博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2018年7月に読んだ本

2018年08月01日 | 読書メーター
世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活 (ちくま新書)世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活 (ちくま新書)感想
高校の地理の復習のような本。自然地理の部分が網羅的なのに対し、人文地理というか民族誌的な部分が個別的・各論的になるのは紙幅上やむを得ないのだろうか。小ネタが楽しいのもこの部分なのだが、後は自分で旅行するなり現地で暮らすなりして内容を補充せよという著者のメッセージが託されているのかもしれない。
読了日:07月04日 著者:水野 一晴

歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏感想
各分野の研究者が高校世界史の記述の問題点や変遷を追うという内容かと思いきや(当然そういう話も多く盛り込まれているのだが)、教科書を執筆する立場や入試問題を作る側からの見方 教科書を検定する側の言い分、教科書を採択する側である高校教員による「現場」からの言い分も収めており、「ここが変わった歴史教科書」式の類書と比べて厚みのある内容となっている。
読了日:07月07日 著者:長谷川 修一,小澤 実

あだ名で読む中世史―ヨーロッパ王侯貴族の名づけと家門意識をさかのぼるあだ名で読む中世史―ヨーロッパ王侯貴族の名づけと家門意識をさかのぼる感想
ヨーロッパ中世の「短軀王」「獅子心王」の類のあだ名から出発して、それが公然性を持つものであったこと、中世の命名法と主導名の誕生、祖先の認識、家系・同属意識・家名の形成と、議論がどんどん広がっていく。特に同属意識が可変的であるという話は日本・中国など他の地域の王侯を考える際に示唆を与えてくれる。
読了日:07月10日 著者:岡地 稔

世界史序説 (ちくま新書)世界史序説 (ちくま新書)感想
昨今流行のグローバル・ヒストリーを、西洋中心史観から脱却したものではないと批判し、梅棹忠夫・森安孝夫・杉山正明らの研究や、「東部ユーラシア」の視点も取り入れつつ、日本人によるアジアから見た世界史を構想する。アジア史は中世を持たなかったとする点など面白い指摘もあるが、全体として西洋中心史観による通史の裏返しにしかなってないのではないかという気もする。また、日本史はアジア史と本当に違うのかという疑問もある。
読了日:07月12日 著者:岡本 隆司

古生物学者、妖怪を掘る―鵺の正体、鬼の真実 (NHK出版新書 556)古生物学者、妖怪を掘る―鵺の正体、鬼の真実 (NHK出版新書 556)感想
鵺や一つ目入道など妖怪として伝えられている存在は、実は実在の動物だったのではないかという視点から古文献の記述を探る。ならば実在の動物と妖怪の境目は何だろう?と疑問に感じたところで用意されている、「妖怪」は「ゴミ箱分類群」としてのカテゴリーだったのではないかという指摘に納得。本書は古生物学と妖怪学との連携のたまものだが、古生物学と美大との連携についても言及されており、多分野間の連携についても考えさせられる。
読了日:07月15日 著者:荻野 慎諧

近代日本の中国観 石橋湛山・内藤湖南から谷川道雄まで (講談社選書メチエ)近代日本の中国観 石橋湛山・内藤湖南から谷川道雄まで (講談社選書メチエ)感想
戦前・戦後の主に東洋史学者による中国観や議論を追う。明清をつきつめて研究しなかった内藤湖南と明清を専門とした矢野仁一との対比、時代区分論争で対立しているようで共通の議論の土台に乗っていた歴研派と京都学派の宮崎市定の話など、話題の詰め込みようを見ると、戦前・戦中編と戦後編で分冊した方が良かったようにも思う。「中国という対象は、きわめて難解」と言うが、アメリカや西欧、インドなど他地域を対象とするより難解なのだろうか?いずれにせよ問題なのは、むすびのタイトルにあるように「日本人のまなざし」なのだろうが…
読了日:07月18日 著者:岡本 隆司

古典学入門 (岩波文庫)古典学入門 (岩波文庫)感想
著者は『源氏物語』の研究で著名であるが、東西の古典を対象とし、古典の損傷・書写の誤りから始まり、本文批評(テキストクリティーク)、解釈の問題、「原本」はどのように生成されるか、源泉(出典)研究等々、古典を研究の対象として扱ううえで考えなければならないことがあらかた盛り込まれている。
読了日:07月23日 著者:池田 亀鑑

戦国大名と分国法 (岩波新書)戦国大名と分国法 (岩波新書)感想
内容が整理されておらず、結城政勝が独力でまとめたのではないかという「結城氏新法度」、犯罪被害に遭った場合は被害者が自分で証人=容疑者をつかまえなければならなかった「塵芥集」など、戦国大名による分国法の実際と当時の社会のあり方を描く。分国法を定めた大名たちの多くが悲惨な運命をたどっているというパラドックスは、中国史では法治にこだわった秦の運命とも通じる問題かもしれない。
読了日:07月23日 著者:清水 克行

物語 アラビアの歴史-知られざる3000年の興亡 (中公新書)物語 アラビアの歴史-知られざる3000年の興亡 (中公新書)感想
全体の半分以上がイスラーム以前の時期に充てられているのが出色。その前半部ではローマ(→ビザンツ)帝国、サーサーン朝、アクスム王国の「三強国」に囲まれたアラビア半島の諸勢力の興亡を描く。イスラームの誕生についても、イスラームを「ネイティビスト・ムーブメント」のひとつと位置づけたり、イスラーム誕生後は政治・経済の中心地がシリアやイラクに移り、半島が却って過疎な田舎に逆戻りし、それが非主流派が半島に流れ込む要因となったりと、面白い着眼点によってまとめられている。
読了日:07月26日 著者:蔀 勇造

牟田口廉也 「愚将」はいかにして生み出されたのか (星海社新書)牟田口廉也 「愚将」はいかにして生み出されたのか (星海社新書)感想
インパール以前の牟田口の軍歴にかなりの紙幅を割かれている。二二六事件のあおりで左遷的に北京の前線勤務に回されて以来、「葉隠武士」的な性格の牟田口が、その時々の現場で「支那事変を引き起こしたのは自分であるからその埋め合わせをせねばならない」というような身勝手な責任感で職務に精励したことがインパール作戦につながっていくさまを描くと同時に、牟田口の上官河邊正三の対応や日本陸軍の人事自体も問題とする。不合理な人事によるミニインパールは今日の日本でもあちこちに見られるのでは思わせられる。
読了日:07月29日 著者:広中 一成

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