博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『ローマ人の物語 終わりの始まり』

2007年09月13日 | 世界史書籍
塩野七生『ローマ人の物語29~31 終わりの始まり』(新潮文庫、2007年9月)

今年も文庫版『ローマ人の物語』の季節がやって来ましたが、今回はマルクス・アウレリウスからその子のコモドゥス(映画『グラディエーター』で悪役となった皇帝ですね。この映画については本文でも言及されてます)、そしてコモドゥス暗殺後の内乱を経てセプティミウス・セヴェルスの治世までを扱っています。

通常はマルクス・アウレリウスを五賢帝の一人として数え、この人の時代までがローマ帝国の最盛期とされるのですが、本書ではそのひとつ前のアントニヌス・ピウスの時代に帝国衰亡の種がまかれ、マルクス・アウレリウスの時代には衰退期に入ったとしています。

皇帝となってから先帝の統治のツケを払わされるかのように異民族の侵入に悩まされ、もともと丈夫でない体に鞭を打って治世の多くを前線で過ごし、遠征先で病没することになったマルクス・アウレリウス。若くしてその後を継いだコモドゥスは暴君・暗君ということでとかく評価が低く、『グラディエーター』や『ローマ帝国の滅亡』では父親を暗殺して、本来他の有能な将軍に与えられるはずだった帝位を奪い取ったということになっていますが、本書では実際にはマルクス・アウレリウス生前のコモドゥスには暴君となるような兆候が見られず、帝位の世襲をマルクス・アウレリウス自身も周囲も当然のことと認識していたこと、またコモドゥスに帝位が譲られなければ、後に帝位を巡って内乱が起こっていた可能性を指摘し、彼が即位したことについては弁護をしています。

そのコモドゥスが暴君へと変貌するきっかけとなったのが、即位して二年後の長姉ルチッラによるコモドゥス暗殺未遂事件だったということですが、このルチッラ、『グラディエーター』では賢婦人で弟に虐げられるという役所だったよなあ…… 実際はカリグラの妹でネロの母親の小アグリッピーナと同じようなタマだったようです……

そしてそのコモドゥスも側近に暗殺されてしまいます。過去にカリグラやネロ、ドミティアヌスといった暴君が死んだ時には後継皇帝が混乱を収束させ、帝国を一層の繁栄へと導きましたが、今回の場合は後継となったペルティナクスもあっけなく暗殺。混乱を収拾したセプティミウス・セヴェルスも皇帝としては功より罪の方が勝るというありさま。指導者の交替による自浄作用がうまく働かなくなったというあたりからも帝国の衰退が見て取れます。次巻ではセヴェルス朝を経ておよそ50年の間に20名前後の皇帝が乱立したという軍人皇帝時代へと突入していくはずですが……
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