博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2017年9月に読んだ本

2017年10月01日 | 読書メーター
儒教 怨念と復讐の宗教 (講談社学術文庫)儒教 怨念と復讐の宗教 (講談社学術文庫)感想
旧版に新出資料に基づいた加筆があったので購入。本当に歴代の儒者が自ら王者たらんとして挫折した祖師の怨念を晴らすべく、孔子を王者であると偽る運動を続けたのだとしたら、キリスト教と同様にその意図を特段隠す必要がなかったのではないだろうか、また孔子素王説や康有為の孔教運動などは果たして一連のものとしてつなげてしまってよいのだろうか、あくまでもその時代の文脈の中で現れてきたものではないだろうかという、旧版を読んだ時の疑問は今回の新版でも晴れなかった。
読了日:09月01日 著者:浅野 裕一

文明に抗した弥生の人びと (歴史文化ライブラリー)文明に抗した弥生の人びと (歴史文化ライブラリー)感想
縄文文化と弥生文化について、従来のような在地系の文化と渡来系の文化の対立という構図には敢えて落とし込まず、金属器の導入などで、実用的な武器と階層社会の導入を拒絶し、非実用的な銅鐸を偏愛して平等社会を保とうとしたりと、人々が消極的な形で新しい文化の受け入れを進めていったという方向で議論を展開する。また、考古学の研究がどのような手順で進められるのかということや、考古学の議論も時代の影響を受けているということに触れている点も評価できる。
読了日:09月02日 著者:寺前 直人

海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書)海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書)感想
個々の海賊のエピソードよりも、中近世の地中海の海賊がキリスト教勢力とイスラーム勢力との対立を背景に生まれてきたとか、主権国家体制の成立に伴う各国での国軍の編制や海洋をめぐる規範の形成により、海賊や私掠船の存在が容認されなくなっていったこと、近年のソマリアの海賊はソマリアが「破綻国家」となったことを背景に出現した点など、海賊をめぐる歴史的文脈の話が面白い。
読了日:09月05日 著者:桃井 治郎

魏晋南北朝史のいま (アジア遊学 213)魏晋南北朝史のいま (アジア遊学 213)感想
北周の武帝の「戦う鮮卑皇帝」としての実像と「天下統一をめざした英主」としての虚像を問題にした「北周武帝の華北統一」、北魏などの墓誌銘で、書丹された筆跡と石刻された筆跡とが一致しないという問題を扱った「書法史における刻法・刻派という新たな視座」が印象に残った。経済史関係の項目を設けなかったという編集方針に、研究者の関心の変化を感じる。
読了日:09月07日 著者:

儒教の歴史 (宗教の世界史)儒教の歴史 (宗教の世界史)感想
日本や朝鮮での展開、現代社会での展開も視野に収め、配分としてはバランスの取れた儒教史になっていると思う。ただ、本書が「宗教の世界史」の一冊として刊行されたことを思うと、「儒教」で良いのか(=儒学、儒家思想と位置づけるべきではないのか)という疑問はやはり拭えないが……
読了日:09月10日 著者:小島 毅

中国史書入門 現代語訳 隋書中国史書入門 現代語訳 隋書感想
抄訳だし、「志」の部分がない『隋書』の翻訳なんて…と思いながら読み進めたが、本紀を中心に主要な人物の列伝を配して隋室の興亡を追えるようにし、必要な情報はコラムで補足しと、構成に工夫が見られた。次は五代史を期待したい。
読了日:09月13日 著者:

中国史談集 (ちくま学芸文庫)中国史談集 (ちくま学芸文庫)感想
中国の風俗習慣や民間信仰の研究で知られる著者による、近世中国の史談。偽皇族・刺青・駙馬と公主の悲惨な結婚生活・男色・宗教結社など話題は多岐にわたるが、中国人倭寇を「にせ倭寇」と断じているあたりは時代的な限界を感じる。研究の細分化によってこの手の史談も粗が目立つようになってきているのかもしれない。
読了日:09月21日 著者:澤田 瑞穂

牛車で行こう!: 平安貴族と乗り物文化牛車で行こう!: 平安貴族と乗り物文化感想
牛車そのものだけでなく、そこから見えてくる平安時代の生活、身分、人間関係、更に徒歩や騎馬といった牛車以外の交通手段との使い分け、平安時代以後の展開など、乗り物そのものだけの話に終わってないのが面白い。文化史研究の見本になる書だと思う。
読了日:09月23日 著者:京樂 真帆子

斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史感想
伊勢斎宮が「都市」と言えるほどの規模と区画を持ち、専門の行政機関としてやはり相応の規模を誇る斎宮寮が置かれたことや、また斎宮が、大中臣氏による宮司や禰宜が統括する伊勢神宮とは別個の組織であったことなどの制度面と、鎌倉後期から南北朝期にかけて斎宮というシステムが「賞味期限切れ」を迎える過程を面白く読んだ。
読了日:09月27日 著者:榎村 寛之

叢書 東アジアの近現代史 第2巻 対立と共存の日中関係史――共和国としての中国 (叢書東アジアの近現代史)叢書 東アジアの近現代史 第2巻 対立と共存の日中関係史――共和国としての中国 (叢書東アジアの近現代史)感想
「憲政への夢」を軸に描く中国近現代史。民国期に美濃部達吉の学説が高く評価されるなど、この方面で意外に日本の影響が強かったことや、「思想統制」が取り沙汰されがちな人民共和国の時期も含めて、憲政に関して様々な方向性が模索されていたことをまとめる。終盤に中国と台湾に挟まれた第三極としての香港の役割について触れられていたが、そのような役割は中国の改革開放と台湾の民主化によって希薄化しつつあるのではないかと思った。続編として現代台湾での憲政の展開、あるいは日本も含めた東アジア全体の憲政史が望まれる。
読了日:09月30日 著者:中村 元哉

コメント
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