韋小宝を通じて明るく肯定的に描き出した『鹿鼎記』をどう評価するかという問題が出て来るわけですが……

新派武侠小説三大家の中で金庸が筆頭とされるのは、新しいものを取り入れつつもきっちり中国通俗小説の伝統を踏まえているからなんでしょうね。この辺り、梁羽生は伝統の方に寄りすぎる観があり、古龍は新しい手法に寄りすぎていていまいち落ち着かないということなのかもしれません。

以上で孔慶東先生の講義は終了ですが、取り扱われる作品にだいぶ偏りがありましたね。『射英雄伝』・『天龍八部』などについて頻繁に言及される一方、『碧血剣』・『笑傲江湖』・『倚天屠龍記』についてはあまり言及されず、『侠客行』に至っては記憶の限り全く扱われませんでした。

このシリーズ、正直面白い・面白くないで評価すると、かなり微妙な評価にならざるを得ません(^^;)  もっとも内容が初心者向けなのは『百家講壇』シリーズ全体の方針で、致し方のないところでしょうけど。

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